![](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2024/12/DI0716.jpg)
![居倉 宏樹](https://media.medicaldoc.jp/wp-content/uploads/2024/09/img_d2227_dr.ikura_.jpeg)
監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
水痘の概要
水痘は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)に初めて感染することで引き起こされる、感染力の強い伝染性疾患です。主に小児期にかかり、全身に赤い発疹や水ぶくれが現れるのが特徴です。
水痘の原因
水痘は、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)というウイルスが初めて体に入ることで発症します。このウイルスは、いろいろな方法でほかの人にうつる可能性があります。
感染経路
空気感染
空気中に漂うウイルスを吸い込むことで感染します。水痘患者が咳やくしゃみをすると、その中にウイルスが含まれた微粒子が空気中に放出されます。この微粒子は長い間空気中に漂い、遠くまで届くため、感染力が強いです。
飛沫感染
水痘患者の咳やくしゃみによって出る飛沫(しぶき)に含まれたウイルスが、他の人の口や鼻の粘膜に付着して感染します。
接触感染
水痘の発疹にできる水ぶくれ(水疱)の中にはウイルスが含まれており、それに直接触れることで感染します。また、ウイルスが付着したタオルや衣類などを介しても感染することがあります。
感染力
水痘は、発疹が出る1~2日前から、すべての発疹がかさぶたになるまでの間、人にうつる可能性があります。特に、水痘にかかったことがない人や、ワクチンを打っていない人は、感染しやすいので注意が必要です。
VZVの潜伏感染
水痘が治った後も、VZVは体内の神経節(神経の集まり)に潜伏し続けます。免疫力が低下すると、このウイルスが再び活性化して「帯状疱疹」を引き起こすことがあります。
このように、水痘は感染力が強く、特に空気や飛沫や接触を介して広がりやすい病気です。感染を防ぐためには、適切な予防策が重要です。
水痘の前兆や初期症状について
潜伏期間
水痘の潜伏期間は10~21日で、感染してから症状が出るまでには個人差があります。成人では、発疹が現れる1~2日前に発熱や全身のだるさを感じることがありますが、小児では発熱と同時に発疹が出るのが一般的です。
初期症状
水痘の主な初期症状は、発熱と発疹です。発疹はまず赤い斑点として現れ、その後すぐに小さな丘疹(ぽつぽつした小さな盛り上がり)、水ぶくれ(水疱)、最終的にはかさぶた(痂皮)になります。
これらの発疹は数日にわたって次々と新しいものが現れるため、異なる段階の発疹が一度に見られるのが特徴です。また、発疹はかゆみを伴うことが多い傾向です。
発疹は主に顔や体幹に多く現れますが、頭皮や口の中、外陰部にも出ることがあります。
重症度
水痘は通常、小児では軽症で、倦怠感(だるさ)やかゆみ、38度前後の発熱が2~3日間続く程度です。
しかし、成人の場合は重症化しやすく、肺炎や肝炎、髄膜炎、脳炎などの合併症を引き起こすことがあります。また、免疫力が低下している人も、重症化するリスクが高いです。
水痘は、特に成人や免疫力が弱っている人にとっては注意が必要な病気です。
初期症状を認めたら、子どもは小児科、成人は皮膚科を受診しましょう。
水痘の検査・診断
水痘の診断は、通常、特徴的な発疹と発熱、そして水痘患者との接触歴などをもとに判断されます。
多くの場合、医師が患者の症状を聞いたり、発疹を見たりするだけで診断が可能です。
特殊なケースでの検査
水痘ワクチンを接種した後の軽い水痘や、免疫力が低下している患者に見られる特別なケースでは、症状だけで診断するのが難しい場合があります。
そのような場合、確定診断のために以下の検査が行われることがあります。
迅速診断
Tzanck試験
水疱の中の液体から細胞を採取し、特別な染色をしてウイルスの特徴を持つ細胞を観察します。
ただし、この方法では他のヘルペスウイルスと区別することはできません。
迅速抗原検査(イムノクロマト法)
水疱の液体から、水痘帯状疱疹ウイルス特有の抗原を検出します。
これにより、比較的短時間で診断ができます。
ウイルス学的検査
ウイルス分離
血液や水疱の液体を培養して、ウイルスを増殖させる方法です。
ウイルスが見つかれば、確定診断となりますが、結果が出るまで時間がかかります。
遺伝子検査(PCR法)
検体中のウイルスDNAを増幅して検出する方法で、高感度かつ迅速な診断が可能です。
特に発疹がはっきりしない場合や、中枢神経に合併症がある場合に役立ちます。
血清学的検査
抗体検査
血液中にウイルスに対する抗体があるかどうかを調べます。
IgM抗体は感染初期に増え、IgG抗体は過去の感染やワクチン接種で獲得した免疫を示します。
急性期と回復期でIgGの有意な上昇を確認するか、IgM抗体を検出することで診断されます。
ただし、感染の初期には抗体がまだ産生されていないため、この検査だけでは診断が難しいこともあります。
水痘の治療
水痘の治療は、症状の重さや患者さんの状態によって異なります。
健康な子どもの場合、解熱剤や抗ヒスタミン薬などの対症療法で十分なことが多いですが、
症状を軽減し、治癒を早めるために抗ヘルペスウイルス薬が使われることもあります。
特に、重症の水痘や免疫力が低下している人には、病院で入院して抗ウイルス薬を点滴で投与することが必要です。
治療の重要なポイント
抗ウイルス薬
アシクロビルやバラシクロビルなどの抗ウイルス薬は、水痘ウイルスの増殖を抑える効果があります。
発疹が出てから3日以内に服用を開始すると効果的で、水痘では5日間、帯状疱疹では7日間の服用が一般的です。
二次感染の予防
水痘の発疹は、細菌による二次感染を起こしやすいです。
発疹を清潔に保ち、掻きむしらないようにすることが大切です。
爪を短く切ったり、手袋をすることで予防できます。二次感染を起こした場合には抗生物質の外用や全身投与を行います。
span class=”main”>安静
水痘は感染力が強いため、発疹がすべてかさぶたになるまでは自宅で安静にし、他人との接触を避けましょう。
水分補給
発熱があるときは、脱水症状を防ぐためにこまめに水分をとることが重要です。
免疫不全の場合の治療
免疫力が低下している人は、水痘が重症化しやすいため注意が必要です。
免疫不全者に対しては、暴露後96時間以内の免疫グロブリンの注射や暴露後7-10日目より抗ウイルス薬の内服を考慮します。
ただし、日本では水痘専用の免疫グロブリン製剤がないため、通常の免疫グロブリン製剤で代用します。
水痘になりやすい人・予防の方法
水痘になりやすい人
水痘ワクチンを接種していない人
水痘はワクチンで予防できる病気です。ワクチンを接種していない人は、水痘ウイルスに感染しやすくなります。
幼児
水痘は、特に幼児期に多く感染する病気です。特に、免疫機能がまだ十分に発達していない1歳未満の乳児は、重症化するリスクが高いです。
免疫不全状態の人
免疫機能が低下している人は、水痘ウイルスに対する抵抗力が弱く、重症化しやすいです。
例: 白血病、悪性腫瘍、ネフローゼ症候群、HIV感染症、臓器移植を受けた人、免疫抑制剤やステロイド使用中の人。
水痘ワクチン
水痘ワクチンは、水痘や帯状疱疹の原因となるウイルス(VZV)による感染を予防するために開発されました。
1974年に日本で開発され、現在、世界中で広く使用されています。
水痘ワクチンの効果
水痘ワクチンを接種することで、水痘の発症を予防できます。
また、発症しても軽症で済むことが期待されています。
CDCとWHOの報告によれば、1回接種で中等症から重症の水痘を予防する効果は98%、軽症を含む全水痘を予防する効果は81%です。
水痘ワクチンの接種スケジュール
日本では、2014年10月から定期接種として2回接種が行われています。接種対象は生後12ヶ月から36ヶ月未満の子供です。
- 1回目: 生後12ヶ月~15ヶ月
- 2回目: 1回目接種から6~12ヶ月間隔
水痘ワクチンの副反応
水痘ワクチンは安全性が高いですが、次の副反応が稀に見られることがあります。
- 接種部位の赤みや腫れ
- 発疹(2~5%程度)
- 稀にアナフィラキシー様症状や急性血小板減少性紫斑病
水痘ワクチン接種後の水痘
ワクチンを接種しても水痘にかかることがあり、これを「ワクチン接種後水痘(BV)」と呼びます。
BVは軽症で済むことが多いですが、他人に感染させる可能性があるため注意が必要です。
帯状疱疹予防としての水痘ワクチン
水痘ワクチンは帯状疱疹の予防にも有効です。
高齢者に接種することで免疫を強化し、発症を抑える効果が期待されています。
2016年に50歳以上を対象に帯状疱疹予防への適応が追加されました。
関連する病気
- 帯状疱疹(Herpes Zoster)
- 水痘後肺炎
- 脳炎(VZV脳炎)
- 水痘後神経痛
参考文献
- 吉川哲史:水痘帯状疱疹ウイルスによる神経感染症
- 細矢光亮:小児感染症