

監修医師:
前田 広太郎(医師)
間質性膀胱炎の概要
間質性膀胱炎は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の一部として説明されることが多く、膀胱に関連する痛みや不快感、頻尿、尿意切迫感などの下部尿路症状を特徴とする慢性疾患です。細菌感染などの明確な原因が認められないにもかかわらず、これらの症状が6週間以上持続する場合に診断されます。間質性膀胱炎・膀胱痛症候群では、潰瘍性病変(ハンナ病変)を伴うものを間質性膀胱炎(ハンナ型)と呼ばれ、それ以外を膀胱痛症候群に分類されます。これは一過性の膀胱炎とは異なり、慢性的かつ診断が難しい症候群として知られています。根本的な治療法は確立されておらず、間質性膀胱炎のうち、重症の基準を満たすものは指定難病となっています。
間質性膀胱炎の原因
明確な原因は未だ解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。
1) 膀胱粘膜の防御機能障害:膀胱粘膜のバリア機能が低下し、尿中の物質が膀胱壁に浸透することで炎症が生じる
2) 膀胱の炎症性変化:肥満細胞の活性化、免疫性炎症、神経・化学物質による炎症などにより膀胱に慢性的な炎症が引き起こされる
3) 侵害刺激受容機構の異常亢進:侵害刺激に対する過剰な反応が症状を形成する
4) 尿中毒性物質:摂取した食物中の物質や尿中代謝物質が膀胱へ刺激となっている
5)感染後の反応:過去の尿路感染症が引き金となったり、ウイルスなどの微生物感染が慢性的な炎症を引き起こす、などの病態が考えられています。
ハンナ潰瘍があるものを間質性膀胱炎(ハンナ型)と呼び、点状出血や拡張後粘膜出血があるものを非潰瘍型間質性膀胱炎(非ハンナ型間質性膀胱炎)と分類する場合もあります。
間質性膀胱炎の前兆や初期症状について
間質性膀胱炎の症状は個人差がありますが、一般的には下部尿路症状としての膀胱痛または不快感、頻尿、尿意切迫感、排尿時痛があります。共通する特徴として「膀胱が尿で満たされることによる不快感の増強」と「排尿による一時的な軽減」が挙げられます。これらの症状は、身体的にも精神的にも患者に大きな負担を与えることがあります。他の症状として、下腹部・骨盤部・会陰部・尿道の痛みや不快感、性交時痛、腰痛などがあります。症状は一定せず、寛解や増悪を繰り返し、食事(故障・唐辛子などの香辛料や果物などカリウムを多く含むもの)、環境、精神的ストレスの影響を受けやすいです。逆に、水分摂取による尿の希釈で症状が改善することもあります。
間質性膀胱炎の検査・診断
間質性膀胱炎の診断は、混同しうる他の疾患(尿路結石,膀胱癌,前立腺癌,尿道癌,膀胱炎,前立腺炎,尿道炎, 腟炎,神経因性膀胱,過活動膀胱,前立腺肥大症,尿道狭窄,尿道憩室,神経性頻尿, 多尿など)を除外することで行われます。問診と身体診察で、症状の詳細な聞き取りと、腹部や骨盤部の触診を行います。部位としては下腹部(腹壁)、骨盤底筋、臀部・大腿部・鼠径部、膀胱基部や尿道周囲などを確認し、他疾患(骨盤臓器脱、尿道憩室、鼠径ヘルニア、婦人科腫瘤など)を除外します。尿検査(尿定性+尿沈渣)は必須であり、尿路感染症や血尿の有無を確認します。尿路感染や血尿(肉眼的または顕微鏡的)が存在しないかを確認します。感染の可能性がある場合、尿培養検査も行われます。また、排尿後残尿量を測定して、排尿機能の障害がないかも評価します。膀胱鏡検査で膀胱内を直接観察し、ハンナ病変や粘膜の出血などの異常所見の有無を確認し、膀胱癌等の他器質的疾患を除外することが必要です。排尿日誌を記載してもらい、排尿の頻度や尿量、症状の変化を記録することで、症状のパターンを把握します。また、評価尺度としてO’Leary & Sant による症状スコアと問題スコアが汎用されています。
間質性膀胱炎の治療
間質性膀胱炎の根本的な治療はありません。症状の軽減と生活の質の向上を目的として、患者の症状や生活状況に応じて多角的なアプローチが取られます。保存的治療として、ストレスを低減させる緊張緩和、骨盤内外筋膜マッサージ、膀胱訓練などがありますがエビデンスレベルの高いものはありません。食事療法として、コーヒー、紅茶、チョコレート、アルコール、トマト、柑橘系、香辛料、ビタミンCといった症状を増悪させうる飲食物を避ける方法があります。薬物療法として、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、鎮痛薬などが症状に応じて使用されます。膀胱内治療として、膀胱腔内や膀胱壁内に薬剤を注入する治療法もあります。手術療法として、膀胱水圧拡張術や経尿道的ハンナ病変切除・焼却術および経尿道的レーザー治療が選択される場合があります。全ての治療が失敗した重症例の場合、膀胱全摘術や膀胱部分切除術+膀胱拡大術も検討されます。
間質性膀胱炎になりやすい人・予防の方法
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の罹患率は0.01%~2.3%の範囲と推測され、女性は男性の約5倍とされます。機能的身体症候群、神経系疾患、関節リウマチ、精神疾患、線維筋痛症、慢性疲労性症候群、過敏性腸症候群などとの関連が指摘されています。間質性膀胱炎の発症を予防する方法は確立されていませんが、刺激物の摂取を避けること、日常生活でのストレスによる過緊張も大きな要因となるため、ストレスにさらされる環境を避けることが重要と考えられます。
参考文献
- 日本間質性膀胱炎研究会/日本泌尿器科学会 編集.間質性膀胱炎・膀胱痛症候群診療ガイドライン.第1版.RichHill Medical.2019.
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