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夜尿症
白井 沙良子

監修医師
白井 沙良子(医師)

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小児科医(日本小児科学会専門医)。慶應義塾大学医学部卒業。総合病院にて研修を修了し、現在はクリニックにて、様々な感染症やアレルギー疾患の診療、乳幼児健診、育児相談などを担当。オンライン医療相談、医療記事の執筆・監修、企業向けセミナーなども通じて「エビデンスに基づいた育児情報」を発信している。

夜尿症の概要

夜尿症とは、寝ているときに無意識のうちに尿を漏らすことであり、5歳以上で、月に1回以上の頻度で3ヶ月以上続く場合と定義されています。

4歳以下の子どもでも同様の症状は見られますが、これは正常な発達の範囲であり、夜尿症とは呼びません。

夜尿症は子どもの発達過程でよくみられ、7歳児の約10%に症状が認められます。

その後は年間約15%ずつの割合で自然に改善しますが、15歳以上でも1〜2%の割合で夜尿が続くとの報告もあります。

夜尿症は以下のように分類されます。

  • 一次性夜尿症
  • 二次性夜尿症

一次性夜尿症とは、生まれてからずっと続いているパターンをいい、夜尿症の約75〜90%を占めます。

二次性夜尿症とは、半年以上消失していた夜尿が再びみられるパターンをいい、夜尿症の約10〜25%を占めます。

ほかにも、夜尿にともなう症状によって以下のようにも分類されます。

  • 単一症候性夜尿症
  • 非単一症候性夜尿症

単一症候性夜尿症とは夜間寝ているときのみに夜尿がある状態で、非単一症候性夜尿症とは、日中の尿失禁や頻尿などをともなう状態を指します。

夜尿症は身体的のみでなく、心理的な影響も大きいです。子ども自身の尊厳や社会生活に影響を与える可能性があるため、適切な理解と対応が求められます。

夜尿症

夜尿症の原因

夜尿症の原因は以下のようなことがあると考えられます。

  • 睡眠中に膀胱内が尿で満たされているにも関わらず起きられない(覚醒障害)
  • 夜間において抗利尿ホルモンの分泌が不足している
  • 膀胱の容量が少ない
  • 睡眠中の膀胱のはたらきが乏しい
  • 遺伝的要因がある

抗利尿ホルモンとは、排尿を妨げるホルモンのことです。

身体のメカニズムにより、夜寝ているときは抗利尿ホルモンが盛んに分泌され、尿量が減ります。しかし夜尿症の場合、夜間の抗利尿ホルモンの分泌が不足しているため、尿を漏らしてしまいます。

膀胱の容量が小さかったり、ある程度の尿量が溜まると膀胱が収縮し尿が出てしまったりなど、睡眠中の膀胱のはたらきが未熟であることも一因です。

ほかにも、遺伝的要因も関連が深いとされています。両親ともに夜尿症の既往がある場合は77%の確率で、どちらかの親が夜尿症の既往がある場合は43%の確率で、その子どもも夜尿症になるとの報告があります。
(出典:昭和大学藤が丘病院 小児科 池田裕一「ガイドラインに基づいた最新の夜尿症診療」)

夜尿症の前兆や初期症状について

月に1回以上の頻度での夜尿が3ヶ月以上続く場合、夜尿症が疑われます。

子どもが朝起きたときにパジャマや布団が濡れていることに気づく、あるいは夜中に目覚めてすでに尿を漏らしていることに気づくこともあるでしょう。

子どもが尿を漏らしてしまったからといって、決して責めたり叱ったりしてはいけません。

改善に取り組むと、自然経過に比べて2〜3倍の割合で治癒率が高くなり、改善までの期間も短くなります。症状に気がついたら、早めに医療機関を受診しましょう。
(出典:日本泌尿器科学会「『おねしょ』(夜尿症)が治らない」)

夜尿症の検査・診断

夜尿症の検査や診断は、細やかな問診がポイントです。

以下の点を中心に問診をおこないます。

  • 夜尿の頻度
  • 日中の症状の有無
  • 1日の排尿回数
  • 生活リズム
  • 便秘の有無

これらの問診に加えて、尿路感染症や腎疾患の有無を確認するために、尿検査も実施します。

X線検査や超音波検査、血液検査などは医師の判断によって実施するため、すべての医療機関で必ずしもおこなうわけではありません。

また、排尿日記をつけるよう指示する場合もあります。

その際には以下の点を中心に記録しましょう。

  • 夜間に尿を漏らした日数や量
  • 尿意での覚醒状況
  • 日中に尿を漏らした日数や量

これらの情報を総合的に判断し、夜尿症の診断をおこないます。

夜尿症の治療

夜尿症の治療は、薬物療法と非薬物療法であるアラーム療法に大別されます。同時に生活習慣改善の取り組みを行います。

夜尿症の治療においては心理的なサポートも重要であり、尿を漏らすことで子どもの自尊心が傷付かないよう、周りの人による理解が欠かせません。

頑張って取り組んでいることを認め、ほかの子どもと比べず温かくサポートしましょう。

薬物療法

薬物療法では、抗利尿ホルモン剤という排尿をさまたげる薬剤を使用します。また膀胱の収縮を抑え、膀胱に貯められる尿量を増やすために抗コリン薬を併用する場合があります。

アラーム療法

夜尿アラームとは、就寝中の水分を感知してアラーム音が鳴る装置です。

下着が濡れそうな位置にセンサーを取り付け、センサーが濡れると作動して夜尿を知らせてくれる設計になっています。

懸念点としては、アラーム音が鳴ると一緒に寝ている家族も起きることがあり、自己判断でアラーム療法を中断してしまうことです。夜尿症を改善するための必要な治療であるため、自己中断は避け、医師の指導のもと適切に行いましょう。

生活習慣改善

生活習慣改善では、以下のポイントを心がけましょう。

  • 規則正しい生活をする
  • 水分や塩分の摂り方に気をつける
  • 就寝前は必ず排尿するよう誘導する
  • 生活習慣改善の取り組みを記録する

平日や休日問わず、早寝や早起きといった規則正しい生活を送ることが基本です。

休みの日だからといって遅くまで起きて、翌日起きる時間がずれないようにしましょう。

また、水分は日中にしっかりと摂取し、夕食後から就寝まではできる限り控えることがポイントです。

塩分や糖分の摂り過ぎも喉の渇きにつながるため、夕食時は控えめにしましょう。

ほかにも、寝る前に必ずトイレへ行くように習慣付けることが重要です。

就寝前に時間をあけて2回排尿することも有効で、夜間の尿量減少が期待できます。

生活習慣改善についての効果をみるために、排尿日記は引き続き書きましょう。

夜尿症になりやすい人・予防の方法

以下にあてはまる場合、夜尿症になりやすいと考えられます。

  • 両親に夜尿症の既往がある
  • 特定の疾患を患っている

両親のどちらか、または両親ともに夜尿症になったことがある場合、子どもも夜尿症を発症する可能性が高まります。

ほかにも、泌尿器科疾患や内分泌疾患、脊髄疾患や精神疾患を患っていることも一因です。

このような夜尿の症状が出る疾患を抱えている場合、疾患の治療が優先されます。

夜尿症の予防方法の第一は、就寝前は水分を控えて、排尿を済ませてから寝ることを習慣化することです。膀胱内の尿量を少なくするため、時間を空けて2回トイレへ行くことも効果的です。

5歳以上の子どもで、このような生活習慣の見直しを1~2か月程度取り組んでも症状に改善がみられない場合は、医療機関の受診を検討しましょう。

夜尿を責めたり叱ったりせず、家族みんなで協力し取り組むことは、夜尿症の改善につながります。


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