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腎血管筋脂肪腫
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

腎血管筋脂肪腫の概要

腎血管筋脂肪腫は、良性腫瘍であり、原因不明の孤発性の発症が8割程度で、結節性硬化症に伴うものは2割程度です。発症から徐々に大きさが増大しますが、50%程度が無症状で偶発的に検査で発見されます。腫瘍が増大し4cm以上になると側腹部痛、腫瘤触知、肉眼的血尿、血圧上昇といった症状が出現しやすくなります。診断には腹部超音波検査やCT、MRIを用いて腫瘍の有無を診断します。治療適応としては有症状であることが治療開始の絶対適応ですが、無症状の場合は総合的に判断が必要となります。腎血管筋脂肪腫内の動脈瘤が破裂する場合は激しい痛みや血尿を伴い、高度であれば出血性ショックとなる可能性があります。動脈塞栓術で止血が困難な場合は、手術で腫瘍の摘出や止血が行われる場合があります。無症候性でも予防的な動脈塞栓術や、腫瘍が3㎝を超えていたり、びまん性に腎血管筋脂肪腫が存在する場合はエベロリムスによる治療が選択される場合もあります。

腎血管筋脂肪腫の原因

腎血管筋脂肪腫は、血管、平滑筋、脂肪組織からなる良性腫瘍です。原因が特定できない孤発性の発症が8割程度で、結節性硬化症に伴うものは2割程度です。リンパ脈管筋腫症の病変の一部として発症する場合もあります。結節性硬化症では常染色体顕性遺伝(優性遺伝)という遺伝形式をとり、TSC2もしくはTSC1遺伝子の異常により、腫瘍が増大すると考えられています。発症する腎臓は左側が46.1%、右側が45.3%、両側が8.6%との疫学研究があります。

腎血管筋脂肪腫の前兆や初期症状について

発症から徐々に大きさが増大するとされますが、腫瘍が小さいサイズの時は無症状です。4割から5割の腎血管筋脂肪腫が、診断時に無症状といわれています。腫瘍径の増大とともに有症状の頻度が上がり、主な臨床症状は、腹痛、腹部腫瘤、圧迫感、肉眼的血尿ですが、腎血管筋脂肪腫に特有の症状はありません。腫瘍径が4cmを超えると、側腹部痛を自覚する頻度が50%程度に上昇するとされています。腎血管筋脂肪腫が破裂した場合、尿路に出血すれば激しい血尿が出現し、後腹膜へ出血すると激しい痛みを引き起こします。出血多量の場合には出血性ショックに至ることもあります。

腎血管筋脂肪腫の検査・診断

まず腹部超音波検査を行います。検診にて偶発的に指摘されることも少なくありません。また、結節性硬化症と診断された方は直ちに行うべきとされます。超音波検査で腎臓に腫瘍があるかどうかを確認します。側腹部痛や血尿といった腎病変に伴う症状の出現や、腎血管筋脂肪腫の急速な増大、腫瘍径が4cmであったり、5mm以上の動脈瘤を有する場合や、悪性病変を否定できない病変があればCTMRIで精査を行います。CTでは脂肪成分が低吸収を示す領域が認められます。脂肪成分の少ない腎血管筋脂肪腫の場合、特に4cm以上だと腫瘍内出血により、腎細胞癌と診断を誤る可能性があり注意が必要です。動脈瘤の有無など性状把握には造影CTが必要です。MRIでは脂肪成分によりT1強調像、T2強調像ともに高信号で、脂肪抑制画像で信号が低下する画像が一般的です。幼小児期では腫瘍径は一般に小さいですが、まれに急速に増大することがあります。20歳以降になると結節性硬化症患者では腫瘍破裂による出血や、腎機能障害、腎悪性腫瘍の発症リスクが高くなるとされ、血液検査や尿検査を含めた長期にわたる経過観察が必要となります。

腎血管筋脂肪腫の治療

4cm以上の腎血管筋脂肪腫、あるいは5mm以上の動脈瘤がある場合には出血のリスクが高いとされ、予防的腎動脈塞栓術術が推奨されます。予防的腎動脈塞栓術は低侵襲で、簡便かつ繰り返し施行できます。一時的塞栓物質や永久塞栓物質、金属コイルなどで動脈を塞栓します。動脈瘤が破裂した場合は緊急での腎動脈塞栓術による止血が推奨されます。動脈塞栓術での止血が困難、症状の寛解が見られない、もしくは悪性腫瘍との鑑別が困難である場合、巨大な腫瘍による腹部圧迫症状が高度の場合には手術による腎部分切除術もしくは腎摘除術が施行されます。また、結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に対しては、mTOR阻害薬であるエベロリムスで腫瘍縮小効果が示されており、長径3cm以上の無症状の腎血管筋脂肪腫に対してはエベロリムスが第一選択薬として推奨されています。

腎血管筋脂肪腫になりやすい人・予防の方法

日本国内では男女比は1:3で、やや女性に多いとされています。発症の予防方法はありませんが、腎血管筋脂肪腫と診断されれば、定期的な画像検査でフォローを行い、腎機能が悪くならないか確認するための血液検査や血圧測定が推奨されます。特に、結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫の場合は、血液検査は少なくとも1年に1回行い、腎機能を評価する必要があり、病変を認めない場合やごく小さな病変の場合は1-2年に1回、明らかな病変がある場合には半年ー1年に1回の画像検査が推奨され、状態によっては予防的動脈塞栓術が検討されます。

関連する病気

  • 結節性硬化症
  • リンパ脈管筋腫症
  • 腎細胞癌
  • 腎嚢胞
  • 腎血管腫
  • 後腹膜出血
  • 血尿
  • 腫瘍破裂

参考文献

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