肺炎クラミジア感染症

監修医師：
林 良典（医師）

肺炎クラミジア感染症の概要

肺炎クラミジア感染症とは、Chlamydia pneumoniae（クラミジア・ニューモニエ）という細菌が原因で発生する呼吸器感染症の一つです。この病原体は、肺炎のほかにも気管支炎や咽頭炎を引き起こすことがあり、特に免疫力が低下している方や高齢者では重症化することがあります。
一般的な肺炎と比べて症状が軽いことが多く、非定型肺炎の一つに分類されます。発熱や咳、倦怠感などの症状が現れますが、症状の進行が緩やかであるため、風邪と間違われることも少なくありません。しかし、放置すると症状が悪化し、長引くことがあるため、早期診断と適切な治療が重要です。

この疾患は飛沫感染によって広がり、感染者が咳やくしゃみをすると、飛沫が放出されてほかの方に感染します。そのため、集団感染を引き起こすことがあります。

肺炎クラミジア感染症の原因

肺炎クラミジア感染症の原因は、Chlamydia pneumoniae（クラミジア・ニューモニエ）という細菌への感染です。この細菌は、主に飛沫感染によって広がります。感染者が咳やくしゃみをした際に放出される飛沫を吸い込むことで、ほかの方の呼吸器に入り込んで感染を引き起こします。
この細菌は通常、健康な方の体内には存在しませんが、一度感染すると気道の粘膜に付着し、増殖を始めます。感染後の潜伏期間は1〜3週間程度と長く、その間に症状が徐々に現れるのが特徴です。

また、感染しやすい環境としては、人が密集する学校や職場、高齢者施設などが挙げられます。特に、免疫力が低下している方や、慢性疾患を持っている方では感染のリスクが高く、注意が必要です。

肺炎クラミジア感染症の前兆や初期症状について

肺炎クラミジア感染症の初期症状は、風邪に似た症状で始まることが多く、発熱や咳、喉の痛みが現れます。症状は軽度で、急激に悪化することは少ないため、単なる風邪と誤認されることがあります。特に、軽い喉の違和感や鼻づまりから始まるケースもあり、初期段階では診断が難しいことがあります。

次第に乾いた咳がでるようになり、数週間にわたり咳が続くことがあります。この咳は特に夜間や朝方に悪化しやすく、睡眠の質が低下する原因にもなります。また、全身の倦怠感や軽度の頭痛、筋肉痛を伴うこともあり、体調がすぐれない状態が長引くことが特徴です。一般的な細菌性肺炎とは異なり、高熱や激しい悪寒が現れにくく、発熱があっても微熱程度で推移することが多いです。
進行すると、呼吸が浅くなったり、息苦しさを感じることがあります。特に高齢者や基礎疾患を持つ方では重症化するリスクが高まります。また、免疫力が低下している方では、肺の炎症が広がりやすく、回復に時間がかかることがあります。症状が長引いたり、改善しない場合は早めに医療機関を受診することが重要です。

肺炎クラミジア感染症が疑われる場合には、呼吸器内科または感染症内科を受診するとよいでしょう。

肺炎クラミジア感染症の検査・診断

肺炎クラミジア感染症は、症状が風邪と似ているため、一般的な診察だけでは診断が難しいことがあります。聴診では、通常の細菌性肺炎に比べて、はっきりとしたラ音（肺の異常音）が聞こえにくいことが特徴です。そのため、診察時には肺の音の異常があまり認められないことがあり、誤診されることも少なくありません。正確な診断を行うためには、いくつかの検査が必要となります。

肺炎が疑われる場合には、まず胸部X線検査を実施し、肺の炎症の有無を確認します。通常の細菌性肺炎とは異なり、肺炎クラミジア感染症では炎症がびまん性（広範囲）に広がる傾向があり、はっきりとした肺炎像が現れにくいことが特徴です。そのため、X線画像では軽度の浸潤影や不均一なすりガラス状の陰影が見られることがあります。
詳細な評価が必要な場合、CTスキャンで肺の異常を観察し、ほかの肺疾患との鑑別を行います。

また、血液検査を行い、クラミジア抗体の有無を調べます。血清抗体検査では、感染が進行している場合に抗体価の上昇が確認されますが、初期段階では陽性にならないこともあります。そのため、確定診断のためにはPCR検査が有効です。PCR検査では、咽頭ぬぐい液や喀痰からクラミジアの遺伝子を検出し、迅速かつ正確な診断を行うことができます。

肺炎クラミジア感染症の治療

肺炎クラミジア感染症の治療では、抗生物質の使用が中心となります。クラミジアは細菌の一種ですが、一般的な細胞壁を持たないため、ペニシリン系やセフェム系の抗生物質は効果がありません。そのため、マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗生物質が選択されます。

一般的に、第一選択薬としてマクロライド系抗生物質（アジスロマイシンなど）が処方されます。これらの薬剤は、細菌のタンパク合成を阻害し、増殖を抑える働きがあります。治療期間は1〜2週間で、症状が改善しても治療を中断せず、医師の指示にしたがって抗生物質を最後まで服用することが重要です。また、症状が重い場合や、ほかの疾患を併発している場合には、テトラサイクリン系（ドキシサイクリン）やニューキノロン系（レボフロキサシン）が使用されることもあります。

治療と並行して、十分な休息と水分補給を行い、体力の回復を図ることが重要です。発熱や倦怠感が続く場合は、解熱鎮痛薬が併用されることもあります。また、咳がひどい場合には、咳止めや気道を広げる薬が処方され、呼吸の負担を軽減するようにします。
重症化した場合や、抗生物質の効果が不十分な場合には、入院して点滴による治療が必要となることもあります。特に、呼吸困難がみられる場合は、酸素療法を併用することも検討されます。

肺炎クラミジア感染症になりやすい人・予防の方法

肺炎クラミジア感染症は、特定の条件下で感染リスクが高まります。特に、免疫力が低下している方や慢性疾患を持っている方は注意が必要です。高齢者や糖尿病、慢性閉塞性肺疾患（COPD）、心疾患などの持病を持つ方は感染しやすく、症状が重くなりやすい傾向があります。加えて、免疫抑制剤や長期間ステロイドを服用している方も感染リスクが高まるため、特に注意が必要です。

また、学校や職場など人が多く集まる場所では、飛沫感染によって感染が広がりやすく、集団感染のリスクがあります。特に、換気が不十分な環境ではウイルスや細菌が空気中に長く留まりやすくなるため、定期的な換気が推奨されます。感染拡大を防ぐために、室内の換気を行い、密閉空間での長時間の会話を避けることが重要です。

予防のためには、手洗いやうがいを習慣化し、病原体の侵入を防ぐことが大切です。手洗いの際は、石鹸を使用し、流水でしっかりと洗うことで、手指に付着した病原菌を効果的に除去できます。また、マスクの着用は飛沫感染を防ぐために有効であり、特に感染が流行している時期には、公共の場でのマスク着用を心がけるとよいでしょう。さらに、バランスの取れた食事と適度な運動を行い、免疫力を維持することも忘れずに行いましょう。