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スポロトリコーシス
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

スポロトリコーシスの概要

スポロトリコーシスは「スポロトリクス・シェンキィ(Sporothrix schenckii)」という真菌による感染症で、土に触れる子どもや、農作業や園芸作業をする人によく見られます。この真菌は土や植物に存在しており、主に傷口から皮膚の中に入ることで感染します。

スポロトリコーシスは、主に皮膚固定型と皮膚リンパ管型の2つのタイプに分類されます。まれに全身に症状が広がる播種型や、骨や関節、臓器に発症する例もあります。スポロトリコーシスの主な症状は、感染した部位の赤い腫れや膿で、皮膚リンパ型ではそれがリンパ管に沿って広がっていきます。

症状は感染してから数週間後にあらわれ始めます。早期に薬物療法などの適切な治療を行えば完治が期待できますが、治療が遅れると慢性化したり、まれに全身に広がったりする可能性があります。

スポロトリコーシスは世界的には熱帯や亜熱帯地域でよく見られ、とくに南米では一般的な皮膚感染症の一つとして知られています。

スポロトリコーシスの原因

スポロトリコーシスの原因となる真菌は、主に土や腐った植物の中に生息しています。腐敗した木材、干し草、こけなどにも見られ、これらに含まれる真菌が傷口から侵入することで感染が起こります。

感染経路として多いのは、とげのある植物を触ったときの傷や擦り傷、切り傷を通じた感染です。とくにバラの栽培や園芸作業、農作業など、土や植物に触れる機会の多い作業で感染することが多く見られます。

また、スポロトリコーシスに感染した動物を介して感染する場合もあります。猫がこの病原菌を保菌している場合、引っかき傷やかみ傷を通じて人へ感染することがあります。

全身に症状がみられる播種型は、主にHIV感染症による免疫力の低下が原因で発症しやすくなります。

スポロトリコーシスの前兆や初期症状について

スポロトリコーシスの初期症状は、真菌が侵入した部位に小さな赤い腫れや硬いしこりとしてあらわれます。腫れは徐々に大きくなり、潰瘍になったり膿を作ったりすることがあります。

皮膚固定型の場合は、感染した部分の症状にとどまり、周囲への広がりが少ないのが特徴です。子どもでは顔面にあらわれやすく、成人では手や腕に発症することが多いです。

皮膚リンパ管型では感染した部分から、リンパ管に沿って次々と同じような腫れがあらわれていきます。腫れも徐々に大きくなり、表面がでこぼこしたり、潰瘍化して膿が出たりすることがあります。

いずれのタイプも化膿したり潰瘍化したりすると痛みをともなうことがあります。かゆみを感じることもありますが、発熱などの全身症状はほとんど見られません。

スポロトリコーシスの検査・診断

スポロトリコーシスの診断は、問診や視診、培養検査、血液検査、画像検査などによって総合的に行われます。

問診では症状の特徴や感染経路 の機会の確認などを行います。土や植物との接触歴は特に重要な判断材料となります。その後、視診などで病変部の状態を調べ、リンパ管に沿った症状の広がり方などを確認します。状態に応じて特殊な顕微鏡(ダーモスコピー)を使用し、より詳しく観察します。

確定診断のために、病変部から検体を採取し、培養検査を行います。培養検査では、採取した検体を特殊な培地で培養し、原因となる真菌の発育を確認します。採取した組織を顕微鏡で観察し、原因菌の特徴的な形を確認します。

症状によっては、血液検査や画像検査なども行われます。

スポロトリコーシスの治療

スポロトリコーシスの治療は、抗真菌薬による薬物療法や温熱療法を行います。

薬物療法では、イトラコナゾールという内服薬が主に用いられます。温熱療法は真菌の発育を抑える目的で行われ、カイロなどを患部に適用します。しかし、子どもや高齢者では低温やけどのリスクがあるため、注意が必要です。

スポロトリコーシスになりやすい人・予防の方法

スポロトリコーシスは、農業や園芸、林業など土や植物に触れる機会の多い職業の方や、砂場遊びをする子どもに多く見られます。免疫力が低下している方は特に感染しやすく、重症化する傾向があります。

予防の基本は、作業時の適切な防護です。長袖の作業着や手袋を着用し、とくにとげのある植物を扱う際は厚手の手袋を使用します。作業中に傷ができた場合は、すぐに洗浄・消毒を行い、必要に応じて医療機関を受診しましょう。

また、猫からの感染も報告されているため、ペットの猫を飼育している場合は引っかき傷に注意し、猫に皮膚の異常が見られる場合は早めに獣医師に相談することが大切です。

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