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溶連菌感染症
眞鍋 憲正

監修医師
眞鍋 憲正(医師)

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信州大学医学部卒業。信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室博士課程修了。日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本医師会健康スポーツ医。専門は整形外科、スポーツ整形外科、総合内科、救急科、疫学、スポーツ障害。

溶連菌感染症の概要

溶連菌感染症は、正式にはA群β溶血性連鎖球菌感染症で、子どもによくあるのどの病気です。大部分が咽頭炎ですが、とびひ・中耳炎・髄膜炎などにも関わります。細菌感染症なので、子どもからの感染で成人も発症します。 のどの痛みや38度以上の発熱が主な初期症状で、始めのうちは一般的な風邪と見分けがつきません。冬と春から初夏にかけて流行し、冬季ではインフルエンザや風邪と区別しにくい病気です。 感染力が強いため、学校安全保健法では、感染すれば状況により出席停止にすべき疾患としています。 抗生剤を飲んで24時間経過すれば感染力がなくなるため、診断日と翌日の登校を見合わせれば感染の抑制が可能です。大人の場合もこれに準じて出勤を調整します。 この病気は、昔は猩紅熱(しょうこうねつ)とよばれる重い伝染病でした。現代では抗生剤の開発で一般的な感染症となり、薬を飲めばすぐ回復する病気です。 しかし、途中で治療を止めた場合は再発するほか、合併症のリウマチ熱や腎炎を発症する可能性があります。 溶連菌感染症のなかには、突然発症して急激に症状が悪化する劇症型があります。発症のメカニズムは不明で、敗血症や心不全など重篤な症状が現れて間もなく、急速に多臓器不全が進む重い感染症です。抗生剤や病巣切除などで対応しますが、致死率は30%と高率です。稀な症状でも継続して増加傾向にあり、子どもより大人の発症が多くなっています。特に60歳以上の高齢者が発症しやすいので、注意を払うことが大切です。

溶連菌感染症の原因

溶連菌感染症の原因は、溶連菌の感染による発症です。溶連菌は主にのどや鼻など呼吸器の粘膜・扁桃腺に感染します。 溶連菌の感染は、飛沫感染と接触感染のどちらも可能性があります。感染しやすいのは会話・咳・くしゃみの飛沫感染ですが、溶連菌感染症は鼻の症状が出ないのが特徴です。そのため症状による咳・くしゃみではなく、日常的な会話や接触による感染と考えられます。 6~15歳の学童に多く発症するため、濃密な接触がある学校や家庭で感染する場合がほとんどとされます。感染力が強く、家庭内での子どもからの感染率は20~60%です。子どもが感染したら、家庭でも手洗い・マスクなどの感染対策が必須です。

溶連菌感染症の前兆や初期症状について

感染力が強い溶連菌感染症では、感染後2~5日で初期の症状が現れます。まず感染した部位から症状が出て、それからほかの部位に広がるパターンが大半です。 溶連菌感染症の症状はどのような現れ方なのか、詳しく見ていきます。

溶連菌感染症の前兆や初期症状

溶連菌に感染した場合まず現れるのが初期症状で、溶連菌に感染した部位に現れます。よく見られるのが咽頭への感染で、溶連菌咽頭炎と扁桃炎による症状です。溶連菌感染の初期に現れる典型的な症状は以下のとおりです。
  • 突然の発熱(38度以上にも)とのどの痛み
  • 全身の倦怠感
  • のどと扁桃腺が真っ赤に腫れる
  • 扁桃腺には白い膿が見られることも
  • のどの奥に点状の出血
  • 舌は白い苔に覆われるが後にイチゴ状の舌に変わる
  • 顎のリンパ腺の腫れ・痛み
子どもの場合はのどの痛みよりも腹痛・頭痛・嘔吐が先に出る場合もあります。例えば腹痛で受診後に検査で溶連菌と判断される症例です。こうした症状が出た場合は、内科・呼吸器内科・感染症内科・耳鼻科を受診します。治療開始が急がれるため、迅速検査ができる施設を選んでください。

皮膚の症状

初期の咽頭炎の症状が出て12~48時間後には、皮膚に猩紅熱(しょうこうねつ)の症状が現れます。溶連菌が出す発赤毒によるもので、頸部・鼠径部・腋窩部に密集した小さな赤い発疹が出て、それが体幹に広がって皮膚全体が真っ赤に見える症状です。顔は額や頬が赤くなっても口周辺は白く抜け、口角炎を伴います。発症して1周間程で赤みは落ち着き、皮膚表面からフケ状の細片が落ち始め、3週間程で全身の皮がむけると完治です。皮膚には化膿性の症状もあり、その1つは傷や虫刺されの痕に溶連菌が感染したとびひ(伝染性膿痂疹)があります。とびひの原因は溶連菌ですが、同じように原因となるのが黄色ブドウ球菌によるとびひです。主に3歳以下の子どもに見られる症状です。初めは水泡ができ、やがて膿が混じるようになります。それが破れてただれ、さらには厚くかさぶた化するのが特徴です。化膿性の皮膚症状のもう1つは丹毒で、面疔(めんちょう)ともよばれます。皮膚の真皮部分に溶連菌が感染し、急速に拡大します。患部は赤く盛り上がり、触ると熱感と強い痛みがある斑です。高熱と倦怠感があり、治療しないと敗血症に進行する恐れもあります。発症部位は顔が多く、次いで手足にも発症しやすい感染症です。

呼吸器の症状

溶連菌感染症の初期には発熱やのどの腫れ・痛みなど、風邪とよく似た症状が見られます。ところが、鼻水・鼻づまり・咳・くしゃみなど、呼吸器関連の症状があまり出ない特徴があります。まったく出ないことはありませんが、ほとんど気にならない程度の症状です。症状がない特徴はあまり気付かないものですが、溶連菌感染症は一般的な風邪よりも注意が必要な病気なので、風邪とは違う特徴があることを理解しておきましょう。

合併症の症状(非化膿性)

溶連菌感染症で治療をしなかったり、治療を途中でやめたりした場合に以下のような合併症の可能性が出てきます。重症化した場合の肺炎・敗血症のほか、以下のような症状です。
  • リウマチ熱
  • 急性糸球体腎炎
  • 結節性紅斑
特に注意が必要なリウマチ熱は難治性・全身性の炎症です。関節痛・動悸・胸痛・発疹などの症状で、稀に心臓に障害が残ります。また、急性糸球体腎炎は血尿・タンパク尿・むくみ・急性腎機能低下などの症状で、腎機能障害が残る場合もあります。一過性でも、症状により入院治療が必要です。

溶連菌感染症の検査・診断

溶連菌感染症の検査・診断には、迅速検査と咽頭培養検査があります。どちらものどの粘膜を綿棒でこすって検体を採るまでは同じです。 迅速検査では、検体から抗体を検出する簡易キットが使われます。インフルエンザの感染検査と同じような検査で、10分程で迅速に診断がつくため、現在では広く採用される検査です。 本来は検体を咽頭培養して菌を分離・確定する方法が基本です。診断までに数日~1週間程度時間がかかりますが、菌を細かく分類できます。効きやすい抗生剤の種類や、ほかの菌との合併の有無などがわかります。

溶連菌感染症の治療

溶連菌感染症では、薬物による治療が行われます。重症の場合は入院して注射しますが、大半は処方薬を自宅で内服する治療法です。

溶連菌の治療薬

溶連菌感染症の原因は細菌なので、治療は抗生物質が有効です。主に使われる薬は以下の3種類があります。
  • ペニシリン系
  • マクロライド系
  • セフェム系
どの薬も処方箋医薬品で、市販薬はありません。第一選択薬とされるのがペニシリン系です。世界で初めて量産された抗生剤で信頼性が高い薬ですが、1日3回の服用を10日間続ける必要があります。ペニシリンにアレルギーがある人に推奨されるのが、マクロライド系の抗生剤です。また、セフェム系は7日間の服用で有効なことから採用する場合もありますが、耐性菌が出やすい面もあります。のどの痛みや発熱に対しては、別に抗炎症薬・解熱剤・トローチなどが処方されます。

治療薬服用で注意したい点

抗生剤も含め治療薬は、発症からできるだけ早い時期の服用が回復を早めます。薬物治療を行えば除菌され症状もすみやかに治まるので、できる限り早く受診して診断を受けることが大切です。また、処方された抗生物質は自己判断で止めてはいけません。薬は処方された分を完全に飲み切ってください。途中でやめると菌が再び増殖を始め、症状が復活して長引くうえ合併症のリスクも高めます。合併症予防のためにも、溶連菌を除菌し切ることが重要です。

溶連菌感染症になりやすい人・予防の方法

溶連菌感染症にかからないためには、感染リスクが高い人や予防法を知っておくと感染抑止に有効です。溶連菌感染症になりやすい人と予防法を解説します。

溶連菌感染症になりやすい人

溶連菌感染症になりやすいのは、3歳から14歳までの学童期の子どもとその家族です。溶連菌は飛沫感染・接触感染でうつるので、多くの子どもが集団で長時間過ごす学校が感染源になるのは避けられません。会話や咳・くしゃみなどの飛沫感染や、保菌者との直接・間接的な接触で感染し、それが家庭内で家族にも感染する図式です。

溶連菌感染症の予防法

現時点では溶連菌に効果がある予防接種はありません。そのため、予防は感染者との接触を避けることに尽きます。具体的には下記のとおり一般的な感染予防策です。
  • うがい
  • 手洗い
  • マスク
  • タオル・食器などの共用を避ける
抗生剤服用後24時間で感染力がなくなるので、子どもが感染した家族の対応は短期間で済みます。

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