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多発性汗腺膿瘍
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

多発性汗腺膿瘍の概要

多発性汗腺膿瘍は「あせものより」とも呼ばれ、あせもが悪化して汗腺が膿んでしまう状態です。

汗腺とは汗をつくる分泌腺で「アポクリン汗腺」と「エクリン汗腺」があります。アポクリン汗腺は陰部や脇の下など体毛のある部位に存在するのに対し、エクリン汗腺は主に体毛のない部分に存在しています。

全身に広く存在するエクリン汗腺には、発汗によって体温を調整する役割があります。体温が上がると脳の視床下部から指令が出され、エクリン汗腺で汗が作られます。エクリン汗腺から発汗することで体温が放散され、適正範囲に保たれます。

しかし、新生児や乳幼児は発汗機能が未熟で過剰に汗をかくことがあります。汗を大量にかいて汗腺が詰まると、あせもができる原因になります。

あせもは痒みを伴うため、小さな子どもは患部を掻きむしってしまうことがあります。患部を掻いたり不適切な処置によって炎症が悪化したりすると、エクリン汗腺に細菌が侵入して多発性汗腺膿瘍を発症する原因になります。

その結果、汗腺が膿を持って赤く腫れ、痛みを伴います。また、発熱を認めることもあり、小さな子どもの場合には機嫌が悪くなって哺乳量が低下したり、夜泣きをしたりすることもあります。

多発性汗腺膿瘍を予防するには、あせもができないよう皮膚を清潔に保つことが重要です。

治療では抗菌薬を用いた薬物療法のほか、必要に応じて患部から膿を排出させるための処置が行われます。

多発性汗腺膿瘍の原因

多発性汗腺膿瘍は、あせもを起こしている汗腺に細菌感染が起きることで生じます。あせもは、汗を分泌するエクリン腺が何らかの原因でつまることで発症します。

あせもは痒みを伴うため、小さな子どもは患部を無意識に掻きむしってしまうことがあります。患部を掻きむしったり炎症が悪化したりすると、黄色ブドウ球菌などの細菌が汗腺に侵入して多発性汗腺膿瘍を引き起こします。

多発性汗腺膿瘍は特に夏に発症しやすく、発汗機能の未熟な新生児や乳幼児の頭部や顔、お尻などにできやすい傾向にあります。しかし、汗をかきやすい環境下では、健康な成人にも発症することがあります。汗をかきやすい状況が続き、適切なケアが行われない場合、あせもから多発性汗腺膿瘍へと進行するリスクが高まります。

多発性汗腺膿瘍の前兆や初期症状について

多発性汗腺膿瘍では、新生児や乳幼児の頭部や顔、お尻などにあせもができ、次第に膿んで赤くなり、痛みを伴うようになります。また、患部を押すと痛みが強くなることも特徴です。

患部は初期には硬くしこりのように触れますが、悪化すると膿が蓄積してブヨブヨとした水ぶくれのような感触になります。

このほか、全身症状として発熱を伴うケースもあります。小さな乳幼児の場合には、発熱が原因で哺乳量が低下したり、夜泣きを起こしたりすることもあります。

なお、あせもは「伝染性膿痂疹(とびひ)」を合併することもあります。伝染性膿痂疹が発症すると他の人に感染させる可能性があるため、予防策も併せて必要になります。

多発性汗腺膿瘍の検査・診断

多発性汗腺膿瘍の診断は、主に保護者からの問診と患部の視診によって行われます。医師は患部の状態を詳細に観察し、赤い腫れや膿疱の有無、痛みの程度などを確認します。

炎症が進行している場合、視診だけでは他の化膿性皮膚疾患との区別が難しいため、培養検査を行います。培養検査では、多発性汗腺膿瘍の主な原因である黄色ブドウ球菌の存在を確認します。培養検査の結果に基づいて、他疾患と鑑別され、適切な診断と治療方針が決定されます。

多発性汗腺膿瘍の治療

多発性汗腺膿瘍の治療では、症状の程度に応じて外科処置や薬物療法が行われます。

膿瘍が大きい場合には、外科処置として膿瘍を切開して膿を排出させ、患部を洗浄します。

薬物療法では、多発性汗腺膿瘍の原因となる黄色ブドウ球菌に有効な抗菌薬を使用します。抗菌薬には外用薬と内服薬があり、症状に合わせて選択されます。

症状の悪化や治療後の再発を防止するために、汗をかいた後はこまめにシャワー浴をしたり着替えさせたりして患部を清潔に保つことも重要です。

多発性汗腺膿瘍になりやすい人・予防の方法

新生児や乳幼児は発汗をコントロールする機能が未熟であるため、汗をかきやすく多発性汗腺膿瘍になりやすい傾向にあります。多発性汗腺膿瘍は夏場など気温の高い時期に好発するため、夏季は特に注意が必要です。

多発性汗腺膿瘍を予防するには、新生児や乳幼児の皮膚を清潔に保ち、適度に乾燥させることが重要です。汗をかいたらこまめに着替えさせたりシャワー浴をしたりするようにしましょう。

新生児や乳幼児は発汗機能が未熟であせもができることもあります。あせもができたら医療機関で診察を受け、適切な治療を受けることが重要です。また、患部を掻いたときに傷ができることのないよう、爪を短く切るようにしましょう。

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