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好酸球肺浸潤症候群
稲葉 龍之介

監修医師
稲葉 龍之介(医師)

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福井大学医学部医学科卒業。福井県済生会病院 臨床研修医、浜松医科大学医学部付属病院 内科専攻医、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員、磐田市立総合病院 呼吸器内科 医長などで経験を積む。現在は、聖隷三方原病院 呼吸器センター内科 医員。日本内科学会 総合内科専門医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本感染症学会 感染症専門医 、日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医。日本内科学会認定内科救急・ICLS講習会(JMECC)修了。多数傷病者への対応標準化トレーニングコース(標準コース)修了。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。身体障害者福祉法第15条第1項に規定する診断医師。

好酸球肺浸潤症候群の概要

好酸球肺浸潤症候群(Pulmonary infiltration of eosinophilia:PIE症候群)とは肺に好酸球浸潤を来す疾患群を指します。末梢血好酸球増多(白血球のうち6%以上あるいは400 /μL以上)を合併します。単純性肺好酸球症、急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎の3病型に分類されます。

好酸球肺浸潤症候群の原因

好酸球肺浸潤症候群の原因は不明であることが最多(77%)で、次いで真菌(19%)、寄生虫(22%)、薬剤(2%)が報告されています。

好酸球肺浸潤症候群の原因となる真菌

好酸球肺浸潤症候群の原因となる真菌にはコクシジオイデス、クリプトコッカスなどが挙げられます。 コクシジオイデスは曝露後7〜21日で市中肺炎として発症することが多い一方で、好酸球性肺炎を伴う例も報告されています。 クリプトコッカス感染症のなかでも播種性クリプトコッカス感染症では、肺および末梢血中好酸球増多が報告されています。

好酸球肺浸潤症候群の原因となる寄生虫

好酸球肺浸潤症候群の原因となる寄生虫にはヒトカイチュウ、豚回虫、ズビニ鉤虫、アメリカ鉤虫、肺吸虫、エキノコックス、有鉤条虫、旋毛虫、住血吸虫、糞線虫が挙げられます。

好酸球肺浸潤症候群の原因となる薬剤

好酸球肺浸潤症候群の原因となる薬剤としては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗菌薬(ダプトマイシン、ミノサイクリンなど)、メサラジン、スルファサラジンが代表的です。ほかには抗けいれん薬、抗うつ薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、β遮断薬、ヒドロクロロチアジド、その他のサルファ剤、放射線造影剤、L-トリプトファン、メトトレキサート、アロプリノール、アミオダロン、ブレオマイシン、ナルトレキソンが挙げられます。またIL-1阻害薬(アナキンラ)、IL-6阻害剤(トシリズマブ)、およびIL-4受容体拮抗薬(デュピルマブ)などの生物学的製剤も好酸球肺浸潤症候群との関連が示されています。

急性好酸球性肺炎の原因としての喫煙

急性好酸球性肺炎は電子タバコを含む喫煙の開始または再開が原因となることが多いと報告されています。

好酸球肺浸潤症候群の前兆や初期症状について

好酸球肺浸潤症候群を起こした原因や病型によりさまざまな症状を認めます。単純性肺好酸球症では症状は軽度であることが多い傾向にあります。急性好酸球性肺炎では乾性咳嗽、発熱、呼吸困難、喘鳴が急性に発症します。胸水を合併することも多く、胸痛をしばしば伴います。慢性好酸球性肺炎では咳嗽、発熱、呼吸困難、体重減少、喘鳴、寝汗などの症状を亜急性に認めることが多いとされます。また慢性好酸球性肺炎患者さんの50%で気管支喘息の合併を認めます。

薬剤による好酸球肺浸潤症候群の前兆や症状について

無症候性のこともあれば、呼吸困難、発熱、慢性咳嗽を認めることもあります。薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome/drug reaction with eosinophilia and systemic symptoms:DiHS/DRESS)を発症することもあり、その際には皮疹、発熱、顔面浮腫、リンパ節腫大が認められます。

好酸球肺浸潤症候群が心配なときには

好酸球肺浸潤群は非特異的でこそありますが、乾性咳嗽、呼吸困難、発熱、喘鳴などの呼吸器症状を認めることがあります。特に急性好酸球性肺炎であれば直近の喫煙開始・再開歴があり、慢性好酸球性肺炎であれば気管支喘息が併存していることがあります。これらに該当し好酸球肺浸潤群が心配な際には呼吸器内科の受診を検討してください。

好酸球肺浸潤症候群の検査・診断

急性好酸球性肺炎の検査・診断

好酸球肺浸潤群では末梢血好酸球増多(白血球のうち6%以上あるいは400 /μL以上)を合併しますが、発症早期の急性好酸球性肺炎では認められないことも多く、病状の進行とともに末梢血好酸球増多は顕在化してくることが多いとされます。血液検査ではTARC(Thymus and Activation-Regulated Chemokine)高値も認められます。

診断にあたっては、臨床所見、画像所見に加えて気管支肺胞洗浄液中の好酸球分画が25%を超えることと、感染症およびその他の疾患が除外されることが必要となります。そのため気管支鏡検査が行われます。病理学的に肺組織検体では好酸球浸潤、びまん性肺胞障害、硝子膜形成が認められます。

慢性好酸球性肺炎の検査・診断

急性好酸球性肺炎では胸水貯留を認めることが多いとされますが、慢性好酸球性肺炎においては少ないと報告されています。末梢血好酸球増多症を伴うことが多い傾向にありますが、 10~20%の患者さんでは認められません。 胸部X線写真での両肺末梢側優位の浸潤影が慢性好酸球性肺炎では特徴的ですが、1/3未満の患者さんでしか認められません。

診断にあたっては、臨床所見、画像所見に加えて末梢血好酸球増多(1000 /μL以上)または気管支肺胞洗浄液中の好酸球分画が40%を超えることと、感染症およびその他の疾患が除外されることが必要となります。そのため気管支鏡検査が行われます。病理学的に肺組織検体では好酸球浸潤が認められます。

好酸球肺浸潤症候群の原因となる真菌、寄生虫の検査・診断

コクシジオイデス症においてはコクシジオイデス特異的IgMおよびIgG測定が診断に有用とされますが、発症早期では偽陰性となることもあり注意が必要です。またコクシジオイデス症であっても喀痰や肺組織からコクシジオイデスを培養・同定することができない場合もあり特発性好酸球性肺炎との鑑別が困難な場合も認められます。

回虫症に対しては診断に有用な血清学的検査はありませんが、肺吸虫症、エキノコックス症、旋毛虫症、糞線虫症の診断ではそれぞれの寄生虫に対する血清特異抗体の検出が有用とされます。

好酸球肺浸潤症候群の治療

好酸球肺浸潤症候群の治療はその原因と病型によって異なります。コクシジオイデス症などの真菌が原因の場合には重症度、播種、合併症のリスクによって抗真菌薬投与や外科的切除術が検討されます。寄生虫が原因の場合には駆虫薬の投与が検討されます。

また好酸球肺浸潤症候群発症に特定の原因の存在が疑われる場合には、少なくとも気管支鏡検査や外科的肺生検が実施されるまでは副腎皮質ステロイドを投与しないことが推奨されます。生検前に副腎皮質ステロイドを投与することで肺組織への好酸球浸潤が抑制されてしまい、確定診断を得る機会が失われる可能性があるためです。ただし全身状態によっては経験的に副腎皮質ステロイドが投与されることもあります。

単純性肺好酸球症の治療

単純性肺好酸球症においては無治療でも2週間以内に軽快することが多いとされています。

急性好酸球性肺炎の治療

急性好酸球性肺炎においては副腎皮質ステロイドが投与されることが多く、そしてステロイドによる治療反応性は良好とされます。ただし急性好酸球肺炎の一部の患者さんでは副腎皮質ステロイドを投与せずとも自然軽快することも認められます。

慢性好酸球性肺炎の治療

慢性好酸球性肺炎に対しても副腎皮質ステロイドが投与されます。ステロイドによる治療反応性は良好ですが、漸減中や中止後に再燃することが多いため、6ヶ月以上の継続治療が必要とされます。副腎皮質ステロイド投与を終了することができず少量で長期投与される方も少なくありません。

薬剤による好酸球肺浸潤症候群の治療

薬剤による好酸球肺浸潤症候群の場合には原因薬剤の中止が行われます。しかし呼吸不全を呈したり好酸球増多症および薬剤性過敏症症候群(DiHS/DRESS)の場合には副腎皮質ステロイドの投与が行われます。

好酸球肺浸潤症候群になりやすい人・予防の方法

好酸球肺浸潤症候群の原因として真菌、寄生虫があるため、各真菌や寄生虫の流行地域での居住や旅行は発症リスクを高めると考えられます。そのため真菌、寄生虫による好酸球肺浸潤症候群の予防には生や加熱不十分な肉・海産物の接種を避けたりすることが必要と考えられます。

また該当薬剤を服用している方は薬剤による好酸球肺浸潤症候群の発症リスクがあるため、乾性咳嗽、呼吸困難、発熱、喘鳴などの呼吸器症状を認めた場合には主治医の先生と相談することで病状の悪化を予防できる可能性があります。また、薬剤の自己中断は原疾患の悪化を招くため行わないでください

急性好酸球性肺炎の発症と喫煙の開始・再開は関連性があると報告されているため、そのような方にはリスクがあります。急性好酸球肺炎の発症予防のためには喫煙しないことが重要となります。 慢性好酸球性肺炎は女性と非喫煙者に発症することが多いとされています。現時点で明確な予防法はありませんが、新規の呼吸器症状を認めた際に呼吸器内科を受診することで病状の悪化を予防できる可能性があります。

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