監修医師:
山田 克彦(佐世保中央病院)
猩紅熱の概要
猩紅熱(しょうこうねつ)は、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)によって引き起こされる全身性の細菌感染症です。数日の潜伏期間を経たのち、急な咽頭痛と発熱、皮膚の発疹、苺のようにぶつぶつと舌が腫れることなどが猩紅熱の特徴的な症状です。発疹は首や腋窩、鼠径部からはじまり、全身へと広がります。発疹は5〜6日で消失しはじめ、その後、皮膚の膜様落屑(まくようらくせつ)が全身に広がります。
猩紅熱は抗生物質の治療により改善されますが、合併症としてリウマチ熱や急性糸球体腎炎を引き起こす可能性もあり、適切な治療と経過観察が重要です。
猩紅熱は5〜10歳の幼児から学童期の小児に多いとされており、比較的強い感染力で飛沫感染や接触感染により感染します。冬の時期と春から初夏にかけた時期の流行のピークが報告されています。
猩紅熱の原因
猩紅熱の原因は、A群溶血性レンサ球菌という細菌です。A群溶血性レンサ球菌は、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)という菌種名で呼ばれており、この菌の産生する発熱毒素(発赤毒素)によって猩紅熱が発症します。
感染者の咳やくしゃみに含まれた細菌を吸い込むことによる飛沫感染や、細菌が付いた手で口や鼻に触れることによる接触感染により感染します。
猩紅熱の前兆や初期症状について
2〜5日の潜伏期間を経た後の突然の高熱や、咽頭炎や扁桃炎によるのどの痛みが初期症状となることが一般的です。乳幼児では咽頭炎、年長児や成人では扁桃炎が生じることが多いとされています。嘔吐を伴うこともあり、上あごの奥への赤い発疹や、舌がいちごのようにブツブツと腫れる(苺舌)症状がみられます。
発熱開始後12〜24時間で、首や脇の下、足のつけ根などから赤い点状の発疹がみられはじめ、全身へと広がります。発疹は紙やすりのような手触りをしています。顔面への発疹はなく、額や頬が赤く紅潮し、口の周囲のみが蒼白にみえることが(口囲蒼白)が特徴的です。全身に広がった発疹は5〜6日で消失しはじめ、1週目の終わりごろから顔面の皮膚がむけて剝がれ落ちる(膜様落屑)ようになり、3週目までに全身に広がります。
リウマチ熱や急性糸球体腎炎を合併することもあるため、これらの疾患を予防するためにも早期診断と適切な治療が重要です。
猩紅熱の検査・診断
猩紅熱の症状である咽頭痛と発熱などは、風邪やほかの感染症でもみられる症状であるため他の病気との鑑別が必要です。特徴的な症状や臨床所見により猩紅熱が疑われる場合は、猩紅熱の原因となっている病原体や抗原の検出、抗体検査を実施することで確定診断が行われます。
迅速診断キット
多くの医療機関では、迅速診断キットを用いてのどの粘膜から採取した検体を調べて診断する方法が用いられています。迅速診断キットは特異度と感度が高く、数分で結果が出るため、早期診断に有用です。
細菌培養検査
のどの粘膜から採取した検体を培養し、溶連菌を分離する検査です。迅速診断キットと比較すると培養に時間がかかりますが、感染している溶連菌の種類について確認することができます。
血液検査
血液検査により、血液中の病原体に対する抗体(抗streptolysin‐O 抗体(ASO)、抗streptokinase 抗体(ASK)など)を確認します。猩紅熱が起きている場合はこれらの抗体が基準値より高くなります。
猩紅熱の治療
猩紅熱の治療にはペニシリン系の抗生物質を使用することが一般的で、通常10日以上の服用が必要になります。セフェム系の抗生物質を使用することや、ペニシリンアレルギーのある方にはエリスロマイシン、クラリスロマイシンなどを使用することもあります。
適切な抗生物質の治療が行われれば、治療開始後24時間以内に感染力はほぼなくなるとされています。自己判断で抗生物質を中止すると、再発や薬剤耐性菌の発生するリスクを高めることがあるため、症状が治まっても医師の指示を守って必ず最後まで服用するようにしてください。
猩紅熱の合併症として、感染後ある程度時間が経ってから、まれにリウマチ熱や急性糸球体腎炎が引き起こされることがあります。これらの合併症は治療が不十分の場合に発症リスクが高まるため、適切に抗生物質を使用し、注意深く経過を観察しましょう。
猩紅熱になりやすい人・予防の方法
猩紅熱は5〜10歳の幼児から学童期の小児に多いとされていますが、A群溶血性レンサ球菌が産生する発熱毒素(発赤毒素)に対して免疫のない大人も発症します。潜伏期間での感染性については明らかになっていませんが、A群溶血性レンサ球菌の感染力は比較的強く、飛沫感染や接触感染により感染します。人との接触機会が増加するときに感染しやすく、家庭や学校、保育施設での集団感染も多いです。
予防には、マスクの着用により感染者の咳やくしゃみなどの飛沫を避けること、手洗いうがいの徹底など基本的な感染予防対策が有効です。
猩紅熱の原因菌であるA群溶血性レンサ球菌による咽頭炎は「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」として5類感染症の疾患で位置付けられています。医療機関から毎週患者数が報告されるため、流行時には人混みなどの密集した場所を避けることも重要です。
参考文献