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敗血症性ショック
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

敗血症性ショックの概要

敗血症性ショックについて述べる前に、まず敗血症とはどういう病態かについて説明します。
これまでは、「敗血症は感染症による全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome: SIRS)」と定義されていました。しかし、この定義と診断では、臓器障害の進展や生命予後における診断特異性が低いことが問題視されていました。
現在、敗血症とは「感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義されています。敗血症は、感染症による身体の反応が身体の中で調整が不能になった病態であり、生命を脅かす臓器障害を引き起こします。

敗血症性ショックは、敗血症の中に含まれる1つの区分であり、「急性循環不全により細胞障害及び代謝障害が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡する危険性が高まる状態」と定義されています。敗血症性ショックの本態は、末梢血管拡張に伴う血液分布異常性ショックですが、循環血液減少性ショックや心原性ショックも合併している複雑な病態を形成します。
日本では年間に推定で10万人以上が敗血症で亡くなられていると言われています。

敗血症性ショックの原因

敗血症性ショックの原因の多くは、院内感染によるグラム陰性桿菌やグラム陽性球菌によって引き起こされると言われています。そのほかに、カンジダなどの真菌ブドウ球菌性およびレンサ球菌性毒素によるものがあります。

敗血症性ショックの前兆や初期症状について

敗血症の前兆や初期症状には、一般的に発熱、頻脈、発汗や頻呼吸があります。
敗血症性ショックになった場合は、錯乱や意識障害が前兆として見られることがあります。敗血症性ショックの初期には、Warm Shockと呼ばれる血圧が低下しますが四肢は暖かい状態になります。

症状が認められる場合は、早めに内科や救急科を受診して医療措置を受けてください。

敗血症性ショックの検査・診断

日本版敗血症診療ガイドライン2020では、「敗血症/敗血症性ショックの診断フロー」が示されています。また、診断フローについて、病院前救護、救急外来や一般病棟における場合と、ICUあるいはICUに準じた場合に分けて記載されています。
まず、病院前救護、救急外来や一般病棟における場合には、感染症もしくは感染症の疑いがあれば、敗血症のスクリーニングとしてqSOFA(quick sequential organ failure assessment)で評価します。qSOFAは、意識変容、呼吸回数(≧22回/分)、収縮期血圧(≦100mmHg)の3項目で構成されます。感染症もしくは感染症が疑われる状態で、qSOFAの2項目以上が満たされる場合には敗血症が疑われます。

一方で、ICUあるいはICUに準じた環境では、SOFA(sequential organ failure assessment)スコアを用いて評価を行います。SOFAスコアとは、呼吸器、凝固能、肝機能、循環機能、中枢神経系、腎機能といった臓器障害の程度を点数化して、その合計点で重症度を判定することを目的に作成されたものです。すでに感染症と診断されている場合や感染症が疑われる状態において、SOFA スコアの推移を評価し、SOFAスコアの2点以上の急上昇がある場合は敗血症と診断します。

敗血症性ショックの診断は、平均動脈圧≧65mmHg以上を保つために輸液療法に加えてノルアドレナリンなどの血管収縮薬を必要とし、かつ血中乳酸値2mmoL/L(18mg/dL)を超える場合となります。

出典元:日本版 敗血症診療ガイドライン2020

敗血症・敗血症性ショックにおいて、その原因となる感染症を早期に診断することが重要です。感染症の早期診断が予後を左右することになります。そのためには、抗菌薬を投与する前に血液培養を2セット以上採取することが重要です。また、必要に応じて感染源となっている可能性が否定できない部位から、血液培養以外の各種培養検体を採取しておくことが感染臓器及び原因微生物の同定に重要です。

抗菌薬投与前のグラム染色については、その有用性と限界を理解したうえで経験的治療に用いる抗菌薬を選択する際に有用であるとされています。

敗血症診断のバイオマーカー検査として、C反応性蛋白(CRP)、プロカルシトニン(PCT)、プレセプシン(P-SEP)、インターロイキン6(IL-6)を調べることについては、施設によって測定できる項目が異なり、さまざまな要因によりバイオマーカーの結果が変化するため、施設ごとの基準に委ねられています。

そのほかに、感染源を検索するために画像検査が行われます。画像検査は、身体に侵襲を与えずに施行可能であり、短時間で結果が得られ、情報量も多いため、敗血症を疑う患者さんにおいて重要な検査と言えます。画像検査には、単純X線検査、超音波検査、CT検査、MRI検査などがあります。CT検査やMRI検査においては、単純検査と造影剤を用いた造影検査があります。とくに造影CTにおいては、単純CT検査と比較し、血栓や虚血部位、血腫などの描出が可能であり、情報量も多い傾向です。そのため、不明な感染源を検出するために有用だと言われています。造影CT検査については、造影剤の使用による造影剤腎症や造影剤アレルギー、検査室への移動に伴う全身状態への影響を考慮し、検討が必要になります。

敗血症性ショックの治療

敗血症性ショックの治療は、早期の感染症対策(抗菌薬の投与、感染巣のコントロール)と適切な循環管理(各臓器へ低下した血液の巡りを改善すること、組織の酸素需給バランスを維持すること)が中心となります。

抗菌薬治療

抗菌薬治療は感染症を治療する根幹となります。しかし、抗菌薬は、感染症の原因となる微生物を減少させる目的で使用されます。すなわち、抗菌薬は敗血症や感染症の病態を直接的に改善させるものではないということです。また、抗菌薬治療には、その副作用や欠点が多い治療法です。抗菌薬投与による下痢(抗菌薬関連下痢症)、抗菌薬に対するアレルギー、耐性菌による重症感染症の危険性の増加などがあげられます。とくに耐性菌については、対象の患者さんだけではなく、ユニット、施設、あるいはより広範囲のコミュニティに影響をおよぼす可能性や、ほかの患者さんや未来の患者さんにまで負の影響をおよぼす可能性があるため注意が必要です。

感染源のコントロール

敗血症の治療において、迅速かつ適切な感染源のコントロールが重要になります。
例えば、カテーテル関連血流感染が疑われる敗血症において、ほかで説明のつかない敗血症や身体に留置されているカテーテルの刺入部に発赤や化膿がある場合には、速やかにカテーテルを抜去し別部位に留置することが必要になります。とくに黄色ブドウ球菌や緑膿菌、薬剤耐性グラム陰性桿菌、カンジダ属によるカテーテル関連血流感染は、カテーテルの抜去という原因の解消を行わずに、抗菌薬治療のみを行っても改善は見込めない可能性があり、生命予後の悪化につながる可能性があります。

適切な循環管理

敗血症性ショックの初期は、血管の拡張と血管外漏出に伴う循環血液量の減少です。しかし、敗血症性ショックが続くと心臓の収縮力が低下します。その状態をCold Shockと呼びます。Cold Shockに移行した場合には、そのため、まずは簡易的な心血管エコー検査により心機能を評価して、低下している臓器血流や酸素の需給バランスを改善するために、迅速かつ適切な初期輸液を行うことが重要です。

そのほかに、敗血症および敗血症性ショックに対して行われる治療には、血管収縮薬や強心薬の薬剤、免疫グロブリン(IVIG)、ステロイド、輸血、人工呼吸器などによる呼吸管理などがあります。

敗血症性ショックになりやすい人・予防の方法

敗血症・敗血症性ショックは感染症によって引き起こされます。そのため、なりやすい人には、65歳以上の高齢者、免疫抑制状態(ステロイドや抗がん剤治療中)糖尿病肥満悪性腫瘍、免疫力が備わっていない乳幼児などがあげられます。

予防の方法については、まず敗血症にならないように感染症を予防することが重要になります。病原性微生物や細菌、ウィルス、カビなどの真菌が体内に侵入することを防ぐようにする必要があります。とくに先述したなりやすい人に該当する人は、感染を起こした場合に身体の防御反応がコントロールできない状態に陥りやすいです。そのため、手洗いやマスクの着用といった容易かつ有効な予防方法を実践していくと良いでしょう。

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参考文献

  • 日本版 敗血症診療ガイドライン2020
  • J-STAGE https://www.jstage.jst.go.jp/

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