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白井 沙良子

監修医師
白井 沙良子(医師)

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小児科医(日本小児科学会専門医)。慶應義塾大学医学部卒業。総合病院にて研修を修了し、現在はクリニックにて、様々な感染症やアレルギー疾患の診療、乳幼児健診、育児相談などを担当。オンライン医療相談、医療記事の執筆・監修、企業向けセミナーなども通じて「エビデンスに基づいた育児情報」を発信している。

ヘルパンギーナの概要

ヘルパンギーナは、エンテロウイルスによる感染症で、乳幼児における夏風邪の代表的な疾患です。
同じく夏風邪として有名な疾患に手足口病があり、両者はほぼ同じ種類のウイルスによって起こります。
高熱と口腔粘膜の水疱や潰瘍をきたす疾患がヘルパンギーナ、口腔粘膜に加えて手や足にまで水疱性の発疹が現れるのが手足口病です。

ヘルパンギーナにかかる患者さんの年齢は5歳以下が全体の90%以上を占め、1歳がもっとも多いという報告があります。エンテロウイルスはそれぞれの型ごとに終生免疫を獲得します。症状の出ない不顕性感染も多いことから、年齢を重ねるごとに抗体の保有率が上昇します。ヘルパンギーナや手足口病にかかるのが乳幼児に多いのはそのためです。ただし、まれな型のウイルスによる流行では大人でも発症することがあります。

エンテロウイルスの不顕性感染の患者さんからもウイルスは排泄され、感染源となります

ヘルパンギーナの原因

ヘルパンギーナおよび手足口病は、いずれもエンテロウイルスによる感染症です。
エンテロウイルスは人のみに感染するため、ほかの動物などから感染することは基本的にありません。
エンテロウイルスは名前の通り主に腸管で増幅するため、ウイルスは便からも排泄され、感染経路となります。
エンテロウイルスには、ポリオウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス68-71型などがあります。

ヘルパンギーナの原因となるウイルスは、コクサッキーウイルスA型、コクサッキーウイルスB型、エコーウイルスなどです。
もっとも多いのがコクサッキーウイルスA型です。
手足口病の原因ウイルスはエンテロウイルスA型、コクサッキーウイルスA16型、エンテロウイルス71型などです。

エンテロウイルス感染症は人から人への感染を起こします。
感染経路は主に飛沫感染と糞口感染です。飛沫感染は、唾液などに含まれるウイルスがほかの人の口腔粘膜から侵入することでうつります。
糞口感染は、便に排泄されたウイルスが手などに付着し、それが口腔粘膜から侵入することでうつります。
手足口病では、水疱から滲出した液体が付着することによる接触感染でも感染を引き起こすことがあります。

ヘルパンギーナの前兆や初期症状について

ヘルパンギーナの初期症状

ヘルパンギーナは突然の高熱で発症します。年齢が低いほど熱が高くなる傾向にあります。
そのほか、咽頭痛や嚥下痛が生じます。
年少児では、のどの痛みによる不機嫌や食事摂取不良が見られることもあります。

特徴的なのが口腔所見で、のどの奥に数mm大の小さな水疱がみられます。
水疱は破れると浅い潰瘍になります。
ほとんどは軽症で経過し、熱の続く期間は1~4日、口腔所見は3~7日で消退します。

ヘルパンギーナ・手足口病の合併症

合併症として、ヘルパンギーナによる高熱では、熱性けいれんが起こりやすいことが知られています。
また、まれに無菌性髄膜炎や脳炎・脳症などの中枢神経疾患、心筋炎や心膜炎などの循環器疾患をきたすことがあります。
中枢神経疾患は特にエンテロウイルス71型に多いと言われています。

ヘルパンギーナの前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、小児科(子どもの場合)、内科(成人の場合)です。
ヘルパンギーナは主に子どもに多く見られるウイルス性の病気であり、小児科が適していますが、成人の場合は内科を受診することが適しています。

ヘルパンギーナの検査・診断

臨床診断

ヘルパンギーナ、手足口病はいずれも臨床症状で診断されることがほとんどです。特徴的な口腔所見や、手足の水疱の所見があれば診断可能です。
感染症法に基づく届け出においても、①突然の高熱での発症、②口蓋垂付近の水疱疹や潰瘍や発赤、の2点があれば確定診断してよいとされています。

ウイルスを特定するための検査方法はいくつかありますが、いずれも臨床の現場で用いられることは多くありません。

ウイルス分離

一つは、培養によるウイルス分離です。検体には咽頭ぬぐい液、糞便または直腸ぬぐい液、髄液などが用いられます。
糞便以外の検体からエンテロウイルスが分離された場合は、基本的には病態に関与していると解釈します。

ウイルス遺伝子検出

PCR検査により、エンテロウイルスを検出することもできます。
感度はウイルス分離の10~1000倍とされています。
コクサッキーウイルスA型は培養細胞で分離されにくいため、PCR検査が有用です。

血清学的診断

エンテロウイルスの診断において、血清学的診断の価値はさほど高くありません。
エンテロウイルスに対する特異的IgM抗体を検出する測定法はないため、血清学的診断にはペア血清の測定が必要となります。
そのため、発症から7日以内の急性期と、発症から2~4週間後の回復期の血清を用いて抗体価を測定し、4倍以上の上昇をもって有意とします。
しかし、エンテロウイルスはほかのウイルスとの交差反応が多いため、注意が必要です。

ヘルパンギーナの治療

対症療法

ヘルパンギーナおよび手足口病に対する、特異的な抗ウイルス薬はありません。そのため、対症療法が中心となります。
発熱や頭痛、咽頭痛に対してはアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬が用いられます。
ヘルパンギーナ、手足口病ではのどの痛みにより経口摂取が損なわれることがあり、その際は補液が必要です。

合併症の治療

合併症として生じる無菌性髄膜炎、脳炎・脳症、心筋炎などを発症した場合は入院が必要となることがあります。
治療として、エビデンスは乏しいですが、免疫グロブリン投与は有効性が示唆されています。

ヘルパンギーナになりやすい人・予防の方法

なりやすい人

ヘルパンギーナ、手足口病は乳幼児に多い疾患です。
ウイルスの型特異的に終生免疫を獲得するため、加齢に伴い罹患機会が減少するからです。

重症化しやすい人としては、新生児、免疫不全者があげられます。
これらの背景がある患者さんでは中枢神経あるいは循環器の合併症のハイリスクとなります。

予防の方法

ヘルパンギーナ、手足口病に対する有効な予防接種、あるいは予防薬はありません。

エンテロウイルスの感染経路は、飛沫感染あるいは糞口感染です。
エンテロウイルスはアルコールに対する耐性を持つため、石鹸を用いた手洗いが有効です。
特に、排便からのウイルス排泄期間は長いため、オムツを替えたあとの手洗いは重要となります。

ヘルパンギーナ、手足口病は感染症法における5類感染症です。
学校保健安全法においては、予防すべき感染症には指定されておらず、『その他の感染症』とされています。
発熱や喉頭・口腔の水疱・潰瘍を伴う急性期は出席停止、治癒期は全身状態が改善すれば登校(登園)可とされています(多くの保育園では、医師による登園許可書が必要)。


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