目次 -INDEX-

内転型痙攣性発声障害
小島 敬史

監修医師
小島 敬史(国立病院機構 栃木医療センター)

プロフィールをもっと見る
【経歴】
経歴
2006年3月 慶應義塾大学医学部医学科卒
2008年3月 佐野厚生総合病院 初期臨床研修修了
2008年4月 慶應義塾大学耳鼻咽喉科学教室所属
2013年9月 慶應義塾大学病院 助教として勤務
2018年8月 米国 ノースウェスタン大学耳鼻咽喉科で遺伝性難聴の基礎研究に従事
2021年5月〜 国立病院機構 栃木医療センター 耳鼻咽喉科医長 (現職)
【資格等】
日本耳鼻咽喉科学会専門医・指導医、日本耳科学会認定医、補聴器相談医、補聴器適合判定医
所属学会:日本耳鼻咽喉科学会、日本耳科学会、日本聴覚医学会、耳鼻咽喉科臨床学会

内転型痙攣性発声障害の概要

痙攣性発声障害とは、のどにある筋肉(喉頭筋)が痙攣のような異常運動をすることによって、声の詰まりや震えなどの症状をきたす原因不明の疾患です。
声帯(発生するための器官)そのものには異常がないことが多いため、耳鼻咽喉科医の診察でも診断がつかないことがあります。
痙攣性発声障害は、原因となる筋肉の部位により、内転型・外転型・混合型の3つに分類されます。

内転型痙攣性発声障害

甲状披裂筋、外側輪状披裂筋が関与するものであり、痙攣性発声障害のうち約80-95%を占めると言われています。

外転型痙攣性発声障害

後輪状披裂筋が関与するものであり、5-15%程度を占めると言われています。

混合型痙攣性発声障害

内転型と外転型の両者が混合するものであり、かなりまれであると言われています。

本項では、頻度の高い内転型痙攣性発声障害(adductor spasmodic dysphonia: ADSD)について、原因や症状、検査、治療の順に解説します。

内転型痙攣性発声障害の原因

内転型痙攣性発声障害の原因は、これまでの研究によると以下のような報告があり、大脳基底核の機能異常による局所性ジストニアと考えられています。

  • 頭部MRI検査での大脳基底核の梗塞と側脳室近傍の脱髄所見
  • 脳波検査での側頭葉および頭頂葉から誘導される波形の異常

しかしながら正確な原因は不明です。

*ジストニアとは:身体の筋肉が異常に緊張した結果、異常な姿勢・異常な運動を起こす状態のことを指します。

内転型痙攣性発声障害の前兆や初期症状について

内転型痙攣性発声障害の主な症状

内転型痙攣性発声障害では声を出そうとすると自分の意思とは関係無く、声帯が異常な動き方をすることで、発声障害を来します。
具体的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 声が詰まる
  • 声が途切れる
  • 声がふるえる
  • 声がかすれる
  • のど詰め声(声を出す際に喉を締めるような感覚で発声すること)
  • 強い力み発声(無理に声を出そうとすることによる)

一方で、外転型痙攣性発声障害の症状には、以下のようなものがあります。

  • 気息性嗄声(息漏れの多い声)
  • 声が出ない(失声)
  • 声が抜ける
  • 声が裏返る

内転型痙攣性発声障害に合併する症状

内転型痙攣性発声障害(ADSD)では、呼吸機能や嚥下機能など、声を出す(発生)以外ののどの機能は正常であることが多いです。
まれにまぶたのけいれん(眼瞼痙攣)や口・下顎・頸部などの不随意運動を合併することがあります。
そのほかに、声を出しにくいために他人との接触を避けたり、家に引きこもったりするなどのうつ症状を来すことがあります。

内転型痙攣性発声障害の病院探し

内転型痙攣性発声障害(ADSD)に限らず、声に異常を感じた際は、まずはお近くの耳鼻咽喉科を受診することをおすすめします。

内転型痙攣性発声障害の検査・診断

内転型痙攣性発声障害の診断は、問診・声の診察・のどの診察の3つで行います。

問診

自覚症状、発症期間、病因の有無、ほかのジストニア(眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸など)の合併、症状の悪化傾向などの確認を行います。

声の診察(音声所見)

持続母音発声や音読タスク、苦手な言葉の発声を記録し、低音・高音・大声発声での症状の変化を観察します。

のどの診察(喉頭所見)

ほかの病変がないことや、声を出した際の声帯の動きなどを観察します。
内転型痙攣性発声障害では発声に同期して声帯の強い内転があること、披裂部の過内転と前方移動、仮声帯の過内転、声帯・声門上部の律動的な震えをきたすことなどが特徴です。

内転型痙攣性発声障害の鑑別

過緊張性発声障害

のど(喉頭)やその周りの筋肉が過度に緊張することで発生します。
鑑別のポイントとして、過緊張性発声障害では音声治療(声の出し方の指導・訓練)により改善がみられやすい点があります。そのため、言語聴覚士による音声治療が第一選択となります。一方で、内転型痙攣性発声障害では音声治療の効果が乏しいのが特徴です。

本態性音声振戦症

本態性音声振戦症は、声を出す筋肉が律動的に痙攣することで起こります。
特徴としては、発声時に声が揺れたり(ワンワンとした響き)、鏡で確認すると口蓋垂(のどちんこ)が揺れることがあります。

鑑別のポイントとして、音声振戦は高音で話すと軽減する特徴があります。
治療は薬物療法(筋肉の震えを抑える)に音声治療(呼吸コントロールの練習)を併せて行います。

心因性発声障害

心因性発声障害は、ストレスや心理的要因が関連する発声障害です。
鑑別ポイントとして、感情の変化などの心理的要因で発症し、症状が消失・再発することが挙げられます。
治療には心理治療や音声治療が有効とされます。

内転型痙攣性発声障害の治療

内転型痙攣性発声障害の治療に関しては、残念ながら根本的治療法は存在しません。
音声治療(リハビリテーション)の効果は限定的であることが多く、その他には注射や手術などの外科的治療が選択肢となります。

注射による治療(ボツリヌストキシン注射)

世界的にはよく行われている治療法です。
ボツリヌス毒素を声帯内に注入し、神経筋接合部に作用して一時的に麻痺を起こすことで、症状を軽減します。
注意点として、効果が続くのは3~4ヶ月程度のため定期的な注射が必要であることと、日本では保険適用外であり、一部の施設でのみしか施行できないことがあります。
副作用として気息性嗄声と誤嚥がありますが、これらは数日ないし2週間で消失すると言われています。

手術(外科的治療)

いずれも注射による治療に比べると効果の持続は期待できますが、まだ長期での成績は不明である側面があります。

甲状披裂筋切除術

痙攣する筋組織を除去する手術です。口の中から行えるため、頸に傷が残りません。ただし、術後に嗄声(声のかすれ)が続く可能性があります。副作用として術後嗄声が3ヶ月から6ヶ月間継続することが報告されており、現在は脂肪やフィブリン糊などを充填する工夫が行われています。まだ長期成績は不明である側面があります。

甲状軟骨形成術Ⅱ型

声帯の過閉鎖を軽減する手術です。局所麻酔で施行できるため、手術中に効果を確認できること、声帯や神経を損傷することなく症状を改善できる特徴があります。

音声治療(リハビリテーション)

一般的に、音声治療は内転型痙攣性発声障害には効果がないとされますが、ボツリヌストキシン注射との併用で症状を軽減する可能性があると言われています。

内転型痙攣性発声障害になりやすい人・予防の方法

内転型痙攣性発声障害の発症には年齢や性別の特徴があります。
内転型痙攣性発声障害の年齢では、20歳から30歳代および60歳から70歳代に多いと報告されています。
内転型痙攣性発声障害の性別では、女性に多く発症するとされています。
内転型痙攣性発声障害の発症頻度については、海外では人口10万人あたり1人と報告されており、日本の調査でも同様に約1人(0.94人)とされています。これをもとに推計すると、日本全国でおよそ1,200人の患者さんがいると考えられます。

関連する病気

  • 喉頭ジストニア
  • 本態性振戦
  • パーキンソン病
  • 機能性発声障害
  • 甲状腺腫瘍

この記事の監修医師