監修医師:
高藤 円香(医師)
水疱性類天疱瘡の概要
水疱性類天疱瘡(すいほうせいるいてんぽうそう)は、自己免疫疾患の一種で、高齢者に多い皮膚疾患です。まれに若者や小児にも発症する可能性があります。身体の免疫システムが誤って皮膚の特定のタンパク質を攻撃し、表皮と真皮の間に水疱を形成することによって生じます。水疱は通常、体幹や四肢に現れますが、口腔内にも発生することがあります。
水疱性類天疱瘡はまれな慢性疾患であり、適切な治療を受けなければ生活の質を低下させる可能性がありますが、適切な診断と治療により改善が期待できます。
症状はかゆみを伴う軽度の発疹から大きな水疱まで、重症度がさまざまです。他の水疱性疾患と混同されやすいため、診断の際は特有の症状や発症のメカニズムなどの確認が重要になります。
水疱性類天疱瘡の原因
水疱性類天疱瘡は身体の免疫システムが誤って皮膚の基底膜領域にある特定のタンパク質を標的として攻撃することによって起こります。
これらのタンパク質は表皮と真皮を接着する大切な役割を持つため、免疫システムに攻撃されると表皮と真皮の間の接着が失われ、水疱が形成されます。
自己免疫反応が起こる原因は不明ですが、糖尿病治療薬や脳梗塞、認知症などの神経疾患、紫外線の曝露などが発症のきっかけになる可能性が指摘されています。
水疱性類天疱瘡の前兆や初期症状について
水疱性類天疱瘡の初期症状は、強い痒みを伴う発疹で、膝の裏側、わきの下、肘の内側、鼠径部など、関節によって曲げる部位に多く生じます。水疱が形成される前に、赤みやかゆみのある斑点(はんてん)や丘疹(きゅうしん)が現れることもあります。
痒みは特に夜間に悪化することが多く、睡眠障害の原因となることもあります。時間が経つにつれ、小さな水疱が形成され始め、徐々に大きくなっていきます。全身にびらんが発症するため、症状が重くなると体液や血液が体外に出ていって低栄養や貧血を起こす可能性もあります。低栄養や貧血が悪化すると、細菌感染症による敗血症を引き起こし、命に関わることもあります。
口腔内症状も初期に現れることがあり、口内炎や歯肉の炎症として現れます。また、全身的な症状として軽度の発熱や倦怠感を伴うこともあります。水疱性類天疱瘡の初期症状は、他の皮膚疾患と似ているため鑑別が難しいですが、これらの症状が持続したり悪化したりする場合は、早期に医療機関を受診することが重要です。
水疱性類天疱瘡の検査・診断
水疱性類天疱瘡の検査は、臨床症状、皮膚生検、血液検査などの方法を組み合わせて行い、検査結果を総合的に評価することで、確定診断が可能となります。
まず、医師は患者の症状や病歴を詳しく聴取し、皮膚に水疱がないか詳細な視診を行います。
皮膚生検では水疱を含む皮膚の一部を採取し、組織学的検査を行います。光学顕微鏡を使用すると、表皮と真皮の間に水疱が形成されている所見が観察されます。さらに、直接免疫蛍光法を用いて、基底膜領域に沿って免疫グロブリンGや補体C3の線状沈着がないか確認します。
血液検査では、抗BP180抗体や抗BP230抗体などの自己抗体を測定します。自己抗体は、間接免疫蛍光法やELISA法などの手法で検出されます。一部の施設では、塩分分離試験やウエスタンブロット法などの検査も行うこともあります。
水疱性類天疱瘡の治療
水疱性類天疱瘡の治療は、症状の重症度や患者の全身状態に応じて決定されます。治療の目標は、水疱の形成を抑制し、痒みや痛みを緩和することによる合併症の予防です。
治療の第一選択は通常、全身性ステロイド薬になります。プレドニゾロンなどの経口ステロイド薬が高用量で開始され、症状の改善に伴って徐々に減量していきます。ステロイド薬の長期使用に伴うリスクを軽減するため、アザチオプリンやミコフェノール酸モフェチルなどの免疫抑制剤が併用されることも多くあります。
重症例や治療抵抗性の症例では、血漿交換療法、ステロイドパルス療法、大量ガンマグロブリン静注(IVIG)療法、アザチオプリンなどの各種免疫抑制薬を併用します。局所療法としては、ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏などの免疫抑制外用薬が使用されます。
水疱性類天疱瘡は再発を繰り返すことがあり、ステロイド内服の副作用も出やすいことから慎重な治療が必要になります。水疱が多数発症している場合は、適切な水泡のケアが大切です。二次感染を予防するために抗生物質が使用されることもあります。痒みのコントロールには抗ヒスタミン薬が用いられます。
治療の経過中は、定期的な血液検査や皮膚の評価も必要になります。長期的な管理も必要となるため、患者教育や生活指導も大切です。
水疱性類天疱瘡になりやすい人・予防の方法
水疱性類天疱瘡は60〜90歳の高齢者に多く見られます。
水疱性類天疱瘡を予防する方法は確立されていませんが、日焼け止めや長袖の着用などで外出時の紫外線を予防したり、リラックス法や適度な運動を日常生活に取り入れたストレス管理が大切です。日々のバランスの取れた食事や十分な睡眠も、全身の健康維持につながります。
高齢者や自己免疫疾患の既往がある人は皮膚の変化に注意を払い、気になる症状があれば速やかに医療機関を受診することが大切です。
水疱ができた場合は、悪化を防ぐために絆創膏を直接張らないようにしてガーゼで包むようにしましょう。ゆったりとした衣類や下着を着用して強い刺激を加えないことも重要です。
参考文献