

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
目次 -INDEX-
睡眠時無呼吸症候群の概要
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、眠っている間に呼吸が止まったり、浅くなったりを繰り返す病気です。これにより体内の酸素が不足し、さまざまな健康リスクを引き起こす恐れがあります。 日本では約400〜500万人の患者がいると推定されています。しかしその多くが未診断のまま、あるいは適切な治療を受けずに過ごしているのが現状です。
睡眠時無呼吸症候群の影響で睡眠の質が低下し、夜間にしっかりと休息がとれなくなるため、日中に強い眠気や集中力の低下などの症状が現れることがあります。このような日中の症状は居眠り運転などの重大な事故につながるリスクがあるため、注意が必要です。 また、長期間にわたって治療せずに放置すると、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、さらには心筋梗塞や脳梗塞など重篤な病気の発症リスクが高まることも知られています。
睡眠時無呼吸症候群は、専門の医療機関で正しく診断し、症状に合わせた治療を継続することで、症状の改善や合併症の予防が期待できます。 家族から「寝ているときに大きないびきをかいている」「呼吸が止まっているように見える」といった指摘を受けたり、日中の強い眠気を感じることがあれば、早めに専門の医療機関を受診することが大切です。
睡眠時無呼吸症候群の原因
睡眠時無呼吸症候群は、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」と「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)」の2つのタイプに大別されます。 一般的に「睡眠時無呼吸症候群」と言うと、上気道(空気の通り道)がふさがることで起こる「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」を指すことが多いです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群
閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中にのどの奥が狭くなり、空気の流れが遮られてしまうことで無呼吸が生じます。
気道の閉塞が起こる要因は多岐にわたります。たとえば、肥満によって首まわりに多く脂肪がつくと、気道が狭まりやすくなります。また、生まれつき下あごが小さい人や、扁桃腺が大きい人など、体の構造的な特徴が関係している場合もあります。 さらに、加齢や飲酒、睡眠薬の使用などによって、のどまわりの筋肉がゆるむと、気道がふさがれやすくなります。
中枢性睡眠時無呼吸症候群
中枢性睡眠時無呼吸症候群は、脳から呼吸を指令する働きに障害が起こることで、実際には気道が開いていても呼吸が止まってしまうタイプです。 原因ははっきりとは解明されていませんが、心不全や脳卒中に伴って発症するケースが多いとされています。
睡眠時無呼吸症候群の前兆や初期症状について
睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状は、大きないびきと、睡眠中に呼吸が止まることです。 これらの睡眠中の症状は、本人が自覚しにくいため、同居する家族やパートナーから「いびきがひどい」「寝ている間に息が止まっていた」と指摘されて、初めて気づくケースも少なくありません。
また睡眠中だけでなく、日中起きている時間に症状が現れることもあります。具体的には、日中の強い眠気や集中力の低下、起床時の頭痛などが挙げられます。 ただし、こうした症状には個人差があり、はっきりとした自覚がないまま過ごしてしまう人もいます。
初期の段階では「最近よく目が覚める」程度の変化にとどまることもありますが、放っておくと症状は徐々に悪化し、身体への影響も深刻になります。 睡眠中に繰り返し呼吸が止まることで、体は低酸素状態になり、血圧が上がりやすくなります。また、血液がドロドロになって血栓ができやすくなるため、動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞といった命にかかわる病気のリスクも高まります。
こうした重篤な合併症を防ぐためにも、日常の体調の変化や、身近な人からの指摘を見逃さず、早めの受診と対策が大切です。
睡眠時無呼吸症候群の検査・診断
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まずは医療機関での問診と、簡易検査を行います。 日中の眠気の程度を評価するために、「エプワース眠気尺度(ESS)」と呼ばれる質問票が使われることもあります。
簡易検査としては、主に「フローセンサ法」または「パルスオキシメトリ法」という方法があります。いずれの検査も自宅で実施でき、患者の負担が少ないことが特徴です。 フローセンサ法では、鼻にセンサーをつけて睡眠中の呼吸の流れを測定し、無呼吸や低呼吸の有無を確認します。 パルスオキシメトリ法では、指先にセンサーを装着し、睡眠中の血中酸素の変化を調べます。
簡易検査の結果、睡眠時無呼吸症候群が強く疑われる場合には、「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)」という精密検査を実施します。 これは病院に1泊して行う検査で、頭や胸、足などに複数のセンサーを装着し、脳波、呼吸、心拍、筋肉の動き、酸素濃度などを一晩かけて詳しく記録します。
検査の結果、無呼吸(10秒以上呼吸が止まる状態)が、1時間あたり5回以上認められ、かつ日中の眠気などの自覚症状がある場合、または一晩の睡眠中に30回以上の無呼吸が確認された場合に、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
また、必要に応じてレントゲンやCTを使い、のどの奥やあごの形、気道の状態などを詳しく調べることもあります。さらに、高血圧や心臓病などの合併症が疑われる場合には、追加の検査が行われることもあります。
睡眠時無呼吸症候群の治療
睡眠時無呼吸症候群の治療の目的は、睡眠中に狭くなったり閉塞したりする上気道の空気の通り道を確保し、安定した呼吸を保つことです。
中等症以上と診断された場合、最も一般的に行われる治療が「CPAP(シーパップ)療法」です。これは、就寝時に鼻に専用のマスクを装着し、一定の圧力で空気を送り込むことで気道を広げ、無呼吸や低呼吸を防ぐ治療法です。
軽症〜中等症の方に対しては、就寝時にマウスピースの使用が検討されることもあります。マウスピースを装着することで、下あごを前に出すように固定し、気道を広げて無呼吸を防ぎます。
重症のケースや、他の治療法で十分な効果が得られない場合には、外科的治療として、のどの奥の組織を切除・縮小する手術が検討されることもあります。
また、これらの治療法と並行して、生活習慣の改善も非常に重要です。特に、肥満がある人は体重を減らすことで、気道の閉塞が軽減されることがあります。 その他、飲酒の制限や禁煙、仰向けではなく横向きで寝る姿勢を工夫することなども、症状の改善が期待されます。
睡眠時無呼吸症候群になりやすい人・予防の方法
睡眠時無呼吸症候群は、誰にでも起こりうる病気ですが、特になりやすい要因の一つが「肥満」です。また、首が太くて短い人や、あごが小さい人も、気道が塞がれやすいため注意が必要です。
また、睡眠時無呼吸症候群は男性に多い傾向があります。特に中高年の男性に多く見られるとされています。 なお、女性の場合は閉経後にリスクが高まることが知られています。
日常的にアルコールを多く摂取していたり、睡眠薬を使用している人も、睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言えます。
予防のためには、体重管理を含む日常生活の見直しが重要です。 減量することで気道の閉塞が軽減されやすくなり、睡眠時無呼吸症候群の予防や改善につながります。また、就寝前の飲酒を控えることや、睡眠薬の使用を必要最小限にとどめることも有効です。
睡眠時の姿勢も工夫が必要です。仰向けで寝ると舌がのどの奥に落ち込みやすくなるため、横向きで寝ることで気道の閉塞を防ぐことができます。 さらに、規則正しい生活リズムを心がけ、十分な睡眠時間を確保することも、質の良い睡眠と呼吸の安定につながります。
気になる症状がある場合は、早めに専門の医療機関を受診し、適切な検査・治療を受けるようにしましょう。
参考文献




