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膀胱腟瘻
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

膀胱腟瘻の概要

膀胱腟瘻は、膀胱(尿を貯める臓器)と腟の間に異常な通り道ができ、尿が常に腟から漏れ出てしまう状態を指します。この病気は、女性にとって最も苦痛を伴い、社会的にも大きな影響を与える病気の一つです。患者さんは常に尿が漏れ続けることで、不快な臭いや不快感に悩まされ、深刻な社会生活上の問題を引き起こすことになります。この病気は紀元前1950年頃から記録が残っており、古代エジプトのミイラからも発見されています。

膀胱腟瘻の原因

先進国では、主に婦人科手術や骨盤手術、放射線治療、がんなどが原因となります。特に子宮摘出手術が最も多く、全体の約80%を占めています。手術の方法によっても発生率が異なり、腟からの手術では1000件中0.2件、腹部からの手術では1000件中1件、腹腔鏡手術では1000件中2.2件の割合で発生します。一方、発展途上国では、分娩時の難産が主な原因となっています。特に、胎児が産道に長時間はさまれることで、膀胱と腟の組織が圧迫され、壊死を起こすことで瘻孔(異常な通り道)が形成されます。早婚、栄養状態の悪さ、医療へのアクセスの困難さなどが、この状況を悪化させる要因となっています。

膀胱腟瘻の前兆や初期症状について

最も特徴的な症状は、手術後や分娩後に突然、尿が腟から漏れ始めることです。通常、婦人科手術後の場合、術後7日から12日目頃に症状が現れることが多く、これは手術時の組織の損傷や縫合部の治癒不全によるものです。尿は常に腟から漏れ続け、自分の意思でコントロールすることができません。これにより、衣服が常に濡れた状態となり、尿の臭いが気になり、皮膚のかぶれなどの問題も生じます。放射線治療後の場合は、治療から数年経過してから症状が現れることもあります。

膀胱腟瘻の検査・診断

診断は主に以下の方法で行われます。まず、膀胱に青い色素(メチレンブルー)を入れ、腟に綿を置いて患者さんに歩いてもらいます。綿が青く染まれば、膀胱腟瘻の存在が確認できます。また、膀胱鏡検査により、瘻孔の正確な位置や大きさを確認します。瘻孔の周囲の組織の状態も重要な情報となるため、炎症や壊死、感染の有無なども詳しく調べます。 長期間瘻孔が存在する場合や、複数回の手術を受けている場合は、膀胱の容量が減少していることがあり、これは治療方針を決める上で重要な情報となります。また、レントゲン検査や造影検査も行われ、尿管(腎臓から膀胱への管)の損傷がないかも確認します。

膀胱腟瘻の治療

治療方法は、瘻孔の大きさや位置、患者さんの状態によって選択されます。小さな瘻孔で、がんや放射線治療の影響がない場合は、保存的治療が有効なことがあります。尿道にカテーテルを2週間から2か月間留置し、膀胱を空にした状態を保つことで、自然に閉じることがあります。しかし、多くの場合は手術による治療が必要となります。手術は、周囲の炎症や感染が落ち着いてから行うことが望ましく、通常は発症から2-3か月後に行われます。手術方法には主に腟からのアプローチと腹部からのアプローチがあり、瘻孔の状態や術者の経験によって選択されます。 腟からの手術は、出血が少なく、入院期間が短いという利点があります。一方、腹部からの手術は、高い位置にある瘻孔や、複数の瘻孔がある場合、また再発例などに適しています。どちらの方法でも、瘻孔を完全に切除し、膀胱と腟の壁を層々に縫合することが基本となります。必要に応じて、組織の血流を改善するために、周囲の健康な組織を移植することもあります。手術後は、2-3週間程度尿道カテーテルを留置し、膀胱を空にした状態を保ちます。この間、膀胱の痙攣を抑えるお薬を使用することもあります。また、感染予防のための抗生物質も使用します。近年では、腹腔鏡やロボット支援手術など、より侵襲の少ない手術方法も開発されています。これらの方法は、より細かい手術操作が可能で、回復も早いという利点がありますが、高度な技術と特殊な機器が必要となります。

膀胱腟瘻になりやすい人・予防の方法

先進国では、主に婦人科手術を受ける方がリスク群となります。特に、骨盤内の手術歴がある場合、癒着や解剖学的な変化により、リスクが高くなる可能性があります。また、放射線治療を受けた方も、組織の血流が悪くなることでリスクが高まります。発展途上国では、若年での妊娠・出産、栄養状態の悪さ、医療へのアクセスの困難さなどが主なリスク因子となっています。予防には、まず、適切な産前産後のケアを受けることが重要です。特に分娩時の異常を早期に発見し、適切な処置を行うことが必要です。また、婦人科手術を受ける場合は、手術のリスクについて十分な説明を受け、理解することが大切です。  発展途上国においては、女性の教育水準の向上、栄養状態の改善、早婚の防止、医療サービスへのアクセス改善なども重要な予防策となります。特に、緊急産科医療へのアクセスを改善することが、分娩に伴う膀胱腟瘻の予防に大きく貢献します。手術後の管理も重要で、異常を早期に発見することで、より良い治療成績が期待できます。特に、術後7-12日目頃は注意深い観察が必要です。また、放射線治療を受ける方は、治療後も定期的な検診を受けることが推奨されます。

関連する病気

参考文献

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