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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の概要
発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH:paroxysmal nocturnal hemoglobinuria)は、
血液を作る細胞である造血幹細胞に遺伝子の異常が起こることで発症する病気です。この病気では、赤血球が破壊される「溶血」が主な症状として現れます。特に夜間や朝起きたときに尿が赤褐色になることが特徴的であり、これが病名の由来となっています。
発作性夜間ヘモグロビン尿症は、他の血液疾患である再生不良性貧血や骨髄異形成症候群と関係が深く、これらの病気と合併したり、移行したりすることもあります。病気の進行度や症状の現れ方は人によって異なり、重症化すると血栓ができやすくなったり、貧血が進行したりすることがあります。
この病気は
非常にまれであり、日本では約800人程度の患者が確認されています。発作性夜間ヘモグロビン尿症に関する研究は1974年から行われており、診断や治療法の確立が進められていますが、根本的な治療法はまだ確立されていません。
現在の治療は貧血や血栓症などの個々の病態に対する治療が中心となっています。(参考文献1)
発作性夜間ヘモグロビン尿症の原因
発作性夜間ヘモグロビン尿症は、赤血球の表面にある「
GPIアンカー」と呼ばれる構造を作る遺伝子が突然変異を起こすことで発症します。通常、GPIアンカーは赤血球の表面に補体(免疫の一部)を制御するたんぱく質を結びつけ、体内の免疫機能による誤った攻撃から赤血球を守る働きをします。しかし、発作性夜間ヘモグロビン尿症ではこのGPIアンカーが作られず、赤血球が自己の免疫システムに破壊されてしまいます。
この遺伝子異常は後天的なものであり、生まれつき持っているものではありません。したがって、家族の中に発作性夜間ヘモグロビン尿症の患者がいるからといって、必ずしも遺伝するわけではありません。なぜこの遺伝子異常が発生するのかはまだ完全には解明されていませんが、造血幹細胞の異常が積み重なることで発症することが示唆されています。(参考文献1)
発作性夜間ヘモグロビン尿症の前兆や初期症状について
発作性夜間ヘモグロビン尿症の主な症状は、溶血、骨髄不全、血栓症によって引き起こされるものです。特に以下のような症状が現れます。
血尿:夜間や朝起きたときに褐色の尿が出ることがあります。これは溶血によって血液の色素であるヘモグロビンが尿に混ざるためです。
貧血:溶血によって赤血球が減少し、全身の酸素供給が低下するため、疲れやすさ、めまい、息切れなどの症状が現れます。
血栓症:発作性夜間ヘモグロビン尿症の患者は、血液が固まりやすくなり、血栓(血のかたまり)ができやすくなります。これにより、肺塞栓症や脳梗塞、深部静脈血栓症などの合併症が発生する可能性があります。
腹痛・嚥下障害:消化器官の血管が詰まることで腹痛が起こることがあります。また、食べ物を飲み込む際に違和感を覚えることもあります。
その他の症状:男性では勃起障害が生じることがあります。また、慢性的な疲労感や息苦しさが続く場合もあります。(参考文献1)
発作性夜間ヘモグロビン尿症の検査・診断
発作性夜間ヘモグロビン尿症の診断には、フローサイトメトリーという特殊な検査が用いられます。この検査では、血液中に発作性夜間ヘモグロビン尿症タイプの赤血球がどれくらい存在するかを調べます。
発作性夜間ヘモグロビン尿症の診断基準としては、発作性夜間ヘモグロビン尿症タイプの赤血球が1%以上検出されることが条件となっています。
また、血液検査によって溶血していることを示す指標(LDHの上昇、ハプトグロビンの低下、間接ビリルビンの上昇)を確認することも重要です。その他、骨髄の検査を行い、他の血液疾患ではないことの確認を行うこともあります。(参考文献1)
発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療
発作性夜間ヘモグロビン尿症の根本的な治療法は現在のところ確立されていませんが、骨髄移植が唯一の根本治療とされています。しかし、骨髄移植はリスクが高く、適応できる患者は限られています。そのため、多くの患者は対症療法によって症状を管理します。
補体制御薬:発作性夜間ヘモグロビン尿症では補体が赤血球を破壊してしまうため、補体の働きを抑制することで溶血を抑えます。エクリズマブやラブリズマブといった薬が使用されます。
貧血への対応:重度の貧血がある場合、輸血を行うことがあります。
血栓症の予防:血栓ができるリスクが高い場合、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を使用することがあります。
(参考文献1)
発作性夜間ヘモグロビン尿症になりやすい人・予防の方法
発作性夜間ヘモグロビン尿症は
非常にまれな疾患で、日本では約800人程度の患者が確認されています。発症年齢は幅広く、10歳から80歳以上の方まで見られますが、特に20~60歳の成人に多い傾向があります。現在のところ、発作性夜間ヘモグロビン尿症を完全に予防する方法は確立されていません。
非常にゆっくり進行し、発症・診断からの平均生存期間は32.1年と言われています。
エクリズマブや
ラブリズマブといった薬の登場により今後は予後が改善されることが期待されます(参考文献1)