監修医師:
高藤 円香(医師)
毛孔性苔癬の概要
毛孔性苔癬(もうこうせいたいせん)は皮膚疾患および皮膚の角質異常です。別名で毛孔性角化症(もうこうせいかくかしょう)や毛嚢性角化症(もうのうせいかくかしょう)とも呼ばれます。小児期から思春期の若い年齢で発症し、皮膚の表面にブツブツした、ニキビよりも小さく細かいいぼが発生するものです。なお、毛孔性苔癬の発症によって生命が脅かされることはありません。
一般的に毛孔性苔癬は成長・加齢とともに自然消失します。ただし、30代から40代になっても症状が残るケースも確認されるため、個人差もあるのが実情です。
現時点ではなぜ発症するのか、はっきりとした原因は判明していません。ですが、患者さんの希望に合わせた治療方法はある程度確立されています。正しい治療を行えば、放置するよりも早く完治するケースも珍しくありません。
発生する箇所は二の腕のほか、頬・膝裏・太もも・お尻などに確認されます。触れるとざらざらした感触がありますが、自覚症状や日常生活への支障はほぼありません。
見た目が気になって早く改善したい場合、稀にむず痒さや不快感を覚える場合もあるので、その際は医師との相談のうえで治療を行います。
補足として、成人して20歳以降になってから初めて発症するケースはほとんど確認されていません。ある程度の年齢を重ねて以降も症状がみられない場合は、今後も発症する可能性は限りなく低いともいえます。
毛孔性苔癬の原因
毛孔性苔癬はまだ根本的な原因が解明されていない点もありますが、主に以下の原因が考えられます。
- 遺伝(常染色体優性遺伝)
- ホルモン代謝の異常
- ビタミンの不足
- 外的刺激
発症の原因は遺伝によるものがほとんどです。生涯に渡り発症しない人もいれば、若い頃から発症して悩まされてしまう人もいます。
遺伝子により毛孔性苔癬が発症しやすい体質かつ、外的要因が複数重なると、皮膚のターンオーバーが乱れます。ターンオーバーが正常に行われず、毛穴に古い角質が詰まった状態です。皮膚が肥厚すると、毛穴部分が角質により盛り上がって小さないぼのようになって毛孔性苔癬の発症につながります。
毛孔性苔癬の前兆や初期症状について
前兆や初期症状はほぼなく、二の腕や頬・太もも・お尻などに突如として発症するケースがほとんどです。小学生に上がる頃から10代、人によってはそれよりも早い幼児期にも発症するケースがあります。先述したとおり皮膚のターンオーバーの乱れが原因で発症するため、栄養不足や不規則な生活が引き金になることも考えられるでしょう。
気になる症状があれば、皮膚科もしくは美容皮膚科の医師に診察してもらったうえで指示を仰いでください。なお、治療から完治までに希望する期間や予算などを決めかねている場合は、皮膚科と美容皮膚科両方に対応しているクリニックでの診察および相談をおすすめします。
毛孔性苔癬の検査・診断
診察には特別な機器は用いられず、視診や触診が行われます。発症時の年齢を踏まえて、見た目に白もしくは赤いブツブツが発生しているか・皮膚表面にざらつきはあるか・発生している部位がどの箇所かなどによって総合的に判断したうえで治療方針を決める流れです。
ただし、患部に僅かな違和感や痒みがある場合は毛穴内で軽度の炎症を併発している場合もあります。毛孔性苔癬以外の炎症が認められる場合は、炎症の治療が優先です。
毛孔性苔癬の治療
治療方針は患者さんの意向によって異なります。例えば、判断材料となる点は以下の要因です。
- 患部に痒みや痛みが発生しているかどうか
- 治療から完治に至るまでの希望日数
- 治療に際する予算
身体に痒みや痛みの症状が出ている場合は、まず患部の治療を優先して行い症状の緩和・抑制をします。ただしほかの皮膚疾患を併発している場合は、この段階で症状に合わせた治療を行います。患部の痒みや痛みがなくなった後は、ブツブツやざらつきなど見た目に表れている症状改善へと移行する流れです。
主に、時間がかかっても構わない・低予算に抑えたい場合は保険診療、少しでも早い完治を目指す場合は美容皮膚科による自費診療を行います。
保険診療の場合
保険診療は対症療法で、主に塗り薬の処方が一般的です。外薬の例として、尿素製剤(ケラチナミン・パスタロン)が配合されたものは角質層に潤いを与えて乾燥を防ぎながら肌をやわらかくします。ほかにもターンオーバーを促して古い角質を取り除くザーネクリーム(ビタミンA配合)・余分な角質を溶かす作用があるサリチル酸ワセリンなどが処方される場合もあります。なお、ビタミンD製剤は乾癬の治療薬として有効です。ビタミンD製剤は角質異常の正常化を促すものの、毛孔性苔癬のみの治療では保険適用外のため、ほかの症状を併発している際に用いられるケースがあります。これらの塗り薬を定期的に塗布しながら患部を保護し、経過観察を行いながらの自然治癒を促す流れです。
自費診療の場合
美容皮膚科での施術となる自費診療では、先述したビタミンD製剤やヘパリン類似物質配合の塗り薬が処方されるケースがありますが、主な治療方法はピーリングや美容機器を用いた施術・医療脱毛などです。ピーリングは顔を中心に発生した毛孔性苔癬に有効な手段のひとつで、皮膚の表面(角層)を極めて薄く溶かして取り除きます。同時に古い角質が排除されるため皮膚のターンオーバーを促せるほか、ざらつきが軽減される・埋もれた毛が排出される・肌のトーンが明るくなるなどの作用も期待できます。毛孔性苔癬の改善に用いられる美容機器はダーマペンで、患部に直接触れて刺激を与えながら施術する流れです。先端に髪の毛より細い針がついていて、皮膚の表面に目には見えない穴を開けます。穴が開き傷ついた肌を治癒するため、新陳代謝が高まったりコラーゲン生成を促進したりするなどで自然治癒力が引き上げられるのです。ダーマペンはピーリングよりもさらに肌の深部へと働きかけます。ダーマペンの施術を受けた直後は肌に痛みが発生したり赤みが出たりする場合があり、施術前後のケアには特に気を配る必要がある点に注意が必要です。ほかにも、医療脱毛を受けて毛孔性苔癬が劇的に改善するケースもあります。毛穴がふさがっている肌には、古い角質とともにムダ毛が埋もれているケースも珍しくないからです。医療脱毛を受けて患部からムダ毛が生えなくなると、毛穴が詰まるリスクが軽減されて毛孔性苔癬の症状も改善されやすくなります。
毛孔性苔癬になりやすい人・予防の方法
先述のとおり、毛孔性苔癬は遺伝による要因が大部分を占めており、完全な予防方法は見つかっていません。ただし、毛孔性苔癬を発症しやすい体質であっても以下の点に留意すると発症の確率を下げられます。
- 肌を清潔に保つようにする
- 患部に極力触らない
- 触れる際は擦ったり力を入れたりしない
- 患部をしっかり保湿する
- 紫外線対策を念入りに行う
肌に刺激を与える行為全般が、毛孔性苔癬の発症を長引かせる要因です。顔や身体を洗う際もぬるま湯で、低刺激の石鹸や専用のフォームなどを使用し、擦らずに優しく洗浄します。極度に熱いお湯は肌の乾燥を助長するので注意が必要です。入浴時の温度にも気をつけつつ、浴室から出たらしっかりと保湿を行いましょう。
さらに外出時も、紫外線対策は必須です。季節や天気・室内外を問わず降り注いでいるため、日焼け止めを習慣化させるのが望ましいです。外出時は帽子や袖の長い服などを着用して患部が紫外線に晒されないようにしてください。
なお、着用している衣服が刺激になって症状を悪化させるケースもあります。特に二の腕や背中・足などに発症している場合は、直接肌に触れる衣服をコットン素材のものに切り替えましょう。
気にかけなければならない点が多くありますが、ほとんどが日常生活の延長で取り入れられる内容です。できることから少しずつ取り入れて、毛孔性苔癬の改善に努めてみてください。