

監修医師:
松繁 治(医師)
岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科
主な研究内容・論文
ガイドワイヤーを用いない経皮的椎弓根スクリュー(PPS)刺入法とその長期成績
著書
保有免許・資格
日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会認定 脊椎脊髄病医
日本脊椎脊髄病学会認定 脊椎脊髄外科指導医
日本整形外科学会認定 脊椎内視鏡下手術・技術認定医
目次 -INDEX-
手指挫滅創の概要
手指挫滅創(しゅしざめつそう)とは、強い力が指に加わり、皮膚や筋肉などの組織が圧迫されて損傷する重度の外傷です。一般的に鈍い力によって皮膚などの損傷が起こる外傷は「挫創(ざそう)」と呼ばれ、挫創よりも損傷が重度の場合は「挫滅創(ざめつそう)」と呼ばれます。
手指挫滅創は転倒して硬いものに指がぶつかる、機械やドアに指を挟まれるなどの原因で起こります。とくに建設業や製造業で機械を使用する人に多い外傷で、労災認定されるケースも少なくありません。
症状は外傷部位の痛みや出血、腫れなどで、場合によっては皮膚だけでなく筋肉や血管、神経の欠損を伴います。検査は視診で欠損部位や出血部位の確認を行いますが、筋肉や血管など皮下組織の損傷の程度がわからない場合、レントゲン検査やMRI検査などの画像検査をすることもあります。
また、創部が外気や異物に触れている場合には感染に注意しなければいけません。感染が疑われる場合は、細菌培養検査で感染源となる細菌を特定し、抗生剤で治療します。
手指挫滅創の治療では速やかな応急処置が必要です。流水で異物を除去し、取りきれなかった異物は外科的に取り除きます。医療機関では残された組織を可能な限り元の形に戻すよう縫合しますが、場合によっては手指の切断も考慮されます。

手指挫滅創の原因
手指挫滅創の原因は、大きな力が皮膚に加わることです。スポーツでの転倒や接触、交通事故、機械に巻き込まれるなどの鈍的な力によって発生します。
手指挫滅創の前兆や初期症状について
手指挫滅創の初期症状は傷の痛みや出血・腫れなどがみられ、場合によっては骨折や神経症状を伴うこともあります。強い力により皮膚が傷つけられるため、傷口の縁が不明瞭なうえ、皮膚の欠損を伴うこともあります。
手指挫滅創の検査・診断
まずは医師による視診で、指の皮膚や筋肉の損傷を確認します。骨折や神経損傷が疑われる場合には画像検査が有効です。
また、受傷時に異物が手指挫滅創に混入していた場合や、受傷者の免疫力が低下している場合には創部の細菌培養検査も検討されます。
画像検査
骨折の確認にはCT検査やレントゲン検査、神経損傷の確認にはMRI検査やエコー検査を実施します。とくにClosed degloving injury(皮膚の下で筋肉や骨などの組織が損傷すること)が疑われる場合は、視診で十分に確認できないこともあるため、画像検査が欠かせません。
また、これらの検査は損傷の有無だけでなく、損傷の程度や範囲を確かめるのにも効果的です。
細菌培養検査
細菌培養検査は感染が疑われるケースで検討されます。とくに創部に異物が混入していたり、受傷した人が糖尿病などの基礎疾患に罹患し、免疫力が低下していたりする場合に適用されます。
手指挫滅創の治療
手指挫滅創の治療では、症状の程度に関わらず速やかに応急処置を行い、その後、医療機関での外科的処置が必要になります。
応急処置
手指挫滅創の応急処置で重要なことは異物の除去と止血です。受傷後、可能な限り早く流水で異物を除去することは感染予防に効果的とされています。この際、使用する水は水道水でも効果があります。
流水で異物を処置した後は止血を行います。皮膚が残っている場合には皮膚で、皮膚が欠損している場合には創傷被覆材で創部を覆い、圧迫して止血します。
外科的処理
医療機関での外科的処置は、流水で除去しきれなかった異物や壊死組織の除去、縫合処置を行います。砂利などの汚れはできるだけ早く除去することが望ましく、除去しないと青黒く傷跡が残る外傷性刺青となります。
縫合処置では皮膚や筋肉など残された組織を使用して、可能な限り元の形に近づけるように修復します。痛んでいて修復不可能と判断される皮膚は切除することもあります。とくに手指は細かな動作が要求されるため、縫合処置によって見た目と機能を両立させる必要があります。
損傷部位の欠損が大きく縫合が難しい場合には、他部位からの皮膚や組織の移植や人工血管などの医療機器で補います。損傷の程度が激しい場合には、複数回にわたって手術することもあります。
なお、残された組織の回復が難しく、壊死する可能性がある場合には手指の切断も考慮しなければなりません。とくに糖尿病などの基礎疾患がある際には回復が難しいケースが多いため注意が必要です。
リハビリテーション
外科的処置で指の形を元に戻しても、関節の動きが制限される後遺症がみられるケースが多々あります。そのような場合には、組織の修復段階からリハビリテーションで指を動かしていくことが大切です。手指挫滅創の程度が重く、一度の手術で指の再形成がされなかった場合でも、可能な範囲で指を動かすことが推奨されています。
抗生剤の投与
細菌培養によって感染が疑われる菌が特定できれば、その菌に対して有効な抗生剤を投与することもあります。
手指挫滅創になりやすい人・予防の方法
手指挫滅創は工場や建設現場など、機械を扱う職業に従事する人に多い外傷です。そのため、建設業や製造業に従事する人は注意が必要です。
手指挫滅創を予防するためには、転落や機械の巻き込み事故に注意することが大切になります。高所での作業には命綱を使用して打撲による受傷を予防し、巻き込まれる恐れのある機械を使用する場面では、手指が巻き込まれないように注意しましょう。




