監修医師:
澤田 樹佳(富山県のさわだクリニック)
20022金沢大学卒 / 2014年金沢大学大学院卒 / 現在は、富山県のさわだクリニック院長 / 専門は泌尿器科、在宅、緩和医療、東洋医学
保有免許・資格
泌尿器科専門医、指導医
医師へのコミュニケーションスキルトレーナー
目次 -INDEX-
糖尿病の概要
糖尿病は、血液中のブドウ糖濃度が慢性的に高くなる代謝疾患です。インスリンというホルモンの分泌不足や作用不全が原因で発症します。インスリンは膵臓のランゲルハンス島(膵島)にあるβ細胞から分泌され、細胞の受容体と結合することで血液中の糖を細胞に取り込み、エネルギーとして利用する役割を果たします。
糖尿病は大きく1型と2型、そのほかの糖尿病、妊娠糖尿病に分類されます。1型糖尿病はインスリン依存型糖尿病とインスリン非依存があり、ウイルス感染や膵β細胞に対する自己抗体の産生によって引き起こされる自己免疫疾患と突発性の2種類です。免疫系が誤って膵β細胞を攻撃し破壊するため、インスリンをほとんどまたは全く分泌できなくなります。
一方、2型糖尿病はインスリン抵抗性の増加およびインスリン分泌の低下が原因であり、特に成人期以降に発症します。2型糖尿病は生活習慣病の一つであり、肥満、エネルギー摂取過多な食生活、運動不足、ストレスなどがリスク要因となります。
糖尿病の原因
1型糖尿病の原因は主に自己免疫反応です。遺伝的要因やウイルス感染(コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、ムンプス、麻疹、サイトメガロウイルスなど)が引き金となります。
一方、2型糖尿病の原因は多岐にわたり、遺伝的要因に加え、生活習慣が大きなリスク要因です。特に肥満は2型糖尿病の主要なリスク要因であり、内臓脂肪の蓄積がインスリン抵抗性を高めます。
糖尿病の前兆や初期症状について
糖尿病の初期症状は多様で、代表的な症状には、頻尿、過度な喉の渇き、多飲、急激な体重減少、慢性的な疲労感、視力の低下などがあります。これらの症状は、血糖値が高くなることで体が水分を排出しようとするために生じます。特に2型糖尿病の場合、症状が徐々に進行するため、患者さんが気づかないことが多いです。
糖尿病が進行すると、手足のしびれや感覚異常、皮膚感染症の治りにくさなどが見られるようになります。これらは糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症といった合併症の初期症状である可能性があります。特に注意が必要なのは、糖尿病性網膜症による視力の低下や糖尿病性腎症による腎機能の低下です。これらの合併症は放置すると重篤な状態を招くことがあります。
これらの症状がみられた場合、内科か糖尿病内分泌科を受診して適切な検査・治療を受けることをおすすめします。
糖尿病の検査・診断
糖尿病の診断には、血糖値の測定が不可欠です。主な診断方法としては、空腹時血糖値、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、およびヘモグロビンA1c(HbA1c)の測定があります。
糖尿病の診断基準は以下の通りです。
・1回の血糖測定では診断できない
・HbA1cのみでは糖尿病と診断でない
・糖負荷試験は絶食状態で75gのぶどう糖を投与する
診断には、患者さんの生活習慣や家族歴の確認も重要です。これらの情報を基に、患者さんごとに適切な治療方針を決定します。さらに、血中インスリンレベルの測定を行うことで、糖尿病の種類や状態をより正確に評価し、適切な治療計画を立てることが可能となります。
糖尿病の治療
糖尿病の治療は、病気の進行を遅らせ、糖尿病がない人と変わらない生活の質と寿命を実現することとしています。治療法は主に食事療法、運動療法、薬物療法、インスリン療法に分けられます。
食事療法
食事療法では、バランスの取れた食事を摂ることが重要です。炭水化物の管理が求められます。低GI食品を選び、食物繊維を多く含む食事を心がけることが推奨されます。脂質の摂取も適切に管理し、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の摂取を控えることが大切です。また、食事の摂取量や回数を規則的にし、過食を防ぐようにしましょう。症状の改善には、カロリー制限や特定の栄養素に偏った食生活を改める必要があります。
運動療法
運動療法は、インスリン感受性を改善し、血糖値を下げる効果があります。定期的な有酸素運動としてウォーキングやジョギング、サイクリングなどを行うことが推奨されます。有酸素運動の頻度は週に150分以上かそれ以上、週に3回以上で中強度の運動を目標にするのが理想です。さらに、筋力トレーニングとしてレジスタンストレーニングを週に2〜3回取り入れることで、筋肉量を増やし、基礎代謝を向上させることができます。運動療法は、血糖値のコントロールに加えて、心血管イベントのリスクを減らし、心肺機能の向上や体重管理にも寄与します。また、少ない運動でも効果的な運動にはなります。
薬物療法
薬物療法は、食事療法や運動療法で十分な血糖コントロールが得られない場合に行われます。血糖値を下げるための薬剤として、メトホルミン、スルホニル尿素(SU)薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬などが代表的です。これらの薬剤は、インスリン分泌を促進したり、インスリン感受性を改善したり、腎臓での糖再吸収を抑制したりする作用があります。薬物療法は患者さんの状態に応じて個別に調整される必要があります。
インスリン療法
1型糖尿病の患者さんや、2型糖尿病で薬物療法が効果を示さない方の場合には、インスリン療法が必要です。インスリン注射は、血糖値を適切に管理するために不可欠であり、自己注射やインスリンポンプを使用して行われます。インスリン療法を行う際には、血糖値の自己モニタリングが重要であり、食事や運動と合わせて適切なインスリン投与量を調整することが求められます。インスリン療法には、持効型インスリン、速効型インスリンなどさまざまな種類があり、患者さんの生活スタイルや病態に応じて選択されます。
インスリン製剤の種類 | 注射のタイミング | 特徴 |
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超速効型インスリン製剤 | 食事のタイミングで注射 |
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速効型インスリン製剤 | 食事のタイミングで注射 |
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中間型インスリン製剤 | 食事のタイミングに関わらず決まった時間に注射 |
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持効型溶解インスリン製剤 | 食事のタイミングに関わらず決まった時間に注射 |
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混合型インスリン製剤 | 食事のタイミングで注射 |
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配合溶解製剤 | 食事のタイミングで注射 |
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糖尿病になりやすい人・予防の方法
2型糖尿病になりやすい人の特徴として、肥満、エネルギー過多な食生活、運動不足、家族歴、高齢が挙げられます。特に内臓脂肪が多い人はインスリン抵抗性が高まりやすく、糖尿病のリスクが増大します。また、過去に妊娠糖尿病を経験した女性や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を持つ女性も糖尿病のリスクが高いです。さらに、高血圧や脂質異常症を併発していると糖尿病の症状を悪化させるだけでなく、重篤な疾患を引き起こすリスクを高めます。
食事の工夫
糖尿病予防のためには、まず総エネルギー摂取量の適正化をした健康的な食生活を心がけましょう。バランスの取れた食事として野菜や果物、全粒穀物、低脂肪のたんぱく質を多く含む食品を選ぶのがおすすめです。逆に、甘味糖を多く含む食品の摂取は控えましょう。また、食べる順番を工夫をすることで血糖値の急上昇を抑えることができます。例えば、食物繊維を多く含む野菜を最初に摂取し、その後にたんぱく質、最後に炭水化物を摂るように意識しましょう。よく噛んで食べることも血糖値の管理に役立ちます。
タバコや飲酒を控える
タバコや飲酒を控えることも糖尿病予防に効果的です。喫煙はインスリン抵抗性を高め、糖尿病のリスクを増加させます。また、アルコール自体が高カロリーであり、肥満の原因にもなります。
ストレス管理
ストレス管理にも注意しましょう。慢性的なストレスは血糖値を上昇させ、インスリン抵抗性を高めることが知られています。適度な休養を取り入れて、心身の健康を維持するように心がけましょう。ヨガや瞑想、深呼吸法などのリラクゼーション技法を取り入れるとストレスの軽減につながります。
睡眠
十分に睡眠を取ることも糖尿病を予防するうえで重要です。睡眠不足はインスリン抵抗性を高め悪化させ、血糖値を上昇させる可能性があります。毎晩十分な睡眠を確保し、規則正しい生活リズムを維持しましょう。良質な睡眠を取ることで、体内のホルモンバランスが整い、血糖コントロールの改善が期待できます。
健康診断
定期的に健康診断を受けることで早期に異常を発見し、適切な治療が受けられます。特に、糖尿病の家族歴がある人やリスク因子を持つ人は、一年に一度は健康診断を受けることが推奨されます。
参考文献
- 標準理学療法学・作業療法学 専門基礎分野 内科学 第3版(書籍)
- 内部障害理学療法学 循環・代謝(書籍)
- 糖尿病診療ガイドライン2024
- 糖尿病と末梢神経障害
- 糖尿病に対する運動療法研究の変遷と今後の展望(pdf)
- 糖尿病の病期別理学療法ガイドライン(pdf)
- 糖尿病の理学療法のための検査・測定のポイント(pdf)
- 糖尿病患者のフットケアにおける理学療法士の関わり(pdf)
- 糖尿病の理学療法のための検査・測定のポイントとその実際(pdf)
- 糖尿病患者の神経障害に対する理学療法士の関わり(pdf)
- 糖尿病患者の体力特性とその測定方法(pdf)
- 糖尿病教室への理学療法士の関わりの概要と課題(pdf)
- 糖尿病治療における理学療法および理学療法士の役割(pdf)
- 糖尿病性腎症重症化予防(pdf)
- 糖尿病性腎症重症化予防プログラム(pdf)
- 糖尿病性腎症重症化予防事業 事業立案の手引き(pdf)