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爪白癬(爪水虫)
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

爪白癬(爪水虫)の概要

爪白癬(つめはくせん)は、爪に発生する慢性的な真菌感染症の1つであり、爪甲の混濁、肥厚、変形などをきたします。主に足の爪や手の爪にみられ、皮膚糸状菌(白癬菌)、カンジダ属、および非白癬菌性糸状菌(Nondermatophyte molds:NDM)が原因です。日本国内では、10人に1人が爪白癬にかかっているとされ、特に高齢者に多い傾向です。
爪白癬は、爪甲の肥厚や粗造化により、歩行に影響が生じるなどして患者さんの生活の質(Quality of life:QOL)にも影響を与えます。また、ほかの白癬やほかの人への感染を広げる感染源となることもあるため、早期の診断と適切な治療が必要になります。

爪白癬(爪水虫)の原因

爪白癬の原因は主に真菌感染によるもので、足白鮮(足水虫)が爪にうつることが多いとされています。真菌が産生するケラチン分解酵素が爪のケラチンを分解し、感染を促進することが知られています。また、爪の外傷や疾患などでバリアが弱まると、感染リスクが増加します。真菌には以下の3つのグループにわけられます。

皮膚糸状菌(白癬菌)
最も一般的な原因菌であり、爪白癬の90%以上を占めます。代表的な菌種にはTrichophyton rubrumやTrichophyton mentagrophytesがあります。
酵母
Candida albicansをはじめとするカンジダ属が含まれます。これらの酵母は、特に湿気の多い環境でよく増殖します。
非白癬菌性糸状菌
Fusarium属、Aspergillus属、Acremonium属、Scytalidium属、およびScopulariopsis属などが含まれます。

爪白癬(爪水虫)の前兆や初期症状について

爪白癬の初期症状には、爪の変色(白、黄、茶色)や、爪甲下角質が増殖し爪の厚みが増して変形したり、爪がもろくなり、爪が剥離したり爪板が割れたりします。これらの症状は、爪の一部から始まり、徐々に広がって爪全体に及ぶことがあります。真菌の侵入経路や爪甲内における増殖場所によって以下のように病型が分類されています。

遠位側縁爪甲下爪真菌症(distal and lateral subungual onychomycosis:DLSO)
DLSO型は全爪白癬の約80〜90%を占め、最も一般的な病型で、爪の先端または側面から始まり、爪床にそって広がり爪全体に感染していきます。初期には爪の端が白や黄色に変色し、次第に爪の厚みが増し、爪が割れやすくなります。爪甲の下の方から侵入するため爪甲の表面は正常です。
表在型爪真菌症(superficial white onychomycosis:SWO)
爪甲表面から直接真菌が侵入することにより発症します。爪の表面に白色の斑点が現れ、爪全体に広がることがあります。爪の表面が粉っぽくなり、爪が脆くなりますが、爪甲表面に真菌が存在するため爪甲下の角質は増殖しにくいです。Trichophyton interdigitaleが原因となることが多いようです。
近位爪甲下爪真菌症(proximal subungual onychomycosis:PSO)
比較的珍しいタイプで、爪の近位部(爪の根元)に白色の変色が現れ、爪全体に感染が進行し、爪甲の白色混濁が広がっていきます。このタイプは特に免疫抑制状態にある患者さんに多くみられるようです。
全異栄養性爪真菌症(total dystrophic onychomycosis:TDO)
爪甲全層に真菌が増殖した状態のことを指します。治療をせずに放置すると最終的にいたる状態です。爪甲は全体的に変色し、肥厚、粗造化しており、爪甲下の角質増殖も顕著です。

これらの症状が見られた場合、早めに皮膚科を受診することが推奨されます。特に、爪の変色や形状の変化が進行している場合は、専門医の診断と治療が重要です。

爪白癬(爪水虫)の検査・診断

爪白癬の診断には、爪甲内から白癬菌を検出する必要があります。

顕微鏡検査
爪の濁った部分の角質を採取し、KOH(苛性カリ)直接鏡検法を用いて、真菌がいるかを確認します。真菌の有無を迅速に確認できますが、検査にはある程度の経験を要します。
培養検査
真菌を特定するための培養検査を行います。この方法では、真菌の種類を特定することができますが、結果が出るまでに2週間から4週間かかります。なお、KOH直接鏡検では、真菌が局在していない部位から採取すると偽陰性となることがあるため、臨床症状が強い場合には再検査や培養検査を組み合わせることが推奨されます。

爪白癬(爪水虫)の治療

爪白癬の治療は、抗真菌薬の外用や内服で行います。

外用薬
主に軽度から中程度(爪の混濁面積が50%未満)の爪白癬には、抗真菌性のクリームやローションが使用されます。外用薬には、エフィナコナゾール、ルリコナゾールがあり、爪に直接塗布して使用し、真菌の増殖を抑制します。
内服薬
主に重度(爪の混濁面積が50%以上)の爪白癬や外用薬が効果を示さない場合には、経口抗真菌薬が処方されます。テルビナフィン、イトラコナゾール、ホスラブコナゾールがあります。肝機能障害をきたす可能性があるため、内服治療中には定期的に血液検査を行うことがあります。
外科的治療
難治性の爪白癬症の場合には、爪甲除去やCO2レーザーなどを併用することがあります。CO₂レーザー治療は、熱エネルギーによって真菌の存在する爪甲や爪甲下角質を蒸散させることで、局所の菌数を減少させる補助的な治療法です。通常は外用薬や内服薬との併用で行われ、特に重症例や薬剤無効例に選択されます。

治療期間は、爪の成長速度や感染の重症度によります。一般的に、足の爪は成長が遅い(2日で0.1mm)ため、治療期間は外用薬で48週間、内服薬で12週間から24週間程度と長くなります。治療の成功には、継続的なケアと再感染の予防が重要です。

爪白癬(爪水虫)になりやすい人・予防の方法

爪白癬になりやすい人にはさまざまな特徴があります。

  • 皮膚疾患:足白癬(足水虫)、乾癬、過剰な発汗などの皮膚疾患を持つ人など。
  • 全身性疾患:糖尿病、免疫不全、末梢血管疾患、肥満、悪性腫瘍など。
  • 生活習慣:爪の外傷、不適切な爪の手入れ、スポーツ(水泳や靴)、喫煙、水仕事など。
  • 個人の特性:加齢、感染した家族との接触、遺伝的素因、外反母趾など。

予防の方法としては、次のようなものがあげられます。

爪の衛生管理
爪を清潔に保ち、適切に切ることが重要です。特に爪を短く切りすぎないように注意し、角を丸く整えることで、外傷を防ぐことができます。
湿気の管理
足を乾燥させ、通気性の良い靴や靴下を選ぶことが推奨されます。特に汗をかきやすい人は、吸湿性のある靴下や靴を使用することが効果的です。
公共の場での注意
公共のプールやシャワールームでは、サンダルを着用し、直接床に足をつけないようにすることが重要です。
免疫力の向上
健康的な食事や運動、十分な睡眠をとることで免疫力を向上させ、感染リスクを減らすことができます。

また、爪白癬の再感染を防ぐためには次のような対策も有効です。

靴の消毒
真菌は湿気の多い環境で増殖するため、定期的に靴を消毒し、乾燥させることが推奨されます。
個人用具の共有を避ける
爪切りやタオルなどの個人用具を他の人と共有しないようにし、自分専用の用具を使用することが重要です。
定期的な検診
特にリスク要因を持つ人は、定期的に皮膚科医の検診を受け、早期発見・早期治療を心がけることが重要です。

適切な予防と早期の診断・治療により、爪白癬の発生と進行を抑えることができます。特にリスク要因を持つ人は、定期的な爪のチェックを行い、異常が見られた場合は早めに皮膚科医に相談することが推奨されます。爪白癬は治療が長期間にわたることが多いため、患者さん自身の忍耐と継続的なケアが重要です。早期の治療開始と適切なケアにより、爪の健康を保ち、QOLを向上させることができます。

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