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小児がん
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

小児がんの概要

小児がんとは、子どもに発生するがんのことを指し、日本における年間発症数は約2500人 (2016年時点) とされています。代表的なものには白血病、脳腫瘍、骨肉腫などがあります。小児がんは、成人のがんとは異なり、原因が生活習慣によるものは少なく、多くの場合、遺伝的要因が関係していると考えられています。近年は生存率も向上していますが、典型的な症状を見せない場合も一定数あり、早期発見を難しくしています。また、治療には化学療法放射線治療手術が行われることが多いです。 (参考文献1, 2)

小児がんの原因

小児がんの原因については、まだ完全に解明されていませんが、遺伝的な要因と環境的な要因が関係していると考えられています。

まず、遺伝的な要因として、例えば白血病の一部の種類は家族性疾患であると言われています。小児の急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群のうち30〜50%は家族性に発症する可能性があります。 (参考文献3)

次に、環境的な要因については、大人のがんに比べて小児がんでは関係性が不明な場合が多いです。喫煙や飲酒、食生活といった生活習慣が大人のがんの発症に関係することが多いのに対し、子どもの場合、生活習慣はまだ未発達であるため、こうした要因は関与しにくいとされています。一方で、一部の小児がんは母親の妊娠中の環境が関与している可能性が示唆されています。例えば母親の葉酸摂取不足や妊娠糖尿病、妊娠時期の胎児の小ささなどは神経芽腫と関連しているかもしれないという研究もあります。ただし、こうした影響についてはまだわからないことが多く、結論が出ていません。 (参考文献4)

小児がんの前兆や初期症状について

小児がんの前兆や初期症状は、典型的な症状を示さない場合も10〜15%程度あるため見逃されがちですが、いくつか注意すべきサインがあります。

まず、よく見られる症状は持続的な疲れやすさ顔色の悪さです。子どもが異常に疲れやすく、遊びたがらない、足を引きずっているといった状態が続く場合、要注意です。また、発熱が続く場合も注意が必要です。通常の風邪や感染症で熱が下がらないとき、あるいは原因不明の発熱が続く場合、小児がんの可能性もあります。そして、ダイエットしているわけでもないのに体重が減り続ける場合も気をつけましょう。食事量は変わっていないのに数か月の間に何キロも体重が減っている場合は小児がんの可能性もあります。

次に、体の一部に腫れしこりが見られることも初期症状の一つです。特に6歳未満の子どもの頭や首などに硬いしこりができる場合は神経芽腫や横紋筋肉腫など、7歳以上の子どもの場合はリンパ腫が疑われます。また、体の一部分に痛みが持続する場合にも要注意です。骨や関節に痛みがある場合、骨肉腫の可能性があります。脳腫瘍が原因で治らない頭痛が続く場合もあります。そして、鼻血が頻繁に出たり少しぶつけただけで青あざができたりする場合も気をつけましょう。白血病により出血しやすくなっている可能性があります。

さらに、目の異常も小児がんのサインになることがあります。例えば、子どもの瞳が光を反射して白っぽく見える場合、網膜芽細胞腫の初期症状である可能性があります。子どもの目がいつもと違う場合は気をつけましょう。

これらの症状が必ずしもがんを意味するわけではありませんが、いくつかの症状が同時に見られる場合や、症状が長引く場合には、念のため医師に診てもらうことが大切です。早期発見が治療の成功に大きく影響するため、注意深く見守ることが重要です。 (参考文献1,5)

小児がんの検査・診断

小児がんの検査としては、血液検査画像検査生検などが行われます。症状などから小児がんを疑った場合にこれらの検査を必要に応じて行っていきます。

まず、白血病などが疑われる場合に一般的に行われるのが血液検査です。血液の成分や細胞の数などを調べ、異常な血球の有無などを確認します。また、尿検査も行われることがあります。尿中に異常な物質が含まれていないかを確認します。

次に、脳腫瘍や骨肉腫、肝癌などが疑われる場合には画像診断も重要です。レントゲンや超音波 (エコー) 検査、CT、MRIなどを用いて、体内の腫瘍の有無や位置、大きさを確認します。例えば、超音波検査は痛みがなく、放射線曝露の心配もないため、腹部の腫瘍などを発見するのに役立ちます。また、MRIやCTは脳腫瘍などの詳細な検査に適しています。

腫瘍が見つかった場合、生検 (バイオプシー) という検査が行われることが多いです。これは、腫瘍の一部を取り出して顕微鏡で調べる方法で、がん細胞があるかどうか、またがんの種類を特定するために行われます。生検には局所麻酔や全身麻酔が必要になることがありますが、がんの正確な診断と治療方針の決定に欠かせない検査です。

さらに、骨髄に異常が疑われる場合には、骨髄検査が行われます。これは、骨の中に針を刺して骨髄液を採取し、骨髄の退縮やがん細胞がないかを確認する検査です。

これらの検査を通じて、小児がんの有無や種類、進行具合が診断されます。 (参考文献3)

小児がんの治療

小児がんの治療には、がんの種類や進行度によってさまざまな方法が組み合わされます。代表的な治療法には、化学療法 (抗がん剤治療) 、放射線治療、手術があります。

化学療法は、抗がん剤を使ってがん細胞を小さくしたり、増殖を抑えたりする治療法です。特に白血病などの血液の病気や転移が生じた場合に行われますが、手術の前に腫瘍を小さくするために行われることもあります。複数の抗がん剤を組み合わせて用いることで効果を高めていることが多く、腫瘍が消失するほどに効くこともありますが、副作用として吐き気や脱毛、免疫力の低下があるため注意深い管理が必要です。

放射線治療は、高エネルギーの放射線をがん細胞に照射し、がんを小さくする治療です。例えば目にできる腫瘍である網膜芽細胞腫に対して手術を行うと眼球を摘出することになってしまうため、眼球を温存するために放射線治療が選択されることがあります。ただし、成長期の子どもに放射線を当てると、周囲の健康な細胞にも放射線が当たり、長期的に発がんの原因となったり骨が変形したりといった影響が出ることがあるため、出来る限り避けることが望ましいです。網膜芽細胞腫に対しても、放射線治療が検討されるのは化学療法が困難な場合とされています。

手術は腫瘍を直接取り除く方法で、腫瘍が局所的で完全に取り除ける見込みがある場合に行います。腫瘍が大きかったり周囲の組織と混ざりあったりしている場合は化学療法を行って腫瘍を小さくしてから手術を実施することも多いです。 (参考文献2)

小児がんになりやすい人・予防の方法

小児がんは、成人のがんに比べてまれで、0歳から14歳までの子どものうち、約7500人に1人の割合と言われています。小児がんで最も多いのはそれぞれ2~3割ほどを占める白血病と脳腫瘍で、次に多いのがリンパ腫や胚細胞腫瘍、神経芽腫といったがんで、これらの種類が小児がん全体の4分の3ほどを占めます。また、がんの種類や発症のリスクは、年齢によっても異なります。例えば、神経芽腫は乳幼児に多く見られる一方で、骨肉腫は10代の思春期に発症することが多いです。

小児がんの発症は遺伝による影響も一部ありますが、ほとんどの場合、生活習慣とは関係がありません。また、近年の医療の進歩により、治療法が改善され、小児がんの生存率は大幅に向上しています。例えば、白血病の生存率は80%以上に達しており、多くの小児がんで治癒が期待できるようになりました。

ただし、小児がんの治療には副作用や合併症が生じる場合もあるため、治療後の合併症を早期に見つけるために、長期にわたるフォローアップが重要です。 (参考文献6)

関連する病気

  • 急性リンパ性白血病
  • 神経芽腫

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