監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
ベーチェット病の概要
ベーチェット病は全身に炎症をきたす疾患です。
- 口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
- 皮膚症状
- 外陰部潰瘍
- 眼症状
4つが主症状とよばれ、症状の発作を繰り返します。
地中海沿岸地域から中近東・日本を含む東アジアにかけて患者さんが多く認められるため、シルクロード病ともよばれています。
発症に男女差はほとんどありません。しかし、男性の方が重症化しやすいと考えられています。
ベーチェット病の主症状
口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍はいわゆる口内炎です。
ベーチェット病の場合は繰り返し再発し、強い痛みを伴います。
多くの場合は10mm以下の小さな円形で正常な粘膜との境界がはっきりした浅い潰瘍が、唇・舌・歯肉・頬の裏・口蓋など口の中の粘膜があるところにできます。
皮膚症状
皮膚症状として典型的なのは結節性紅斑様皮疹・皮下の血栓性静脈炎・毛嚢炎様皮疹です。
結節性紅斑
結節性紅斑とは下肢に好発する痛みを伴う小さな赤い湿疹で、触るとしこりがあるのがわかります。
血栓性静脈炎とは皮膚の表面に近い静脈に血栓ができることで腫れや痛みが出てくることを指します。
毛嚢炎様皮疹とはニキビの様な湿疹のことです。
外陰部潰瘍
外陰部潰瘍とは、陰部にできる潰瘍です。
見た目は口腔内潰瘍と同様に正常な部分との境界がはっきりしており、痛みを伴います。
潰瘍が深くなり治癒後に瘢痕を残すことがあります。
男性では陰嚢・陰茎・亀頭が好発部位です。
女性では大陰唇・小陰唇・膣粘膜にでき、月経周期と一致して悪化することがあります。
眼症状
眼症状としてはぶどう膜炎が重要な所見です。
発作性に生じ、ほとんどの方が両眼ともに炎症を認めます。
目の充血・痛み・視力低下・視野障害などをきたします。
発作が治ると症状も軽快します。
発作を繰り返すことで最終的に視力を失うケースもあるため、再発を繰り返さないようにすることが重要です。
4つの症状の全てが揃うと完全型とよばれますが、一部の症状しか出ない「不完全型」の患者さんもいます。
ベーチェット病の副症状
主症状のほかにもさまざまな部位に症状をきたします。
特に多いのは関節・精巣上体・腸管・血管・神経の症状です。
これらは副症状とよばれています。副症状は同様の症状をきたす疾患が多く、鑑別が重要です。
関節症状は副症状の中でも特に頻度が高く、半数以上の患者さんで起こります。膝・手首・足首・肘・肩などの大きな関節を中心に痛みや腫れが出るのが特徴です。
精巣上体の炎症は男性患者さんの1割程度に起こります。睾丸の腫れや痛みが主な症状です。
腸管病変として最も多いのは小腸から大腸に移行する回盲部の潰瘍です。右下腹部痛や下血を起こし、重症になると腸が破れてしまうこともあります。
血管の病変は動脈・静脈ともに起こる可能性があります。
もっとも多いのは静脈の血栓症です。
足などの大きめの静脈に血栓症ができ、その部位が腫れて痛みます。
時に血栓症が肺に飛んで胸痛・呼吸困難を起こす肺塞栓症をきたすこともあります。
動脈病変では血管の瘤(動脈瘤)ができたり、閉塞をしたりします。
特に肺動脈瘤ができると予後不良とされていますが、日本人患者さんには多くありません。
神経病変は男性に多く認められます。
症状は大きく2つのタイプに分類されます。
ひとつは急性の髄膜炎や脳幹脳炎をきたすものです。
一部には眼症状に使用するシクロスポリンが関わっていることがあります。
もうひとつは慢性に麻痺・人格変化・精神症状・認知機能障害などをきたし緩徐に進行するパターンです。
こちらのタイプでは、一部の方は若くして認知症症状が進行してしまうことがあります。
腸管病変・血管病変・神経病変は特殊型とよばれており、致命的になったり重篤な後遺症を残したりすることがあります。
ベーチェット病の原因
ベーチェット病の原因ははっきり分かっていません。
特定の遺伝的な素因に、細菌・ウイルスなど病原微生物の感染など外的な環境要因が加わって発症するのではないかと考えられています。
白血球の異常な活性化が起こり、強い炎症が惹起されることが発作的な症状の原因と推察されています。
ベーチェット病の前兆や初期症状について
ベーチェット病で初期症状になることが多いのは口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍です。
ベーチェット病の患者さんほぼ全員に起こり、初期のみならず経過中に何度も出現します。
命に関わるものではありませんが、痛みから喋ったり食事したりすることが苦痛になる人もいます。
繰り返すことで患者さんの生活の質に大きく影響しかねません。
健康な方でも口内炎はできることから、この症状のみでベーチェット病であると確定することはできません。
経過のなかでほかの症状が揃うことで、はじめて診断に至ります。
ベーチェット病の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、内科、皮膚科、眼科です。
ベーチェット病は全身性の炎症性疾患であり、内科や皮膚科や眼科で診断と治療が行われています。
ベーチェット病の検査・診断
ベーチェット病には診断の決め手となるような検査がありません。
注射針を刺した跡が腫れたり膿んだりする「針反応」が特徴的といわれますが、日本人での陽性率は高くありません。
また、症状のある時に炎症反応が高くなりますが、特異的なものではありません。
診断は症状の組み合わせを考慮しながらほかの疾患の除外を行い、総合的に判断します。特徴的な症状が経過の中で繰り返されていることが診断のポイントです。
ベーチェット病の治療
ベーチェット病の症状は多様であり個々の患者さん毎に治療内容も異なります。以下に症状毎の治療例を挙げます。
皮膚粘膜病変
口腔内潰瘍や皮膚病変・外陰潰瘍に対してはステロイドの外用薬やコルヒチンが治療の中心です。
コルヒチンは白血球、とくに好中球の働きを抑える内服薬です。
また、難治性の口腔内潰瘍を繰り返す方にはアプレミラストという内服薬が効果的です。
関節症状
関節症状に対しては消炎鎮痛剤・コルヒチン投与が行われます。関節症状が強いときには短期的にステロイドを用いることもあります。
眼症状
眼病変の発作時の治療の基本はステロイドの局所投与もしくは内服での全身投与です。
発作を繰り返さないためにコルヒチンやシクロスポリンという免疫抑制剤を使用します。
最近では難治例を中心にTNF阻害薬とよばれる炎症を起こす生理活性物質を抑える注射・点滴の薬剤が使用されています。
治療の進歩により失明する患者さんは減ってきました。
腸管病変
活動性の腸管病変では絶食や低脂肪食などで腸管の安静をはかることが重要です。
同時に腸の炎症を抑える5-ASA製剤やステロイドにより治療を行います。
疾患活動性が高ければ、免疫抑制剤やTNF阻害薬が投与されることもあります。
腸管の穿孔(穴が開くこと)・狭窄・大量出血などが起こった場合は手術が必要です。
血管病変
血管病変ではステロイドや免疫抑制剤が使用されます。
難治性の場合はTNF阻害薬が考慮されます。
動脈瘤が破裂した場合には緊急で手術が必要です。
一方、破裂していない動脈瘤の手術は縫い合わせた部分に動脈瘤の再発が起こりやすいことが知られています。
そのため、待機的な手術には慎重になることが多いようです。
血栓症に対しては抗凝固療法を行うことがあります。
神経症状
急激に進行する神経症状に対しては大量のステロイド療法が行われます。
シクロスポリンを使用している場合は中止が必要です。
慢性に進行する場合は免疫抑制剤が用いられ、治療に難渋する場合はTNF阻害薬も考慮されます。
ベーチェット病になりやすい人・予防の方法
人種と関係なく、白血球の血液型であるHLAが発症しやすさに関与していることがわかっています。
ベーチェット病に特に多いのはHLA-B51という型を持つ人です。
しかし、HLA-B51陽性の方全員がベーチェット病になるわけではありません。
日本においてはHLA-A26陽性の患者さんも多いことがわかっています。
現時点で確立された予防方法はありません。
ただし、口腔内の細菌が疾患の増悪と関連している可能性が示唆されているため、定期的な歯科受診で口腔衛生を保つことは重要です。
むし歯・歯周病・扁桃炎などの治療を行ってください。
参考文献
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsci/34/5/34_5_408/_pdf/-char/ja
- https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/behcet/
- https://www.nanbyou.or.jp/entry/187
- https://www.nanbyou.or.jp/entry/330
- https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/s2_q11.html
- https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/behcet-2.pdf
- https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/Behcet’s_disease_GL.pdf
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/54/9/54_3115/_pdf
- https://www.nms-behcet.jp/patient/behcet/remedy.html
- https://www.nms-behcet.jp/patient/behcet/care.html
- https://www.nms-behcet.jp/patient/question/index.html