監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
急性腎盂腎炎の概要
急性腎盂腎炎は、腎臓に細菌が感染して炎症を引き起こす病気です。
主に大腸菌が原因で、発熱、腰や背中の痛み、全身のだるさ、吐き気などの症状が現れます。治療は抗菌薬を使って行い、軽症なら飲み薬で対応しますが、重症の場合は入院が必要です。適切な治療を受ければ、多くの場合、良好な回復が期待できます。
急性腎盂腎炎の原因
急性腎盂腎炎は、主に尿路を通じて細菌が腎臓に感染することで起こります。この感染の主な経路は「尿路上行性感染」と呼ばれるもので、細菌が尿道から膀胱、尿管を通って腎臓に達することで発症します。
その他の感染経路
血行性感染
細菌が血液を通じて腎臓に運ばれ、腎臓の表面に化膿(かのう)性の病変が現れることがあります。これは、腎臓の内部で細菌が組織を破壊することで起こります。
直接進展
腎臓はお腹の後ろ側にある臓器です。そのため、膵臓や十二指腸、大腸などの近くの臓器で炎症が起きると、その炎症が腎臓に広がり、腎盂腎炎が発症することがあります。
これらの経路を通じて細菌が腎臓に感染すると、急性腎盂腎炎が引き起こされます。
急性腎盂腎炎の原因となる細菌の中で、最も多いのは「大腸菌」という細菌です。これは、急性腎盂腎炎の原因の約80%を占めています。この大腸菌は、急性単純性膀胱炎の原因菌と同じです。
しかし、複雑性腎盂腎炎では、大腸菌以外の細菌も関与することが多くなります。例えば、肺炎桿菌(はいえんかんきん)や緑膿菌(りょくのうきん)などの細菌が見つかることがあります。また、腸球菌(ちょうきゅうきん)というグラム陽性菌も原因菌として見られます。
急性腎盂腎炎の前兆や初期症状について
急性腎盂腎炎は、膀胱炎の症状が伴うこともあります。膀胱炎の症状としては、排尿時の痛みや頻尿(何度もトイレに行きたくなること)があげられます。急性腎盂腎炎になると、発熱や背中の痛み、体がだるい感じ、吐き気などの症状が現れます。
具体的な症状
- 全身症状
- 高い熱が出る
- 寒気を感じる
- 体がだるくなる
- 痛みの症状
- 腰や背中の痛み
- 側腹部(体の横の部分)の痛み
- 腎臓のあたりを押すと痛みを感じる
- 肋骨と背骨の角を叩くと痛みが出る(CVA tenderness)
- 消化器症状
- 吐き気
- 嘔吐
- 食欲がなくなる
これらの症状はほかの病気でも見られることがあるため、自己判断せず、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することが大切です。
重症化の可能性
急性腎盂腎炎は、放置すると重篤な状態になることがあります。例えば、尿路性敗血症や敗血症性ショック、播種性血管内凝固症候群 (DIC) など、命に関わる状態に進展することがあります。特に、小さなお子さんや高齢者や意思疎通が難しい人では、典型的な症状が現れないことがあるため、注意が必要です。
少しでも異常を感じたら、早めに内科を受診することが重要です。
急性腎盂腎炎の検査・診断
急性腎盂腎炎の診断には、いくつかの検査が行われます。特に重要なのは尿検査です。尿検査では、尿の中に白血球や細菌が含まれているかどうかを調べることで、感染の有無が分かります。また、尿を培養して細菌を増やし、どの抗菌薬が効果的かを確認することも重要です。
尿検査の内容
尿沈渣(にょうちんさ)
尿を機械で分離し、沈殿した成分を顕微鏡で観察します。急性腎盂腎炎の場合、白血球や赤血球、細菌などが見られます。
尿定性検査
試験紙を使って尿中の白血球や亜硝酸塩(あしょうさんえん)、タンパク質などを測定します。白血球が多いと炎症があることがわかり、亜硝酸塩は細菌の存在を示します。
尿培養検査
尿を培地に撒いて細菌を増やし、その種類や抗菌薬に対する反応を調べます。これにより、どの抗菌薬が最適かが分かります。
また、血液検査も行われ、炎症の程度を調べます。白血球数やCRP値(炎症を示す値)が上昇することがあります。さらに、菌が血液に入っているかどうかを確認するために、血液培養検査が行われることもあります。
画像検査
急性腎盂腎炎の診断には必ずしも画像検査が必要ではありませんが、症状が重かったり、合併症が疑われたりする場合には行われることがあります。
超音波検査
腎臓が腫れているか、水腎症や腎膿瘍(じんのうよう)があるかを確認するために使われます。放射線の心配がないため、安全に行える検査です。
CT検査
腎臓の詳しい状態を見るために行われます。腎盂腎炎の合併症や他の腎疾患と区別するのに役立ちます。
急性腎盂腎炎の治療
急性腎盂腎炎の治療は、主に抗菌薬を使って行います。細菌の感染によって起こるため、原因となる細菌をしっかりと退治することが重要です。急性腎盂腎炎の多くは大腸菌が原因なので、大腸菌に効く抗菌薬が使われます。
治療の進め方
抗菌薬の選び方
尿培養検査を行い、原因菌を特定し、その菌に効果的な抗菌薬を選びます。これによって、治療がより効果的になります。
薬の使い分け
症状の重さによって、経口(口から飲む)抗菌薬と注射用抗菌薬を使い分けます。
軽症の場合
飲み薬(経口抗菌薬)で治療することもあります。体調が悪くなったらすぐに病院へ行ける状態であれば、外来で治療を受けられる場合もありますが、一般的には入院治療が望ましいと考えられます。外来での治療では、キノロン系・ペニシリン系・セフェム系やST合剤などの抗菌薬が使われることが一般的です。また、治療の最初に注射用抗菌薬を1回追加することもあります。
重症の場合
症状が重い場合や脱水がある場合は、入院して治療を受けることが必要です。入院中は、その地域で原因となる菌腫やその感受性に基づいて抗菌薬を選択することが重要とされます。大腸菌に対して感受性の高い抗菌薬を用いることが原則とされますが、重症度によっては広い範囲の細菌に効果のある抗菌薬を使用することもあり、原因菌が特定されたらより狭い範囲の抗菌薬に切り替えることを行います。症状が良くなってから24時間経過したら、飲み薬に切り替え、合計で14日間ほど薬を使います。
治療期間
治療は通常7〜14日間程度行います。これにより、多くの患者さんはしっかりと回復することができます。複雑性感染症など難治性が予想される場合には、2〜3週間と長期間にわたって治療を行うこともあります。
急性腎盂腎炎になりやすい人・予防の方法
急性腎盂腎炎になりやすい人
急性腎盂腎炎は、大腸菌が原因で起こることが多く、特に女性に多い病気です。これは、女性の尿道が短く、細菌が膀胱に侵入しやすいためです。特に、若い女性で性交渉が活発な人は、リスクが高くなります。
急性腎盂腎炎になりやすい人の特徴には、次のような点があります
乳幼児
特に3ヶ月未満の乳児は、急性腎盂腎炎に伴う菌血症のリスクが高いため注意が必要です。
高齢者
加齢により免疫力が低下し、尿が溜まりやすくなることで、細菌が繁殖しやすくなります。
糖尿病患者
糖尿病は免疫力を低下させるため、感染症にかかりやすくなります。
尿路結石のある人
尿路結石があると尿の流れが滞り、細菌が繁殖しやすくなります。
膀胱尿管逆流症の人
尿が膀胱から腎臓に逆流することで、細菌が腎臓に感染しやすくなります。
尿道カテーテルを使っている人
テーテルを留置することで、細菌が尿路に侵入しやすくなります。
免疫力が低下している人
抗がん剤治療や免疫抑制剤の使用により、感染症にかかりやすくなります。
妊娠中の方
妊娠中には、腎盂腎炎のリスクが上がります。子宮が大きくなることで尿管が圧迫され尿の正常な流れが妨げられること、また尿を膀胱へ流す尿管の筋肉の収縮力が低下することが原因となります。
予防の方法
急性腎盂腎炎の予防には、次のような点に注意することが重要です。
- 十分な水分を摂ることで尿を頻繁に出し、細菌を排出する。
- 排尿を我慢しないこと。
- 尿路感染症が疑われる場合、早めに医療機関を受診する。
参考文献
- 清田 浩,他:尿路感染症―A 膀胱炎,JAID/JSC 感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会(編):JAID/JSC 感染症治療ガイド 2019,pp 202-206,ライフサイエンス出版,2019
- JAID/JSC 感染症治療ガイド・ガイドライン作成委員会(編) : JAID/JSC 感染症治療ガイド 2019. p209, ライフサイエンス出版. 東京, 2019