

監修医師:
五藤 良将(医師)
咽頭異物の概要
咽頭異物(いんとういぶつ)は、飲み込んだものが咽頭(食道や気管支に分かれる前の部分)に引っかかり、違和感や痛みを引き起こす症状です。
日本国内で「異物」としてもっとも一般的な原因は、魚の骨が知られています。その他のもの、たとえば薬の包装シート、入れ歯、おもちゃ、コインなども咽頭異物につながることがあります。
咽頭異物はあらゆる年齢層で発症する可能性がありますが、嚥下機能(ものを飲み込む力)が低下している高齢者や、食べ物以外のものを口にしてしまいやすい幼児で特に発症リスクが高いとされています。
摘出が必要な異物が食道や気道まで到達した場合は「食道異物」や「気道異物」と呼ばれることもあります。
咽頭異物で異物が引っかかりやすい場所は、喉の扁桃腺や舌根扁桃(舌の奥)、下咽頭(食道の手前)などです。
喉に異物が引っかかったまま食事をすると、違和感や痛みが持続する可能性があります。
さらに深刻な場合、喉の粘膜が傷つき、出血や膿、腫れが生じることもあります。
咽頭異物の症状が自然に消失しない場合は、適切な検査や治療が必要になります。
原因の異物が口の中から見える場合は、直接ピンセットなどで除去することが可能です。
しかし、異物が見えない場合や深部に位置している場合は、内視鏡カメラなどで状態を確かめながら異物を除去することもあります。
異物が自然に咽頭を離れた場合でも、飲み込んだ異物の種類(電池類など)や到達した場所によっては、その後も医療処置が必要となるケースがあります。
咽頭異物は早期発見と適切な処置が重要であり、症状が持続する場合は速やかに耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。
適切な診断と治療により、合併症のリスクを抑え、迅速な回復が期待できます。

咽頭異物の原因
咽頭異物の主な原因は、異物を誤って飲み込むことです。
日本では食生活の特性から、魚の骨が最も一般的な原因として知られています。魚の骨の誤飲はすべての年齢層で発生しています。
高齢者の場合、薬の包装に使用されるPTPシートや入れ歯が咽頭異物の原因となることが多いです。
一方、子どもでは小さなおもちゃ、コイン、ボタン電池、たばこなどが原因となる例が知られています。
高齢者は嚥下機能が低下していること、子どもは食べ物と異物の区別がつきにくいことから、咽頭異物のリスクがより高くなると考えられています。
咽頭異物の前兆や初期症状について
咽頭異物の初期症状は、異物が喉に引っかかることによる違和感から始まります。
喉の違和感は、異物の大きさや形状によって程度がさまざまです。
そのまま食事を続けると、食べ物が喉を通過するたびにより強い違和感や痛みを感じるようになります。
異物によって喉の粘膜が傷つくと、出血したり、膿が溜まったりして、頸部膿瘍や縦隔炎(じゅうかくえん)が合併することがあります。
さらに症状が進行すると、喉が腫れて呼吸苦が生じることもあります。
症状の程度は異物の種類や位置などによっても異なりますが、自然に異物がなくならなければ、できるだけ早く適切な処置を受けることが推奨されます。
また、咽頭異物による症状がおさまった場合でも、飲み込んだ異物の種類が危険なもの(特に小児における電池類やタバコなど)である場合は、他の重篤な障害を招く恐れがあります。そうしたケースでは、緊急で医療機関を受診すべきです。
同様に異物が気道(気管支や肺)に進んだ場合も、重篤な障害の恐れがあります。
なお、異物の種類によっては、胃の中に飲み込んでしまっても健康上の問題はなく、自然に排出が期待できるものもあります。心配な場合は、自己判断せずに医療機関に相談するとよいでしょう。
咽頭異物の検査・診断
咽頭異物の診断は、問診や視診、画像検査などを組み合わせておこなわれます。
問診では何を食べて喉に引っかかったのか、いつ頃から症状が出始めたのかなど、詳細な状況を聴取します。
視診では、直接口から喉の状態を観察します。
この段階で異物が確認できれば、すぐに除去することも可能です。
しかし、視診で異物の存在が確認できない場合は、さらに詳しい検査が必要になります。
一般的には内視鏡検査やCT検査が用いられます。
内視鏡検査では、喉頭ファイバースコープという細長い内視鏡を使用して異物を直接観察できます。
CT検査は痛みがより強い場合に適用されることが多く、異物の正確な位置や大きさ、周囲の組織への影響を評価するのに向いています。
これらの検査を組み合わせることで、咽頭異物の診断ができ、適切な治療方針の決定に役立ちます。
咽頭異物の治療
咽頭異物の治療は、症状が持続する場合に耳鼻咽喉科でおこなわれます。
異物が口から見える場合は、ピンセットなどの器具を使用して直接除去することが可能です。
しかし、異物を飲み込んでから時間が経過していたり、喉が腫れて異物の位置を特定しにくかったりする場合は、より高度な処置が必要となります。
このような状況では、喉頭ファイバースコープを喉に挿入し、異物の正確な位置を直接確認しながら、先端に付いた鉗子で安全に異物を摘出します。
喉頭ファイバースコープによる治療は、目視では困難な位置に引っかかっている異物や、複雑な位置に刺さった魚の骨などの除去に特に有効です。
早期の受診と適切な処置により、合併症のリスクをできる限り抑えられます。
咽頭異物になりやすい人・予防の方法
咽頭異物になりやすい人は、「嚥下能力が低下している高齢者」「異物を口に運んでしまいやすい乳幼児」「病気や治療の影響で嚥下能力や咀嚼能力に影響が出ている人」などですが、不注意にものを飲み込むなどすると、誰でも発症する可能性があります。
また、骨の多い魚や骨付き肉などを好んで食べる人も、注意が必要といえます。
予防する方法としては「食品の調理や提供方法の工夫」「咀嚼習慣」「異物になりやすい日用品への注意」などが挙げられます。
調理者は、魚の小骨などを取り除くか細かくする、食べやすく取り除きやすい形態で提供する、といった工夫が可能です。高齢者や子どもに限らず、よく噛んでから少量ずつ飲み込む食習慣は、誤飲や誤嚥を防げるだけでなく、消化吸収の助けにもなるメリットがあります。
高齢者や乳幼児の身の回りに、誤って飲み込むようなものを置かないことも大切です。高齢者の介護や乳幼児の世話をする人には、どのようなものが異物になり得るか、注意しておくことが求められます。
上記のような予防策を適切におこなえば、咽頭異物の発症リスクを下げることができます。
万が一、異物を誤って飲み込んでしまった場合は、違和感を感じた段階で吐き出す(吐き出させる)ことで、咽頭異物を回避できる可能性があります。
ただし、吐き出すのが難しく、自然に異物が取れない場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが推奨されます。
なお、「魚の骨がささったら丸めたご飯を飲み込む」といった対処法は、かえって骨が喉に深く刺さる可能性がある危険性などが指摘されており、咽頭異物の対処としては推奨できません。
関連する病気
- 頸部膿瘍
- 縦隔炎
- 食道異物
- 誤嚥性肺炎




