

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
インフルエンザの概要
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる急性呼吸器感染症です。毎年冬季に流行し、突然の高熱、咳、のどの痛み、全身の倦怠感、筋肉痛などの症状を呈します。特に高齢者、幼児、基礎疾患を持つ人々において重症化しやすく、迅速な診断と治療が求められます。
インフルエンザの原因
インフルエンザは、インフルエンザウイルスA型、B型、C型によって引き起こされます。特にA型とB型が主な流行の原因となります。これらのウイルスは、飛沫感染(咳やくしゃみによる飛沫)や接触感染(ウイルスが付着した物に触れた手で目や鼻、口に触れること)を通じて人から人へ広がり、感染力が大変強いことが特徴です。
- A型インフルエンザ
A型インフルエンザウイルスは、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という2つの表面たんぱく質の組み合わせによって分類されます。現在は主に冬季において、A型であるH3N2とH1N1、およびB型の3種のインフルエンザウイルスが世界中で流行しています。 - B型インフルエンザ
B型インフルエンザは、A型に比べて遺伝子的に安定しており変異が少ないため、大きな流行は起こりません。しかし、季節性インフルエンザとして冬季に一定の流行をみせることに加え、冬季以外の季節外れに発生したり、消化器症状が出たりすることがあります。 - C型インフルエンザ
C型インフルエンザウイルスは検査できる医療機関が少なく、実際にかかったとしても気付かないまま過ごしてしまう可能性があります。子どもの頃に感染することが多く、多くの大人は免疫を獲得しています。免疫を獲得することでその後はほぼ一生かからないと言われています。
インフルエンザの前兆や初期症状について
典型的なインフルエンザの経過は、インフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現れ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1週間の経過で軽快することが多い傾向です。いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強く、特に、高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者さん、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者さんでは、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、入院や死亡の危険が増加します。
また、小児では中耳炎の合併、熱性痙攣や気管支喘息を誘発することもあります。近年、幼児を中心とした小児において、急激に悪化する急性脳症が増加することが明らかとなっています。厚生労働省「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班」で行った調査によると、毎年50~200人のインフルエンザ脳症患者が報告されており、その約10~30%が死亡しています。臨床経過や病理所見からは、ライ症候群とは区別される疾患と考えられますが、原因は不明です。よって、現在も詳細な調査が続けられています。 インフルエンザの前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科、小児科(子どもの場合)です。インフルエンザはウイルス感染症であり、内科や小児科(子どもの場合)で診断と治療が行われています。
インフルエンザの検査・診断
インフルエンザの診断には主に迅速診断キットが使用され、鼻咽頭からの分泌物を採取して抗原を検出します。しかし、発症直後(発熱から12時間以内)はウイルス量が十分でないため、偽陰性の結果が出る可能性があります。そのため、検査は発症から12〜24時間以降、できれば48時間以内に行うことが推奨されています。
インフルエンザの治療
インフルエンザの治療には、対症療法と抗インフルエンザ薬が使用されます。対症療法には、安静、十分な水分摂取、解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)の使用などが含まれます。抗インフルエンザ薬としては、オセルタミビル(タミフル)、ザナミビル(リレンザ)、ペラミビル(ラピアクタ)、バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ)などがあり、発症から48時間以内に投与することが効果的です。ただし、その効果はインフルエンザの症状が出始めてからの時間や病状により異なりますので、使用する・しないは医師の判断になります。
抗インフルエンザウイルス薬の服用を適切な時期(発症から48時間以内)に開始すると、発熱期間は通常1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少します。なお、症状が出てから2日(48時間)以降に服用を開始した場合、十分な効果は期待できません。効果的な使用のためには用法、用量、期間(服用する日数)を守ることが重要です。
A型にのみ有効なアマンタジン塩酸塩はほとんどのインフルエンザウイルスが耐性を獲得しており、使用の機会は少なくなっています。バロキサビル マルボキシルについては、薬剤耐性などの観点から、一般社団法人日本感染症学会と日本小児科学会が以下の趣旨の提言を出しています。
- 12歳未満の小児では、慎重に投与を検討する(積極的な投与を推奨しない)。
- 免疫不全患者や重症患者では、単独での積極的な投与は推奨しない。
抗ウイルス薬の種類と用法・用量は以下の通りです(用量は成人量)。なお、実際の使用においては添付文書を参照してください。
- オセルタミビル(タミフルⓇ)
用法・用量: 1 回 75mg を 1 日 2 回、5 日間内服。
注意点:10 歳以上の未成年の患者さんにおいては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に 異常行動が報告されています。このため、この年代の患者さんには、合併症、既往歴などからハイリスク 患者と判断される場合を除いては、原則として使用を差し控えることになります。使用する場合は投与中の異常 行動について留意が必要です。 - ペラミビル(ラピアクタ® )
用法・用量: 通常、成人にはペラミビルとして 300 mg を 15 分以上かけて単回点滴静注します。合併症などにより重症化するおそれのある患者さんには、1 日 1 回 600 mg を 15 分以上かけて単回 点滴静注しますが、症状に応じて連日反復投与が可能です。なお、年齢、症状に応じて適宜減量する必要があります。
注意点:未成年者については投与中の異常行動について留意しましょう。 - ザナビミル(リレンザ® )
用法・用量: 1 回10mg(5mg ブリスターを2 ブリスター)を、1 日2 回、5 日間、専用の吸入器 を用いて吸入します。
注意点:気管支攣縮の報告があり、気管支喘息や COPD の患者さんには推奨されません。未成年者に ついては投与中の異常行動について留意しましょう。乳製品に過敏症の既往のある患者さんへの投与は注意が必要です。 - ラニナミビル(イナビル® )
用法・用量: 40mg を単回吸入投与します。
注意点:同効の吸入薬のザナミビルにおいて、気管支喘息患者に使用した際に気管支攣縮の報告が見られているため、気管支喘息やCOPDの患者さんには推奨されません。また、単回吸入にて治療が終了するため、しっかりとした吸入が求められます。未成年者については投与中の異常行動について留意しましょう。乳製品に過敏症の既往のある患者さんへの投与は注意が必要です。
インフルエンザになりやすい人・予防の方法
インフルエンザにかかりやすい人としては、高齢者、子ども、妊婦、基礎疾患を持つ人々が挙げられます。また、重篤化しやすい基礎疾患には、以下のものがあります。
- 65 歳以上の年齢
- 呼吸器疾患:喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など。
- 心血管疾患:心臓や冠動脈疾患(高血圧単独を除く)
- 糖尿病:免疫機能が低下している場合は感染リスクが高く、重症化しやすい。
- 腎疾患:慢性腎臓病や透析治療を受けている患者さん。
- 免疫不全:がん治療を受けている患者さん、HIV感染者、臓器移植後の免疫抑制療法を受けている患者さん。
- 神経疾患および神経筋疾患(運動麻痺、痙攣、嚥下障害):てんかん、脳卒中、多発硬化症など。
- 妊婦
- 長期療養施設の入所者
- 著しい肥満
- アスピリンの長期投与を受けている者
- がん患者さん
予防のためには、以下の方法が推奨されます。
- ワクチン接種
毎年流行する季節性インフルエンザのウイルス株に対応しているため、毎年接種することが推奨されています。 - 手洗い
適切なタイミングで行われる手洗いは、ウイルスの接触感染を防ぐ効果があります。 - マスクの着用
特に流行期間中や人混みの中では、飛沫感染予防としてマスクの着用が有効です。 - 適切な咳エチケット
咳やくしゃみをする際には、口と鼻をティッシュや肘で覆うことが大切です。 - 健康的な生活習慣
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけることで免疫力を高めることができます。インフルエンザ流行期に、インフルエンザの特徴的な症状が現れた場合、周囲の人間に感染させないように、無理をせず十分な休息をとる必要があります。症状に応じて医療機関を受診することが必要です。
参考文献
- 国立感染症研究所「インフルエンザの病原体」
- 厚生労働省インフルエンザ総合対策ページ
- <成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン 第二版
- 日本医師会「インフルエンザの予防と治療」
- 日本小児科学会 新興・再興感染症対策小委員会 予防接種・感染症対策委員会 2019/2020 シーズンのインフルエンザ治療指針 ―2019/2020 シーズンの流行期を迎えるにあたり―
- 日本医師会「インフルエンザの予防と治療」




