

監修医師:
大坂 貴史(医師)
慢性疼痛の概要
慢性疼痛とは、治癒に要すると予測される時間を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関連する痛みを指します。ケガや病気が治った後も痛みが続くことが特徴であり、明確な原因が特定できないことも少なくありません。慢性疼痛は、腰痛や関節痛、神経痛などさまざまな部位に発生し、日常生活に支障をきたすことがあります。痛みの強さや症状は個人差が大きく、体の一部分に痛みを感じる人もいれば、広範囲にわたって痛みが広がる人もいます。
慢性疼痛は、単なる体の不調ではなく、長期にわたることで精神的なストレスや抑うつ、不安などの心理的な影響を引き起こすこともあります。そのため、単に痛みを抑えるだけではなく、生活全体の質を向上させる治療が求められます。痛みが続くことで仕事や家事ができなくなったり、外出を避けるようになったりすることもあり、社会的な影響も無視できません。
慢性疼痛は多くの人が経験する症状であり、高齢者だけでなく、若い世代でも発症することがあります。特に、ストレスや姿勢の悪さ、長時間のデスクワークなどが関係している場合もあり、痛みの原因を正しく理解し、適切に対処することが重要です。
慢性疼痛の原因
慢性疼痛の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて「炎症による痛み」「神経の異常による痛み」「心因的な影響による痛み」の3つが考えられます。まず、炎症による痛みは、関節リウマチや変形性関節症などの疾患によるものです。これらの疾患では、関節や筋肉に炎症が起こり、その結果として痛みが長期間続くことがあります。特に、関節の摩耗や軟骨の劣化が進むと、痛みが慢性化しやすくなります。
次に、神経の異常による痛みは、神経障害性疼痛とも呼ばれ、神経の損傷や圧迫が原因で発生します。代表的なものに、椎間板ヘルニアや坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛などがあります。このタイプの痛みは、ビリビリとしたしびれを伴うことが多く、通常の鎮痛薬では効果が得られにくいことが特徴です。また、糖尿病による神経障害も慢性疼痛の一因となることがあります。
さらに、心因的な影響による痛みも重要です。強いストレスや不安、抑うつ状態が続くことで、脳が痛みを感じやすくなり、本来は問題のない部位にも痛みを覚えることがあります。このようなケースでは、身体的な治療だけでなく、精神的なケアも必要になります。特に、仕事や人間関係のストレスが影響している場合、生活習慣の改善やリラクゼーション法を取り入れることが有効です。
慢性疼痛の前兆や初期症状について
慢性疼痛は、突然強い痛みが現れるというよりは、徐々に痛みが強まっていくことが多いです。最初は軽い違和感やこわばりを感じる程度ですが、次第に持続的な痛みへと変化します。特に、朝起きたときに関節がこわばる感じがある場合や、長時間座っていると腰や膝が痛くなる場合は、慢性疼痛へと移行するサインかもしれません。
また、痛みの程度は日によって変動することがあり、天候や気圧の変化によって悪化することもあります。特に、湿度の高い日や寒冷期には痛みが強くなることが多く、慢性疼痛のある人は季節の変化に敏感になることが少なくありません。
さらに、痛みが長引くことで、睡眠の質が低下したり、気分が落ち込んだりすることもあります。夜間に痛みが悪化し、眠りが浅くなると、疲労が蓄積し、翌日も体が重く感じられるようになります。このように、慢性疼痛は単なる身体の痛みだけでなく、全身の不調や精神的なストレスにもつながるため、早めの対処が必要です。
慢性疼痛の検査・診断
慢性疼痛の診断には、まず詳細な問診が行われます。痛みの部位や持続期間、どのような状況で痛みが悪化するのかを確認し、原因を特定する手がかりとします。次に、画像診断としてX線やMRI、CTなどを用いて、骨や関節、神経の状態を詳しく調べます。特に、椎間板ヘルニアや関節の変形が疑われる場合には、MRIが有効です。
また、血液検査を行うこともあります。関節リウマチや膠原病などの炎症性疾患が疑われる場合は、炎症マーカー(CRPや赤血球沈降速度)を測定し、炎症の有無を確認します。さらに、神経の異常が考えられる場合は、神経伝導検査を行い、神経の損傷の程度を調べることもあります。
慢性疼痛は単なる身体的な問題だけではなく、精神的な要因も関与することがあるため、必要に応じて心理テストやストレス評価を行うこともあります。これによって、うつ病や不安障害が痛みに影響を与えていないかを確認し、総合的な診断が行われます。
慢性疼痛の治療
慢性疼痛の治療には、薬物療法、リハビリテーション、心理療法などが組み合わされます。薬物療法としては、一般的な鎮痛薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンが使用されますが、神経痛に対しては抗うつ薬や抗けいれん薬が有効な場合もあります。痛みが強い場合は、神経ブロック注射が行われることもあります。
リハビリテーションでは、理学療法士によるストレッチや筋力トレーニングが推奨されます。運動を取り入れることで、筋肉のこわばりを軽減し、関節の動きを改善することができます。また、温熱療法や電気治療も、痛みの緩和に役立ちます。
心理療法としては、認知行動療法が有効です。痛みに対する不安を軽減し、ストレス管理の方法を学ぶことで、痛みの感じ方を改善することができます。特に、長期間の痛みによる精神的ストレスを軽減することは、慢性疼痛の管理において重要です。
慢性疼痛になりやすい人・予防の方法
慢性疼痛になりやすいのは、デスクワークが多い人、運動不足の人、ストレスを抱えやすい人などです。予防のためには、適度な運動を心がけ、姿勢を正しく保つことが大切です。ストレッチを習慣化し、筋肉の緊張をほぐすことも効果的です。また、十分な睡眠と栄養バランスの取れた食事を心がけ、体全体の健康を維持することも予防につながります。
関連する病気
- 線維筋痛症
- 変形性関節症
- 慢性神経障害性疼痛
参考文献




