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耳小骨発育不全
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

耳小骨発育不全の概要

耳小骨発育不全は、中耳にある耳小骨に生まれつき異常が生じる病気です。
耳小骨は、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨という3つの小さな骨で構成されており、外部から入ってきた音を内耳や聴神経に伝える重要な役割を担っています。
これらの耳小骨に何らかの異常が生じると、音の伝達が上手くいかなくなり、難聴を引き起こします。

耳小骨発育不全の明確な原因はまだ解明されていません。
しかし、トリーチャーコリンズ症候群、アペール症候群、クルーゾン症候群などの症状の一つとして現れることがあり、これらの症候群に関連する遺伝子の異常が関与している可能性が疑われています。

耳小骨発育不全は、片耳だけに起こる場合と両耳に起こる場合があります。
難聴の程度によっては、幼少期には発見されず、小学校入学頃まで症状が発見されないこともあります。

診断のためには、聴力検査を行い、難聴の程度や種類を評価します。
さらに、中耳の状態を詳しく調べるために、ティンパノメトリーをおこなうことがあります。
CT検査などの画像検査も、耳小骨の形態異常を確認するために有用です。
しかし、診断には手術によって内耳の状態を目視で確認しなければ確定できない場合もあります。

治療は主に手術によっておこなわれます。
手術の適応や時期は、合併症の有無や患者の生活環境などを総合的に考慮して決定されます。
手術が難しい場合は、補聴器を使用することで聴力を補うことも可能です。

耳小骨発育不全は難聴の症状に気づかぬまま放っておくと、言語の発達に支障が出る可能性があるため、適切な時期に早期に対処することが重要です。

耳小骨発育不全の原因

耳小骨発育不全の明確な原因は、現在のところ不明です。
耳小骨であるツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨は、妊娠初期から妊娠終期にかけて形成されますが、この期間中に何らかの要因によって正常な発達を妨げられている可能性があります。
キヌタ骨とアブミ骨が必要以上に離れていたり、それぞれの骨が動きにくかったりすることで生じる場合が多いです。

また、先天性疾患であるトリーチャーコリンズ症候群、アペール症候群、クルーゾン症候群などの症状の一つとして現れることがあります。
これらの疾患に関連する遺伝子の異常が原因となっている可能性も指摘されています。

耳小骨発育不全の前兆や初期症状について

耳小骨発育不全の主な症状は難聴です。
両耳に発症している場合は、1〜2歳頃に言語発達の遅れにより気づくことが多いです。
しかし、片耳だけ発症している場合は日常生活に大きな支障がないため、発見が遅れることがあります。
小学校の聴力検査で初めて指摘されるケースも少なくありません。

また、耳小骨発育不全がトリーチャーコリンズ症候群、アペール症候群、クルーゾン症候群などの疾患によって引き起こされている場合は、難聴のほかに、頭蓋骨や顔面骨の形成異常、脳の発達遅延、眼球の突出、呼吸障害などの症状を伴うことがあります。
これらの症状が見られる場合は、早期に専門医の診察を受けることが重要です。

耳小骨発育不全の検査・診断

耳小骨発育不全の検査では、聴力検査やティンパノメトリー、画像検査などをおこないます。

聴力検査

聴力検査では主に純音聴力検査によって、異なる周波数の音をヘッドホンで聞いたときの聴力を調べます。
耳小骨発育不全では、音が小さく聞こえる伝音難聴が生じることが特徴的です。
乳幼児の場合は、脳波の反応を見て聴力を確かめる聴性脳幹反応(ABR)という聴力検査を用いることもあります。

ティンパノメトリー

ティンパノメトリーは、鼓膜に刺激を加え、鼓膜の動きや中耳の機能について調べる検査です。
耳小骨が離れていたり、固くなっていたりする所見がないかを調べます。

画像検査

画像検査ではCT検査などが用いられます。
CT検査によって耳小骨の状態だけでなく、外耳や内耳などの解剖学的な構造も確かめられます。
これにより、耳小骨の形態異常や、周囲の組織との関係などを詳細に評価することが可能になります。

耳小骨発育不全の治療

耳小骨発育不全の根本的な治療法は手術となります。
手術では耳小骨の動きを改善させることを目指しますが、顔面神経の走行異常や内耳の異常などがある場合は、手術が困難な場合もあります。
また、中耳炎などの合併症のリスクを考慮し、手術は通常5〜10歳以降に実施することが多いです。

しかし、手術をおこなうまでの期間が空く場合や、手術が適応にならない場合は、言語発達への影響を最小限に抑えるため、補聴器を使用することが主な治療法になります。
聴力を補うことでできるだけ正常な言語発達を促し、生活の質を極力落とさないようにすることが大切です。
言語聴覚士による発話や聞き取りなどの訓練も有効になります。

耳小骨発育不全になりやすい人・予防の方法

耳小骨発育不全は、現時点ではなりやすい人が特定されていません。
予防方法も確立されていませんが、早期発見のために定期的な検診を欠かさず受けることが大切です。

特に、言語発達が正常よりも遅れている、呼びかけなどに反応しないなどの症状が見られる場合は、早めに耳鼻咽喉科に相談しましょう。
難聴の状態に気づかないまま放置すると、言葉の習得が難しくなるだけでなく、その後の生活に大きな支障が出る可能性があります。

気になる症状がある場合は、自己判断せずに専門医の診察を受けることが重要です。

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