瘢痕性脱毛症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

瘢痕性脱毛症の概要

瘢痕性脱毛症(はんこんせいだつもうしょう)は、何らかの原因で頭皮に傷がつき、毛包が破壊されたことで傷跡から毛が生えなくなる病気です。毛包は髪の毛の元となる毛根を包む袋状の組織のことです。瘢痕性脱毛症は、毛包が完全に破壊されることにより、一度失われた部分からは二度と発毛が望めなくなります。

瘢痕性脱毛症は、原因によって2つのタイプに分けられます。原因が特定できない「原発性瘢痕性脱毛症」と、外傷や感染症など明確な原因がある「続発性瘢痕性脱毛症」です。どちらの場合も、頭皮の一部に永久的な脱毛が起こります。

脱毛部分の皮膚はなめらかで光沢があり、毛穴が消失するのが特徴です。初めは小さな範囲から発症しますが、進行にともない広範囲になることもあります。

瘢痕性脱毛症は永久的な脱毛であり、見た目に変化をもたらすため、患者の心理面に大きな影響を与えることがあります。

早期発見と早期治療が重要で、頭皮に炎症が起きている初期の段階で治療を始めることで、脱毛の進行を抑えられる可能性が高くなります。そのため、頭皮に異常を感じたら、できるだけ早く専門医に相談することをおすすめします。

瘢痕性脱毛症の原因

頭髪は、頭皮の中にある毛包という小さな袋状の組織から生えています。
毛包の中には、新しい髪の毛を作り出す「毛母細胞」と、毛包を維持・再生する「毛包幹細胞」という二種類の細胞があります。毛母細胞は髪の毛を作り、毛包幹細胞は毛包全体の健康を保つことで、健康な髪の毛が継続的に生えてくることを可能にしています。

しかし、毛包が破壊されることで、髪の毛を作り出す機能が完全に失われてしまいます。通常の脱毛症では毛包が残っているため、将来的に回復する可能性がありますが、瘢痕性脱毛症では毛包自体が失われてしまうため、自然治癒せず、その部分からの発毛は望めません。

原発性瘢痕性脱毛症

原発性瘢痕性脱毛症は、毛孔性扁平苔癬(もうこうせいへんぺいたいせん)、皮膚エリテマトーデスなどの自己免疫疾患によって毛包が直接破壊されることで発症します。

ただし、複数の病気が同時に影響していることが多く、どの病気が主な原因なのかを見分けることは難しいです。

また、炎症が活発な時期と落ち着いている時期で症状が大きく異なるため、診察時の状態だけでは原因となった病気を特定しにくいことも特徴です。

続発性瘢痕性脱毛症

続発性瘢痕性脱毛症は原発性瘢痕性脱毛症と異なり、明確な原因があって起こる脱毛症です。主な原因として、頭皮のケガ、やけど、放射線治療の影響、細菌や真菌による重度の感染症、特定の薬剤による副作用などが挙げられます。

この場合、原因となった要因を特定し、取り除くことができれば、それ以上の症状の進行を防げる可能性があります。

瘢痕性脱毛症の前兆や初期症状について

瘢痕性脱毛症の症状は、原因によって異なる経過をたどります。

続発性瘢痕性脱毛症では、やけどや外傷などの症状が先行した後に毛包が破壊されて脱毛が起こります。

原発性瘢痕性脱毛症では、頭皮の炎症から始まります。頭皮に赤みや腫れが生じ、痛みやかゆみをともなうことがあります。
その後、炎症のある部分で徐々に髪が抜け始めます。初めは髪の毛が細くなったり、本数が減ったりする程度ですが、次第に完全な脱毛斑として目立つようになります。

早い段階で治療を行わなければ、炎症が徐々に周囲に広がっていき、脱毛部分も拡大していく特徴があります。

脱毛部分の皮膚は赤みのある状態から、次第に白っぽく、なめらかな状態に変化していきます。頭皮の一部が周囲と比べて盛り上がったり、へこんだりする変化があらわれることもあります。

瘢痕性脱毛症の検査・診断

瘢痕性脱毛症の診断では、はじめに問診と頭皮の診察が行われます。医師は症状がいつから始まったのか、どのように進行してきたのかを確認し、頭皮の状態を観察します。

確実に原因を特定するには、皮膚生検が重要です。脱毛部分の皮膚を、一部だけ採取し、顕微鏡で詳しく調べます。皮膚生検により、毛包の状態や炎症の種類、瘢痕組織の有無を正確に確認できます。

また、血液検査を行うこともあります。とくに自己免疫疾患が疑われる場合は、血液検査で自己抗体の有無を調べることが重要です。感染症が原因として考えられる場合には、細菌や真菌の検査も行われます。

瘢痕性脱毛症の治療

瘢痕性脱毛症の治療では、薬物療法や手術療法によって症状の改善を目指します。

薬物療法

炎症が強い段階では、ステロイド外用薬や内服薬が使用されます。自己免疫疾患が原因の場合は免疫抑制剤、感染症が原因の場合は抗生物質や抗真菌薬などが使用されます。

頭皮の血行を改善し、残存する毛包の機能を保つため、外用薬による治療も行われます。ミノキシジルなどの発毛促進薬を使用することもありますが、すでに瘢痕(傷跡)になった部分の効果は期待できません。

手術療法

比較的広い範囲の脱毛がある場合は、自毛を使用した植毛手術が検討されます。また、瘢痕組織を切除して周囲の正常な皮膚で覆う方法や、人工皮膚を用いた治療なども行われています。

瘢痕性脱毛症になりやすい人・予防の方法

瘢痕性脱毛症は、自己免疫疾患がある方は発症のリスクが高くなります。

また、頭皮の感染症にかかりやすい人や、頭皮を強くこすったり過度なブラッシングをしたりする習慣がある人も注意が必要です。

予防には、頭皮への負担を減らすことが大切です。シャンプーとブラッシングのときは優しい刺激を心がけ、外出のときは帽子や日焼け止めで紫外線から頭皮を守りましょう。頭皮に痛みやかゆみ、赤みや腫れなどの異常を感じたら、早めに皮膚科を受診してください。

基礎疾患のある方は、定期的に主治医に頭皮の状態を確認してもらうことをおすすめします。


関連する病気

  • 皮膚リンパ腫
  • 皮膚サルコイドーシス
  • 尋常性天疱瘡(じんじょうせいてんぽうそう)
  • 皮膚アミロイドーシス
  • 尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)
  • ケロイド
  • 放射線皮膚炎
  • 皮膚クリプトコッカス症

この記事の監修医師

S