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不眠症
山本 佳奈

監修医師
山本 佳奈(ナビタスクリニック)

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滋賀医科大学医学部 卒業 / 南相馬市立総合病院や常磐病院(福島)を経て、ナビタスクリニック所属/ 専門は一般内科

不眠症の概要

不眠症は、十分な睡眠を確保できず、日中の生活に支障をきたす状態を指します。 不眠症は広範に見られ、多くの成人が一時的または慢性的に経験するとされています。 日本では、成人の約30%が一時的な不眠症状を経験し、約10%が慢性的な不眠症に悩んでいるとされています。

不眠症の原因

不眠症の原因は多岐にわたり、心理的、生活習慣的、身体的、薬理学的などの要因が複雑に絡み合っているとされています。

心理的要因とされる心理的なストレスや不安、うつ病などの精神疾患は、不眠症の主な原因の一つとされています。なかでも、心配事やストレスが多いと入眠困難や中途覚醒が引き起こされやすくなります。また、楽しみなイベントや大切な行事の前など、心理的な高揚感も不眠の原因となるとされています。

そして、生活習慣の乱れも不眠症の原因として重要です。生活習慣の乱れとは、夜勤やシフト勤務などによる昼夜逆転の生活、夜遅くまでのスマートフォンやパソコンの使用、カフェインやアルコールの摂取、長時間の昼寝、不規則な就寝・起床時間などが挙げられます。これらの要因は、体内時計のリズムを乱し、睡眠の質を低下させる可能性があります。

また、身体的要因とされる身体的な病気や症状も不眠症を引き起こすことがあります。例えば、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)による呼吸困難、前立腺肥大による頻尿、慢性的な痛みやかゆみなどがあると、夜間の睡眠が妨げられます。また、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)などの睡眠障害も不眠症の一因となることがあります。

薬理学的要因とされるカフェインやニコチンなどの覚醒作用を持つ物質は、眠気を妨げるとされています。また、ステロイド薬や抗うつ薬、降圧剤などの一部の薬物も不眠症の原因となることがあります。特に、高齢者は薬を服用していることが多いため、薬物が原因で不眠症を発症するリスクが高まるとされています。

最後に環境要因といわれる睡眠環境も不眠症に影響を与えるとされています。騒音や光、適切でない室温や湿度などが原因で睡眠の質が低下します。快適な寝具の選択も重要で、体に合わない枕やマットレスは、不眠症の原因となることがあります。

不眠症の前兆や初期症状について

不眠症の前兆や初期症状は、多岐にわたりますが、主に以下のような兆候が見られるとされています。
  • 寝つきが悪い:ベッドに入ってから30分以上経っても眠れないことが頻繁にある。
  • 頭のなかで思考が止まらない:心配事やストレスによってリラックスできず、頭のなかで考え事が続く。
  • 途中で目が覚める:夜中に何度も目が覚め、その後再び眠るのが難しい。
  • 睡眠が浅い:眠ってもすぐに目が覚めてしまい、深い睡眠に入れない感覚が続く。
  • 早朝に目覚める:予定よりも早く目が覚めてしまい、その後再び眠れない。
  • 眠りが浅くなる:朝方に近づくにつれ、睡眠が浅くなりやすい。
  • 倦怠感:十分に眠れなかったことで、日中に強い倦怠感や疲労感を感じる。
  • 集中力の低下:仕事や勉強に集中できず、パフォーマンスが低下する。
  • イライラ感:些細なことでイライラしやすくなり、感情のコントロールが難しくなる。
  • 頭痛や肩こり:睡眠不足により、慢性的な頭痛や肩こりが発生することがある。
  • 胃腸の不調:ストレスや睡眠不足から、胃腸の調子が悪くなることもある。
  • 眠れないことへの恐怖感:寝つけないことに対する不安や恐怖が強まり、さらに不眠を悪化させる悪循環に陥る。
  • 睡眠への執着:「早く眠らなければ」と焦る気持ちが強くなり、逆にリラックスできなくなる。
以上のような症状が続く場合は、まずは内科または心療内科を受診するとよいとされています。 内科で身体的な問題を確認し、心療内科でストレスや精神的な要因を評価してもらうことが適切です。

不眠症の検査・診断

不眠症の検査や診断には、以下のような検査が行われます。

まず問診が行われ、患者さんの現在の症状、既往歴、生活習慣、使用中の薬物などを詳細に聞き取ります。重要な質問項目として、睡眠の質やパターン、日中の活動への影響、ストレスレベルなどが含まれます。

次に、身体診察が行われ、視診、聴診、触診、打診などの基本的な身体検査を行います。なかでも睡眠時無呼吸症候群などの身体的要因が疑われる場合には、体重や首周りの測定などが含まれます。

睡眠ポリグラフ検査は、終夜ポリグラフ検査(PSG)とも呼ばれ、睡眠中の脳波、眼球運動、筋電図、心電図、呼吸の状態などを総合的に記録します。主に睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、ナルコレプシーなどの診断に有効とされています。

アクチグラフィとは、手首に加速度センサーを装着し、一定期間の活動量を計測して、睡眠・覚醒リズムを検査するものです。日常生活のなかでの睡眠パターンを客観的に把握するために使用される傾向が多いようです。

また、睡眠日誌などで、患者さん自身が毎日の睡眠時間や睡眠の質、日中の活動などを記録する方法もあります。問診と併用することで、より詳細な睡眠パターンの把握が可能とされています。

【診断の流れ】 初診時には、詳細な問診と身体診察をもとに、どのような睡眠障害が疑われるかを特定します。 必要に応じて睡眠ポリグラフ検査やアクチグラフィなどの精密検査を行います。 そして精密検査の結果を総合的に評価し、適切な診断を下します。

そして、睡眠障害の正確な診断により、適切な治療法の選択が可能とされています。 診断をもとに、薬物療法や認知行動療法、生活習慣の改善など、個々の患者さんに合った治療計画が立てられます。

不眠症の治療

不眠症の治療には多岐にわたるアプローチが用いられます。まず、睡眠衛生指導では、毎日同じ時間に就寝・起床し、朝の光を浴びること、日中に適度な運動を行うことが推奨されます。

睡眠環境の改善も重要で、快適な寝具の使用や適切な寝室の温度・湿度、静かな環境が求められます。リラクゼーション法としては、寝る前にリラックスする時間を設け、ストレス管理に努めることが推奨されています。

薬物療法では、適切な使用方法を守れば依存性が低い睡眠薬の使用や、自然な睡眠を助けるオレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬が用いられます。認知行動療法(CBT-I)では、睡眠に関する正しい知識の習得や、ベッドで長時間目を覚ますことを避ける行動療法、リラクゼーション技術の習得が行われます。

上記のような家庭での対策で改善が見られない場合は、専門の医師に相談しましょう。

不眠症になりやすい人・予防の方法

不眠症は、生活習慣や環境、個人の特性によって影響を受けやすい疾患です。 なかでも以下のような方々は不眠症になりやすいといわれています。

まず、精神的なストレスを強く感じやすい方や心配事が多い方、神経質で生真面目な性格の方は、不眠症に陥りやすい傾向があります。 さらに、夜勤やシフト勤務などで生活リズムが乱れがちな職業に就いている方々も、体内時計が狂いやすく不眠症のリスクが高まるとされています。

また、年齢とともに睡眠の質が低下しやすいため、高齢者は注意が必要です。 女性も、ホルモンバランスの変化により男性よりも不眠症になりやすいとされています。

更年期や月経前後には不眠症状が現れやすいです。加えて、高血圧や心臓病、呼吸器疾患などの慢性疾患を持つ方々は、これらの病気が原因で不眠症状が引き起こされやすいです。

不眠症の予防には、まず、規則正しい生活習慣を保つことが基本です。 毎日同じ時間に就寝・起床することで、体内時計を安定させ、良質な睡眠を確保します。 週末も平日と同じ時間に起床することが重要です。

次に、日中に適度な運動を行うことが推奨されています。 また、適度な運動は、夜の睡眠の質を向上させますが、就寝前の過度な運動は避けましょう。

自身が落ち着ける時間を持つことも大切です。就寝前には夜間の照明を暖色系や低照度にしたり、ブルーライトを減らしてリラックスする時間を作り、ストレスを軽減させましょう。 例として、ぬるめのお風呂に入る、軽い読書をするなどの方法があります。

また、アルコールやカフェインの摂取を控えることも重要です。 就寝前のアルコールやカフェインの摂取は、睡眠の質を低下させ、入眠を妨げる可能性があります。

さらに、寝室の環境を整えることも不眠症の予防効果が期待できます。快適な寝具を使用し、寝室の温度や湿度を適切に保つとよいでしょう。遮光カーテンを使用し、静かな環境を整えることも助けになります。

最後に、日常生活のなかでストレスを溜めないことも大切です。趣味の時間を取り入れ、心身のバランスを保ちましょう。

このように、規則正しい生活習慣の維持、適度な運動、リラックスする時間の確保、アルコールやカフェインの摂取制限、快適な寝室環境の整備、そしてストレス管理が不眠症の予防には重要とされています。

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