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家族性良性慢性天疱瘡
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

家族性良性慢性天疱瘡の概要

家族性良性慢性天疱瘡(かぞくせいりょうせいまんせいてんぽうそう)は、皮膚に水ぶくれ(水疱)やただれ(びらん)が繰り返し生じる遺伝性の皮膚疾患です。「ヘイリー・ヘイリー病」ともよばれています。根本的な治療法のないまれな疾患として、厚生労働省の指定難病に登録されています。

家族性良性慢性天疱瘡の主な症状は、皮膚がこすれやすい部分に水ぶくれができることです。とくに、脇の下、股の付け根、首、肛門周囲などに発生しやすく、症状がおさまっても再発を繰り返すことが多くみられます。水ぶくれがやぶれるとただれた状態になり、痛みやかゆみをともなうこともあります。

家族性良性慢性天疱瘡は20~50歳代での発症例が多く見られ、発症に男女差はありません。病名に「良性」「慢性」と書かれる通り、生命にかかわるほど重篤な症状となることは少ないものの、一度症状があらわれると難治性で、慢性的に繰り返すのが特徴です。

家族性良性慢性天疱瘡は、ATP2C1という特定の遺伝子の変異が原因とされていますが、くわしい発症メカニズムまでは解明されていません。遺伝子の異常は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)として親から子へと引き継がれる可能性があります。また、突然変異などによる家族歴に関係のない発症例もあることがわかっています。

現在のところ、家族性良性慢性天疱瘡の根本的な治療法は確立されておらず、症状を抑える対症療法が中心となります。衣類による摩擦を減らしたり、汗をこまめに拭いたりするなど、日常生活での工夫でも症状の影響を軽減できるとされています。

家族性良性慢性天疱瘡は遺伝的要因が大きいため、発症を完全に予防することは難しいですが、皮膚への刺激をなるべく抑えることが発症リスクの軽減につながると考えられています。

病名に「天疱瘡」と含まれていますが、一般に「天疱瘡」として知られる尋常性天疱瘡とは異なる病気です。尋常性天疱瘡は免疫の異常が原因で発症する(遺伝性ではない)自己免疫性疾患ですが、家族性良性慢性天疱瘡は遺伝性の疾患であり、特定の遺伝子の異常が関係しています。両疾患とも、皮膚に水ぶくれやただれができる点では共通していますが、発症のメカニズムや治療法は異なることがわかっています。

(出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 天疱瘡(指定難病35)

家族性良性慢性天疱瘡の原因

家族性良性慢性天疱瘡の原因は、「ATP2C1」という遺伝子の変異です。この遺伝子は、皮膚の細胞を維持するために必要なカルシウムの輸送に関与しています。ATP2C1遺伝子に異常が生じると、皮膚の細胞同士の結びつきが弱くなり、摩擦や刺激によって皮膚が剥がれやすくなります。

ただし、カルシウムに関わる遺伝子の異常が、なぜ水ぶくれの発生や治りにくさにつながるのかについては、まだくわしく解明されていません。現在も研究が進められており、今後の解明が期待されています。

家族性良性慢性天疱瘡の前兆や初期症状について

家族性良性慢性天疱瘡では、脇の下や股の付け根(鼠径部)、首、肛門の周囲など、皮膚がやわらかく、摩擦を受けやすい部分に、水ぶくれ(水疱)ができます。水ぶくれがやぶれると、皮膚がジクジクとただれたような状態になります。

遺伝子の異常を原因とはするものの、生まれつきや小児のころには症状がみられず、20〜50歳代で発症することが多いとされています。何度も再発を繰り返す皮膚症状が特徴で、通常、皮膚以外の異常はみられません。

摩擦や高温多湿、多量の汗、紫外線、感染などの影響を受けて症状が悪化することが知られています。そのため、とくに夏に悪化しやすく、冬になると症状が軽くなる傾向があります。水ぶくれやただれを繰り返すうちに、痛みやかゆみが生じることもあり、色素沈着が残る場合もあります。

症状がある部分は感染を合併しやすく、注意が必要です。感染によって症状が悪化すると、胸やおなか、背中などの広範囲に広がることもあります。さらに、膿や浸出液が発生し、やがて膿をともなうかさぶたへと変化します。また、膿や浸出液が原因で悪臭が発生することもあります。

家族性良性慢性天疱瘡は、長期にわたり再発を繰り返すことが多い疾患ですが、適切な対症療法により、症状が落ち着いた状態である「寛解(かんかい)」を目指すことができます。

家族性良性慢性天疱瘡の検査・診断

家族性良性慢性天疱瘡は、皮膚症状や病理検査、家族歴などをもとに診断されます。

脇の下や首、股の付け根(鼠径部)、肛門周囲などに水ぶくれやただれを繰り返す場合や、家族に同じ症状をもつ人がいる場合には、家族性良性慢性天疱瘡の可能性が高いと考えられます。

確定診断のため、症状がある部分の皮膚を採取し、顕微鏡でくわしく調べる病理検査が行われることがあります。また、ATP2C1遺伝子の異常を特定するために遺伝子検査を実施することもあります。

家族性良性慢性天疱瘡の治療

家族性良性慢性天疱瘡の治療では、症状を抑えるための対症療法が行われます。

皮膚症状が軽度な場合は、ステロイドの外用薬による治療が基本で、必要に応じてビタミンD3軟膏やタクロリムス軟膏が処方されることもあります。症状が中等度から重度の場合は、レチノイドや免疫抑制剤などの内服薬による治療が検討されます。
また、感染症を合併している場合は、抗真菌薬、抗菌薬、抗ウイルス薬を用いた治療が行われます。

家族性良性慢性天疱瘡は、現在の医療技術では根治が難しい疾患ですが、適切な治療を受けることで、症状を軽減することが可能です。治療を継続することで、日常生活に支障をきたさない程度に症状が落ち着いた状態を目指すことができます。

家族性良性慢性天疱瘡になりやすい人・予防の方法

家族性良性慢性天疱瘡は遺伝性疾患であるため、家系内に同じ病気の人がいる場合、発症リスクが高まるとされています。

原因遺伝子は常染色体優性遺伝とよばれる形式で遺伝することがわかっています。そのため、両親のどちらかがこの病気を発症している場合に子どもが発症する確率は約50%です。ただし、家族性良性慢性天疱瘡の一部では家系内に同じ病気の人がいない「孤発例」であることが報告されています。このような発症例では、偶然に遺伝子変異が生じることで発症すると考えられています。

家族性良性慢性天疱瘡は特定の遺伝子の変異が原因となるため、完全に予防することは難しいといえます。しかし、高温多湿や摩擦、多汗、紫外線などの環境要因が症状の発症や悪化に関係していると考えられているため、これらの刺激を減らすことが、症状の軽減や悪化の予防につながる可能性があります。

具体的には、日常生活では、摩擦による刺激が少ない柔らかで通気性の良い素材の衣類を選ぶ、汗をかいたらすぐに拭き取って清潔な衣類に着替える、低刺激の石けんで優しく洗浄するなどの工夫が推奨されます。

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