

監修医師:
高藤 円香(医師)
目次 -INDEX-
原発性腋窩多汗症の概要
原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)は、脇の下に過剰な汗をかく病気です。
通常でも体温の変化や緊張などによって汗をかきますが、原発性腋窩多汗症の場合、これらの要因がない状況でも日常生活に支障をきたすほど多量に発汗します。
10代後半から症状を自覚することが多く、衣服に汗染みができる、汗の臭いが気になる、人前で手を挙げづらいなど、社会生活におけるさまざまな不都合が生じることがあります。
原発性腋窩多汗症は、決して珍しい病気ではありません。
近年では、外用薬による治療から手術療法まで多くの治療法が確立されており、症状の改善が期待できることも多いです。

原発性腋窩多汗症の原因
原発性腋窩多汗症の原因は明確にはされていませんが、発汗をコントロールする自律神経の過剰な反応が関連していると考えられています。
身体には無数の汗腺(汗を分泌する器官)があり、エクリン腺とアポクリン腺に大別されます。エクリン腺は全身に、アポクリン腺は脇や外陰部など局所的に存在しています。
通常は温熱刺激や精神的な要因によって適量の汗を分泌しますが、原発性腋窩多汗症の場合、必要以上に自律神経が刺激されることで過剰な発汗が起こります。
なお「原発性」という言葉が付いているのは、他の病気が起因している場合と区別するためです。遺伝的な要素が関係しているとも示唆されていますが、現時点では明確にされていません。
原発性腋窩多汗症の前兆や初期症状について
原発性腋窩多汗症の初期症状は思春期頃の年齢から徐々に現れ始めることが多いです。特徴的な症状は気温や身体活動、精神的なストレスと必ずしも関係しているとは限らない状況でも、大量の汗をかくことです。
大量の発汗により衣服の汚れが目立ち、1日に何度も着替えが必要になることもあります。また、汗が原因で身体の臭いが強くなることも少なくありません。
このような状態が続くと、対人関係や日常生活に支障をきたす場合もあります。症状に気づいたら早めに医療機関へ受診しましょう。
原発性腋窩多汗症の検査・診断
原発性腋窩多汗症には6つの診断基準があります。
- 症状の出始めが25歳以下
- 身体的に左右対称で発汗がみられる
- 睡眠中は発汗しない
- 1週間に1回以上多汗のエピソードがある
- 家族歴がある
- 症状によって日常生活に支障をきたす
出典:日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023 年改訂版」
また、実際にどれくらいの汗をかいているのか、定性的にもしくは定量的に測定する検査があります。
定性的測定法は視覚的に汗の量や範囲を調べられる検査で、ヨード紙やヨード液を用います。どちらの検査も発汗が多い部分の色の変化を確認する検査です。
ヨード紙やヨード液を発汗部位に塗布すると、たくさん汗が出る場所は黒や紫に変化するため、汗の量や範囲が確認できます。
定量的測定法は汗の量を正確に測定する検査です。発汗部位に特殊な紙を貼り付け、汗を吸収させた後に紙の重さを測定することで汗の量を計る検査や、カプセルやシリコンを使用して発汗量を測定する検査などがあります。
実際の診察の場では、患者本人の「大量の発汗により日常生活に支障をきたしている」という訴えと、定性的測定法の実施によって診断することもしばしばあります。
原発性腋窩多汗症の治療
原発性腋窩多汗症の治療は外用薬や内服薬、注射や手術など症状の程度に応じて選択します。まずは身体的な負担が少ない治療法から始め、効果をみながら治療内容を検討することが一般的です。
治療の第一選択としては、抗コリン外用薬や塩化アルミニウムが含まれている制汗剤を用いた治療が推奨されます。
抗コリン外用薬は、2020年にエクロックゲルが登場し、国内で初めて原発性腋窩多汗症用の外用薬として保険適用となりました。汗の分泌を抑える作用があり、1日1回脇の下に塗布することで効果が期待できます。
また、従来から使用されている塩化アルミニウムを含む制汗剤もありますが、場合によっては皮膚が荒れることもあり、抗炎症薬を併用し様子を見ながら治療をおこないます。
外用薬で十分な効果が得られない場合は、脇の下へボツリヌス毒素を注射する治療が選択されることもあります。これはボツリヌス毒素が汗腺の働きを阻害する作用を利用した治療法です。効果が数カ月続くメリットがありますが、切れたら再度注射をする必要があります。
さらに症状が重い場合、脇の下の汗腺を切除します。他の治療法よりも高い効果が期待できますが、術後の痛みをともないます。
また、止血のために一定期間はガーゼで手術部位を圧迫する必要があるため、腕の運動を制限する場合があります。
治療法を選択するにあたり、症状の程度や望む効果、費用や生活スタイルなどさまざまな要因を考慮する必要があります。医師と相談しながら最適な治療法を見つけることが重要です。
原発性腋窩多汗症になりやすい人・予防の方法
原発性腋窩多汗症になりやすい特徴には、遺伝的な要素が挙げられます。家族歴がある場合、原発性腋窩多汗症を発症する可能性が高まります。
生活習慣も症状の出現や悪化に影響を与える要因です。過度のストレスや不安を抱えやすい人、緊張しやすい人は自律神経系の働きが不安定になりやすく、症状が出現したり悪化したりするといえるでしょう。
原発性腋窩多汗症の予防や症状の緩和のためには、ストレスを管理したり緊張状態を和らげたりして自律神経系の安定化を図ることがポイントです。
また、衣服の選択も重要な予防策の一つです。汗を吸収しやすく、速乾性のある素材を選ぶことで、汗による不快感を軽減できます。
脇の下に汗取りパッドを使用して、衣服への汗染みを防ぐことも有効です。季節や気温に応じた適切な衣服の選択も、過剰な発汗を防ぐ上で効果があるといえます。
多量な発汗は精神的な苦痛も大きく、場合によっては対人関係や日常生活に支障をきたすこともあるでしょう。症状が気になる場合は早めに医療機関を受診し、専門医に相談することをおすすめします。
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