

監修医師:
林 良典(医師)
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目次 -INDEX-
帯状疱疹後神経痛の概要
帯状疱疹後神経痛は、帯状疱疹が治癒した後、皮膚に発疹が消えたにもかかわらず、持続的に神経に痛みが残る症状を指します。
この痛みは主に神経が損傷されることによって生じ、痛みの強さや持続期間は個人によって異なります。痛みは数週間で治まることもあれば、数ヶ月、さらには数年にわたって続くこともあり、日常生活に深刻な影響を与えることがあります。
帯状疱疹後神経痛は、特に50歳以上の高齢者に多く発症することが知られています。免疫機能の低下により、帯状疱疹にかかるリスクが高まるためです。日本においても、高齢化社会が進行する中で、この疾患に悩む患者数は増加傾向にあります。また、性別では、男性よりも女性に多い傾向があると報告されています。
主な症状としては、帯状疱疹の治癒後も持続する「灼熱感」や「刺すような痛み」が挙げられます。これらの痛みには、時折、軽く触れただけでも激しくなる「アロディニア」という状態も含まれます。
帯状疱疹後神経痛の原因
帯状疱疹後神経痛の主な原因は、水痘・帯状疱疹ウイルスです。このウイルスは、通常、子どもの頃にかかる「水ぼうそう」の原因でもありますが、感染後も神経細胞の中に潜伏し続ける特徴があります。免疫機能が正常であれば問題はないものの、加齢や病気などによる免疫力の低下により、このウイルスが再活性化し、神経にダメージを与えて帯状疱疹を引き起こします。
帯状疱疹の発症中、ウイルスは感覚神経を直接攻撃し、神経の炎症や損傷を引き起こします。これにより、神経が異常な信号を送るようになり、痛みが生じます。帯状疱疹が治った後も、この損傷が修復されずに神経痛が持続することが帯状疱疹後神経痛の原因です。特に高齢者では、神経の修復能力が低下しているため、帯状疱疹後神経痛が長引く傾向があります。
また、帯状疱疹の発症時に痛みが強い場合や、発疹が広範囲にわたる場合には、帯状疱疹後神経痛のリスクが高まるとされています。免疫抑制剤の使用や、糖尿病などの免疫機能低下を伴う病気を持つ患者さんも、帯状疱疹後神経痛を発症しやすい傾向があります。
帯状疱疹後神経痛の前兆や初期症状について
帯状疱疹後神経痛の前兆としては、まず帯状疱疹自体の発症が重要な指標となります。帯状疱疹が発症すると、皮膚に特徴的な水疱が現れ、その部位に激しい痛みが伴います。この痛みは、発疹が消失した後も続くことがあり、これが帯状疱疹後神経痛の初期症状となる場合があります。
痛みの感じ方は個人差があり、鈍い痛みや焼けるような痛み、時には電撃のような痛みとして表現されることがあります。また、軽く触れただけで強い痛みを感じる「アロディニア」という症状も特徴的です。特に、帯状疱疹が顔面や胸部に発症した場合、その部位に神経痛が残ることが多く、顔面の場合には日常生活に大きな支障をきたすこともあります。
痛みの程度により、軽度から重度まで様々で、軽度の場合でも持続的な不快感が残り、重度の場合には寝たきりになるほどの痛みを感じることがあります。痛みが3ヶ月以上持続する場合は、帯状疱疹後神経痛と診断されることが一般的です。診療科としては、皮膚科や神経内科が主に対応し、特に痛みが持続する場合や日常生活に支障をきたす場合は、神経内科やペインクリニック科での治療が推奨されます。
帯状疱疹後神経痛の検査・診断
帯状疱疹後神経痛の診断は主に臨床診断に基づきます。医師は患者さんの帯状疱疹の病歴と現在の痛みの状態を確認し、神経痛が発症しているかどうかを判断します。通常、発疹が治った後に痛みが3ヶ月以上持続する場合は帯状疱疹後神経痛と診断されます。
鑑別診断としては、ほかの神経障害性疼痛、例えば糖尿病性神経障害やがん性神経痛などとの区別が重要です。帯状疱疹を発症していなくても、これらの疾患によって同様の神経痛が現れることがあるため、必要に応じて血液検査や追加の画像検査が行われることがあります。
帯状疱疹後神経痛の治療
帯状疱疹後神経痛の治療では、神経が損傷しているため、通常の鎮痛薬(NSAIDsやアセトアミノフェン)では十分な効果が得られないことが多いです。そのため、神経障害性疼痛に特化した薬物療法が中心となります。神経障害性疼痛に有効とされる薬の中でも、ミロガバリンやプレガバリンは、帯状疱疹後神経痛の第一選択薬としてよく使用されます。これらの薬は、神経の過敏な反応を抑え、痛みの信号が過剰に伝わるのを防ぐ役割を果たします。
また、三環系抗うつ薬やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)も、神経痛の治療に効果的です。これらの薬は、脳内の神経伝達物質の働きを調整し、痛みの感覚を軽減する作用があります。
痛みが強い場合には、神経ブロックも考慮されます。これは、局所麻酔薬やステロイドを痛みの原因となっている神経に直接注射し、一時的に痛みの伝達を遮断する方法です。
また、帯状疱疹を適切に治療することで、帯状疱疹後神経痛の予防や症状の軽減が期待できます。使用される抗ウイルス薬には、アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルがあり、これらの薬はウイルスの増殖を抑えることで、神経へのダメージを減らす働きがあります。特に、発疹が出てから72時間以内に治療を開始することが推奨されており、早期に抗ウイルス薬を使用することで、神経への影響を最小限に抑え、帯状疱疹後神経痛のリスクを下げることができます。
帯状疱疹後神経痛になりやすい人・予防の方法
帯状疱疹後神経痛は、高齢者に多く見られます。50歳以上の人、特に免疫力が低下している場合や、帯状疱疹の発疹が広範囲にわたる場合にリスクが高まります。また、糖尿病などの基礎疾患を持つ人や、免疫抑制療法を受けている人もリスクが高いことが知られています。
帯状疱疹の予防には、ワクチン接種が効果的です。主に2種類のワクチンがあり、それぞれに特徴と効果の違いがあります。従来の生ワクチンは、弱毒化されたウイルスを使用しており、50歳以上の人を対象に皮下注射で接種されます。このワクチンは帯状疱疹やその後の神経痛をある程度防ぎますが、効果が持続する期間が限られており、長期的な予防にはやや効果が弱いとされています。また、生ワクチンは免疫力が低下している人には適さない場合があります。
一方、不活化ワクチンは、ウイルスを不活化して使用するため、免疫力が低下している人にも安全に使用できる点が大きな特徴です。さらに、生ワクチンに比べて予防効果が高く、帯状疱疹やその後の神経痛の発症をより効果的に防ぎます。不活化ワクチンは筋肉内に2回接種する必要がありますが、効果が10年以上と長く続き、安定した予防効果を発揮します。このため、特に高い予防効果と長期間の効果を期待する場合には、不活化ワクチンが推奨されます。
また、帯状疱疹が発症した際には、早期の治療が帯状疱疹後神経痛の予防において重要です。抗ウイルス薬を早期に使用することで、ウイルスの活動を抑え、神経へのダメージを最小限に抑えることができ、神経痛のリスクを減らすことができます。痛みが現れた場合にも、早期に適切な治療を行うことで、痛みの悪化や神経痛への進行を防ぐことが可能です。
参考文献




