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腎炎
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

腎炎の概要

腎臓は、血液中の老廃物を除去して尿を生成する重要な臓器です。

その中で血液をろ過して尿を生成する役割を担っているのが糸球体(しきゅうたい)です。
糸球体に炎症が起こることを糸球体腎炎といい、一般的に腎炎とはこの糸球体腎炎を指すことが多いです。

腎炎は、腎臓の異常が現れるプロセスによって次の2通りに分けられます。

  • 原発性糸球体腎炎:腎臓のみに病気が現れる
  • 続発性糸球体腎炎:膠原病や血管炎などの全身性の病気に伴って症状が現れる

腎炎が発生すると腎臓の機能が低下するため、体内の水分や電解質などのバランスが崩れます。その結果、尿の異常や手足のむくみ、発熱などの症状が現れることがあります。

これらの症状を見逃さずに早めに医師に相談し、適切な診断と治療が行われることで、腎炎の進行を抑えられます。

腎炎が進行して腎機能がさらに低下すると、最終的には腎不全に至り血液透析療法が必要になる可能性があります。

腎炎の原因

腎炎にはさまざまな種類があり、それぞれで原因は異なります。WHO(世界保健機関)の分類に基づいて、次の代表的な4つのパターンを解説します。

  • IgA腎症
  • 急性糸球体腎炎
  • 急速進行性腎炎
  • 微小変化型ネフローゼ症候群

IgA腎症

IgA腎症は、世界で最も多い腎炎と言われており、未治療の場合は約40%の患者さんが腎臓の機能が悪化し血液透析療法が必要となる予後不良の病気です。
そのため、IgA腎症は指定難病の一つに指定されています。

IgA腎症を発症する原因は未だに明らかになっていませんが、抗体の一種であるIgAが(免疫グロブリン)の一部に異常が生じ、それが糸球体に付着することで炎症が起こると考えられています。

この炎症が長期にわたり続くことで、徐々に腎機能が低下します。早期診断と適切な治療が不可欠です。

急性糸球体腎炎

急性糸球体腎炎は、ある感染症が治った後、約10日ほど経過してから発症する一過性の腎炎です。

主に急性上気道炎といった感染症が原因で、A群β溶連菌(グラム陽性菌の一つ)が代表的な原因菌として知られています。
急性糸球体腎炎は、小児〜若年者に多くみられる病気です。

急速進行性腎炎

急速進行性腎炎は、腎臓の働きが週から月単位で急速に悪化するタイプの病気です。

主な原因は、血液の細胞の一つである好中球の抗体です。
これらの抗体が免疫系に異常を引き起こし、腎臓に深刻なダメージを与えることが知られています。

急速進行性腎炎の中で最も頻度が高いのは「ANCA(アンカ)関連血管炎」です。
ANCAとは、抗好中球細胞質抗体を指し、この抗体が血管に炎症を引き起こすことで腎臓に影響を与えます。

微小変化型ネフローゼ症候群

微小変化型ネフローゼ症候群とは、大量のタンパクが尿に漏れ出る病気のことで、特に子どもに多く発症します。
この病気は、腎臓の糸球体が顕微鏡ではほとんど異常が見られないことから「微小変化型」と呼ばれます。

主な原因として花粉症や喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応が関与しているとされています。
また、症状が進行すると、体内のタンパク質が不足し、むくみや疲労感が強くなることがあります。

腎炎の前兆や初期症状について

腎炎の前兆や初期症状は、病気の進行を防ぐために早期発見することが重要です。

IgA腎症

IgA腎症の初期は無症状です。

ただし、学校や職場での健診の際に偶然タンパク尿や血尿が発見されることもあり、この段階での発見が早期治療につながる可能性があります。

病気が進行すると、腎機能が低下し高血圧を合併したり腎不全にともなう症状が出たりします。

急性糸球体腎炎

急性糸球体腎炎の主な症状として、顔面や足のむくみ、肉眼的血尿(尿が褐色またはコーラ色に変わる)、そして高血圧が挙げられます。
これらの症状は、腎臓の機能が低下していることを示しています。

患者さんによっては、これらの症状が現れると同時に、急激に腎機能が低下するケースもあります。

急速進行性腎炎

急速進行性腎炎の主な症状は、全身の倦怠感や発熱の持続、体重減少を始め血尿やタンパク尿などです。
この病気は進行が早く、高齢者に多く見られるのが特徴です。

さらに、肺の炎症を伴うことがあり、その結果、呼吸苦の症状が現れる場合もあります。

微小変化型ネフローゼ症候群

微小変化型ネフローゼ症候群では、腎臓の働きが悪くなり、一時的に尿が出にくくなることがあります。
若年者に多く、発症が急激であるのが特徴の一つです。

急な発症により、日常生活に支障をきたすこともあり、早期の対応が重要です。

腎炎の検査・診断

腎炎の検査は、腎臓の状態を正確に把握し、適切な治療方針を決定するために欠かせません。
その主な検査は、以下の4つです。

  • 尿検査
  • 血液検査
  • 画像検査
  • 腎生検

まず行われるのが尿検査です。
尿中のタンパク質や血液、細胞の有無を調べることで、腎臓のろ過機能に異常がないかを確認します。
一日の尿蛋白量を調べるために、24時間尿を溜める検査が行われる場合もあります。

次に行なわれるのが血液検査です。
血液中のクレアチニンや血中尿素窒素(BUN)の値を測定し、これらの異常値から腎機能の低下が疑われる場合があります。

続いて、行なわれるのはエコー検査やCT検査です。
腎臓の形状やサイズ、内部の異常(腫瘍や結石など)を確認でき、これにより腎炎の原因を特定できます。

場合によっては、腎生検が行われることもあります。
腎生検では腎臓の組織を一部採取し、顕微鏡で詳しく調べることで、腎炎の種類や進行具合を判断します。

これらの検査を組み合わせることで、腎炎を正確に診断でき適切な治療につながります。

腎炎の治療

腎炎の治療は、原因や病状の進行の状況に応じて異なります。

まず、感染症が原因の場合は、抗生物質による治療が行われます。
細菌感染を早期に抑えることで、腎臓へのダメージを最小限に抑えることが可能です。

次に、免疫系の異常が原因である場合には、ステロイドや免疫抑制剤が使用されます。
これらの薬剤により、過剰な免疫反応を抑え、腎臓の炎症を軽減します。

また、高血圧や糖尿病が腎炎の一因となっている場合には、基礎疾患の管理が重要です。
降圧薬や血糖降下薬を用いることで、腎臓への負担を減らせます。

さらに、食事療法も治療の重要な一環です。
塩分やたんぱく質の摂取を制限することで、腎臓への負担を軽減できます。

もし腎炎が重症化した場合には、血液透析や腎移植が必要になることもあります。
治療は長期にわたることが多いため、医師との連携が腎炎管理において不可欠です。
定期的な診察と治療計画の見直しを行いながら、適切な管理を続けていくことが重要です。

腎炎になりやすい人・予防の方法

腎炎になりやすい人は、特定のリスク要因を持つ場合が少なくありません。

たとえば、慢性的な高血圧や糖尿病を持つ人は、腎臓に過剰な負担がかかりやすく、その結果、腎炎のリスクが高まります。

また、自己免疫疾患を持つ人も、免疫系が誤って自分の腎臓を攻撃することがあり、腎炎を発症しやすくなります。

腎炎の予防には、まず生活習慣の改善が重要です。
規則正しい食生活を心がけ、塩分やたんぱく質の過剰摂取を控えることで、腎臓へのストレスを軽減できます。
加えて、適度な運動や体重管理は、腎炎の予防に役立ちます。

また、高血圧や糖尿病を抱えている場合は、これらの病気の適切な管理が不可欠です。
定期的な健康診断を受け、早期に腎臓の異常を発見することで腎炎の発症を防ぐことができる可能性があります。

さらに、禁煙やアルコール摂取の節制も腎臓の健康を維持するために重要です。

これらの予防策を実践することで、腎炎のリスクを効果的に減らせると考えられています。


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