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ポリオ(大人)
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

ポリオ(大人)の概要

ポリオは「ポリオウイルス」によって生じる感染症です。感染症法では2類感染症に分類され、診断した医師による届出が義務付けられています。

ポリオは主に小児に発症することで知られていますが、成人にも感染するリスクがあります。特に免疫力が低下している人やワクチン接種を受けていない人は感染リスクが高いです。ポリオウイルスの感染経路は経口感染や接触感染、飛沫感染です。ポリオウイルスは感染者の便に排出されることが多く、手指を介して口から侵入することによって感染します。

ポリオは感染しても無症状感染が90〜95%を占め、その他約5%が「不全型」、1〜2%が「非麻痺型」、0.1%〜2%が「麻痺型」にわけられます。どの病態も頭痛や発熱、喉の痛み、吐き気、嘔吐などの症状が見られ、その後に非麻痺型では髄膜炎、麻痺型では知覚障害を伴わない弛緩性麻痺(主に下肢)が発症するのが特徴です。麻痺型では球麻痺を合併するケースもあり、発語や呼吸、飲み込み(嚥下)が障害されます。麻痺は自然に回復することが多いものの、発症から1年を経過しても麻痺や筋力の低下が持続する場合、永続的に障害が残る可能性があります。特に成人は重症化しやすく、全体の約15〜30%は死に至るといわれています。
(出典:厚生労働省「ポリオについて」)

日本ではポリオはかつて深刻な公衆衛生問題でしたが、ワクチンの普及により現在では国内での新規感染はほとんど報告されていません。しかし、一部の発展途上国や衛生環境の整備されていない地域では、依然としてポリオウイルスが存在しています。そのため、海外に渡航する予定がある方や免疫不全状態にある方は、発症予防のためポリオワクチンの追加接種が推奨されています。

ポリオ(大人)の原因

ポリオの原因は「エンテロウイルス属」に属するポリオウイルスです。ポリオウイルスは感染者の唾液や便のなかに排出され、そのウイルスで汚染された水や食べ物を摂取することで感染します。

国内ではワクチンの普及や衛生環境の整備によってポリオウイルスへの感染の確率は低いものの、発展途上国や衛生環境の整備されていない地域ではトイレの使用などによって感染する可能性があります。

ポリオ(大人)の前兆や初期症状について

不全型と非麻痺型の初期症状は頭痛や発熱、喉の痛み、吐き気、嘔吐などで、非麻痺型の場合はその後髄膜炎を発症します。

麻痺型はこれらの症状が見られた後、1〜7日間の間隔を空けて、筋肉痛や筋肉のけいれんなどが生じ、弛緩性麻痺に移行します。麻痺型のなかには前兆がないケースや、発語や呼吸、飲み込み(嚥下)が障害される「球麻痺」を合併するケースもあります。

ポリオ(大人)の検査・診断

ポリオの診断では、ポリオウイルスを検出するための検査が行われます。ポリオウイルスは感染後の2週間程度、唾液や便に排出されるため喉からの分泌物や便を採取して培養し、ウイルスの有無を確認します。

一般的に便からウイルスを検出する検査が行われ、発症後速やかに実施し24時間以上開けて2回以上の検査を行うことが推奨されています。
(出典:一般社団法人日本感染症学会 「68 ポリオ(急性灰白髄炎)」)

血液検査を行って、ポリオウイルスに対する抗体の有無やその量を測定することも診断の助けになります。血液検査で既に感染したかどうかや、ワクチン接種によって免疫が形成されているかを確認できます。

この他、脊髄液を採取してウイルスの存在や炎症反応などを調べることもあります。

ポリオ(大人)の治療

現段階ではポリオを完治させるための治療法は確立されていないため、症状に対する対症療法が中心に行われます。

麻痺を認める場合は、残された機能を最大限発揮できるようリハビリテーションなどが行われます。球麻痺を合併して呼吸や嚥下が障害されている場合は、気管を切開したり補助呼吸療法が行われます。

ポリオ(大人)になりやすい人・予防の方法

ポリオのワクチン接種を受けていない人やHIVなどの免疫不全疾患によって免疫力が低下している人、ポリオの流行地域へ渡航する人などは、ポリオに感染する可能性が高まります。

ポリオの発症を予防するには、ワクチン接種が有効です。ポリオワクチンは経口ポリオワクチン(OPV)と不活化ポリオワクチン(IPV)の2種類があり、国内では経口ポリオワクチンが用いられていましたが、平成24年から、不活化ワクチンを注射で投与する方法が用いられています

経口ポリオワクチンには1〜3型の異なる3種類のポリオワクチンが含まれており、ある型のウイルスが先に体内で増殖すると、他の型のウイルスが増殖できないことがあります。そのため、過去に経口ポリオワクチンを接種した人のなかには、十分な免疫が得られていないケースがあります。

ワクチン接種を済ませている場合でも、ポリオウイルスが流行している地域へ渡航する場合には、ワクチンの追加接種を受けることが推奨されています。特に1975〜1977年代生まれの人はポリオウイルスの抗体量が低い傾向にあるため、ポリオの流行地域へ渡航する前にワクチンの追加接種について検討すると良いでしょう。

ポリオの流行地域へ渡航する場合には、ワクチン接種のほか基本的な感染対策を行うことも重要です。特に飲食をする前は十分に手洗いを行い、経口感染を予防しましょう。


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