

監修医師:
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)
目次 -INDEX-
尿道炎の概要
尿道炎は、尿が膀胱から体外に排出されるまでに通過する管である尿道に炎症が生じる病気です。この炎症は、細菌、ウイルス、真菌(カビの一種)などの病原体が尿道に感染することで引き起こされます。特に性行為によって感染する病原体が原因となることが多く、性行為感染症(性感染症)としても知られています。尿道炎は男女問わず発生しますが、症状や原因に若干の違いがあります。
尿道炎の原因
尿道炎はさまざまな病原体によって引き起こされます。以下に主要な原因を示します。
淋菌(りんきん)
Neisseria gonorrhoeaeを起因菌とする感染症で、男性では尿道炎、女性では子宮頚管炎を主に起こします。性行為によって感染する細菌で、淋病の原因となります。激しい排尿時の痛みと黄色の膿(うみ)のような分泌物が特徴です。淋菌は特に男性の尿道炎の原因として一般的であり、女性にも感染することがあります。感染経路は性行為だけでなく、オーラルセックスによる感染もあります。
クラミジア
クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis )という細菌が原因で、軽度の排尿時の痛みと白色の分泌物が特徴です。性行為によって感染します。クラミジア感染症は若年層に多く見られ、適切な治療を行わないと慢性化することがあります。クラミジアは性行為による感染が多いですが、母子感染も報告されています。
その他の細菌
大腸菌など、性行為とは関係なく尿道に感染することがあります。特に女性では尿道が短いため、細菌が膀胱から尿道に逆流しやすく、感染リスクが高まります。他には連鎖球菌、腸球菌などが含まれます。
ウイルス
単純ヘルペスウイルスなどが原因となることもあります。これは、ヘルペスウイルス感染症としても知られています。ヘルペスウイルスによる尿道炎は再発しやすく、長期的な管理が必要です。ウイルス性の尿道炎は、風邪のような症状を伴うことがあり、診断が難しい場合があります。悪化すると性器やその周辺に水疱や潰瘍等の病変が形成される疾患です。
尿道炎の前兆や初期症状について
尿道炎の初期症状としては、以下のようなものがあります。
排尿時の痛み
痛みや灼熱感を伴うことが多い傾向です。
頻尿(ひんにょう)
感染の刺激によりトイレに頻繁に行きたくなります。
尿意切迫(にょういせっぱく)
感染の刺激により、突然強い尿意を感じます。
男性では尿道からの分泌物(ぶんぴつぶつ)
分泌物の混じった液体が排出されます。特に朝一番に見られることが多いです。
これらの症状が出た場合には、泌尿器科を受診することをおすすめします。女性の場合は、症状が軽いことが多く、膀胱炎と間違われやすいです。早期に適切な診断を受けることが重要です。
尿道炎の検査・診断
尿道炎の診断には以下の方法が用いられます。
尿検査
尿サンプルを採取し、病原菌の存在を確認します。これは最も一般的な検査方法であり、感染の有無や炎症の程度を判断します。尿検査では、白血球や赤血球の数もチェックされます。
尿道スワブ
尿道の入り口から綿棒でサンプルを採取し、病原菌を特定します。これは少し不快に感じるかもしれませんが、短時間で済む検査です。特に性行為感染症が疑われる場合には有効です。尿道スワブは、男性患者にとって特に重要な検査です。
尿培養検査
尿を培養して(うるおして増殖させる)、特定の病原菌を確認します。これにより、正確な病原菌の特定と治療法の選択が可能になります。尿培養検査は、細菌の種類を特定するための重要な方法です。
尿道炎の治療
尿道炎の治療は原因菌によって異なりますが、一般的には抗菌薬や抗ウイルス薬が使用されます。尿道炎の原因菌が特定されるまでには数日間を要します。通常は、最も一般的な原因菌を対象とする抗菌薬で治療を開始します。
性的に活動的な男性患者に対する治療では、通常、淋菌感染症に対するセフトリアキソンの注射に加え、クラミジアに対するアジスロマイシンの経口投与またはドキシサイクリンの経口投与を行います。症状が軽くなっても必ず毎日内服し、最後まで続けることが重要です。中途半端に中止すると再発する場合があります。日本では耐性菌も増えてきているため、最初に処方された抗菌薬で治りにくい場合には別の抗菌薬を内服する必要があります。そのため、治療後にも検査を受け、治癒していることを確認することも重要です。
原因として性感染症が疑われる場合は、患者のセックスパートナーも治療のため評価する必要があります。ピンポン感染(ピンポン玉のやりとりのように、病原菌をうつしたり、うつされたりを繰り返すこと)を防ぐためです。また尿道炎と診断された男性は、合併している可能性があるためHIVおよび梅毒についても検査を受けた方がよいです。
抗菌薬
淋菌やクラミジアに対して使用されます。抗菌薬は病原菌を殺すための薬です。特に性行為感染症が疑われる場合には、患者のパートナーも同時に治療を受ける必要があります。これは再感染を防ぐためです。具体的な薬剤としては、アジスロマイシンやドキシサイクリンなどがよく使用されます。抗菌薬の処方は、症状の重さや病原菌の種類によって異なります。
抗ウイルス薬
単純ヘルペスウイルスなどが原因の場合に使用されます。抗ウイルス薬はウイルスの増殖を抑えるための薬です。単純ヘルペスウイルスは口唇ヘルペスや性器ヘルペスの原因となるウイルスです。アシクロビルやバラシクロビルが一般的に使用されます。抗ウイルス薬の使用は、症状の早期に開始することが効果的です。
尿道炎になりやすい人・予防の方法
尿道炎になりやすい人は、特に性行為が活発な人です。予防のためには、以下の方法が効果的です。
コンドームの使用
性行為の際にコンドームを使用することで、性感染症を予防する効果があります。コンドームは病原菌の直接的な接触を避けるためのバリアです。正しい使用方法を守ることが重要です。使用時には、破損していないことを確認しましょう。
定期的な健康チェック
早期発見と早期治療に繋がります。特に複数のパートナーがいる場合や、新しいパートナーと性行為を行う場合には、定期的な検査が重要です。年に一度の検査を推奨します。健康チェックは、性感染症の予防にとって非常に重要です。
適切な衛生管理
性行為の前後に性器を清潔に保つことが重要です。特に女性は尿道が短く、感染リスクが高いため、入浴やシャワーで清潔を保つことが推奨されます。衛生管理は、日常的に行うことが大切です。
十分な水分摂取
水分を十分に摂ることで、尿の流れを良くし、尿道を清潔に保つことができます。尿が膀胱に長く留まらないようにするため、定期的に排尿することも推奨されます。一日に2リットル程度の水分摂取が目安です。水分摂取は、尿道の健康を保つために重要です。
通気性の良い下着を選ぶ
通気性の良い綿素材の下着を選ぶことで、尿道周辺の湿気を減らし、感染リスクを低減します。合成繊維の下着は避け、肌に優しい素材を選びましょう。
参考文献




