目次 -INDEX-

鰓耳腎症候群
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

鰓耳腎症候群の概要

鰓耳腎症候群(さいじじんしょうこうぐん)は、耳や腎臓、首に特徴的な異常があらわれる先天性の遺伝性疾患です。BOR症候群と呼ばれることもあります。

鰓耳腎症候群の症状としては、「難聴」や「腎機能の低下」があげられます。また、耳や首に「瘻孔(ろうこう)」とよばれる小さな穴がみられるケースが多いのがこの疾患の特徴です。
これらの症状は、出生時から確認される場合が多いですが、症状のあらわれ方や重症度には個人差があり、軽度な場合は診断が遅れることもあります。

鰓耳腎症候群の原因は、特定の遺伝子の異常です。
この遺伝子異常は、両親のいずれかから受け継がれることもあれば、突然変異で発生することもあります。鰓耳腎症候群は、厚生労働省の指定難病のひとつとして認定されています。

まれな疾患であり、2010年時点で日本国内の患者数は約250人と推定されています。

現在のところ、鰓耳腎症候群を根治させるような治療法はなく、治療は症状に応じた対症療法が基本となります。聴力の低下や腎障害への適切な管理や治療を行うことで、健常な人と変わらない日常生活を送ることができると考えられています。

出典:公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター 鰓耳腎症候群(指定難病190)

鰓耳腎症候群の原因

鰓耳腎症候群の原因は、特定の遺伝子の異常です。現在までに、鰓耳腎症候群の発症に関与する主な遺伝子として「EYA1」および「SIX1」という遺伝子が報告されています。これらの遺伝子は、耳や腎臓の形を形成する働きに関わっていることまでは判明しています。

また、これらの遺伝子は常染色体顕性遺伝(優性遺伝) であることも判明しており、家族歴が発症リスクに関与することがわかっています。

ただし、鰓耳腎症候群の原因がすべて特定されているわけではなく、患者の約半数では原因遺伝子が不明となっています。

鰓耳腎症候群の前兆や初期症状について

鰓耳腎症候群の症状で最も多いのは「難聴」です。生まれたときから耳の形状の異常や聴力の低下がみられることが一般的です。そのため、生後すぐに実施される「新生児聴覚スクリーニング検査」で気づかれることも多いですが、軽症の場合には、健康診断などの聴力検査で見つかることもあります。

難聴の種類(感音難聴、伝音難聴、混合性難聴)や程度もさまざまですが、中等度の難聴がもっとも多くみられます。
さらに、大半の患者の耳部分に「瘻孔(ろうこう)」とよばれる小さな穴がみられます。瘻孔は首にみられることもあり、見た目の異常にとどまらず、感染を繰り返すリスクもあるため注意が必要です。

鰓耳腎症候群において、難聴以上に問題となりやすいのが「腎機能の低下」です。腎臓の異常の程度はさまざまですが、最も多いのは、腎臓が生まれつき小さく機能が低下している「腎低形成」です。
このほか、2個あるうちの1個だけしか腎臓がない「片側腎無形成」や、尿の流れが悪い「水腎症」、生まれつき腎臓に嚢胞とよばれる袋状が多数できて十分に機能しない「多嚢胞性異形成腎」などが報告されています。

一方で、症状が難聴のみで腎臓に異常が全くみられない場合もあります。

鰓耳腎症候群の検査・診断

鰓耳腎症候群は、身体的な特徴、聴力検査、血液検査、尿検査、家族歴などから、総合的に診断されます。

耳の形状の異常や、耳や首の瘻孔(ろうこう)がみられた場合、聴力検査によって難聴の程度を調べます。また、腎臓の状態を確認するために超音波検査や尿検査、血液検査が行われます。

遺伝子検査は、鰓耳腎症候群の確定診断において重要な役割を果たします。特定の遺伝子の変異が見つかれば、鰓耳腎症候群であることが確定されます。
ただし、原因遺伝子が特定できない場合でも、臨床症状をもとに鰓耳腎症候群と診断されることもあります。

鰓耳腎症候群の治療

鰓耳腎症候群の治療は、症状に応じた対症療法が行われます。

難聴に対しては、難聴の種類や程度などに応じて、補聴器や人工内耳、人工中耳などが使用され、必要に応じて言語療法も行われます。耳の形状の異常によって伝音難聴が生じている場合には、手術が検討されるケースもあります。

聴力の低下は早期の治療介入により、患者の言語発達などを補助できることが知られています
首や耳の瘻孔に対しては、細菌感染などを防ぐ治療が重要です。感染を繰り返す場合には、瘻孔を取り除く手術が行われます。

腎臓に障害がある場合も、薬物療法などの対症療法が基本となりますが、外科的手術が検討されるケースもあります。腎臓の障害が進行し、腎不全になった場合には透析や腎移植が必要になります。また、日常生活においては、腎機能維持のために食事や栄養面に気を配ることが推奨されます。
現在までに、鰓耳腎症候群に対する根本的な治療法はありません。しかし、早期から適切な治療を受けることにより、健常な人と変わらない日常生活を送ることができるとされています。

鰓耳腎症候群になりやすい人・予防の方法

鰓耳腎症候群は遺伝性疾患で、常染色体優性遺伝の形式で遺伝します。そのため、両親のいずれかが鰓耳腎症候群の場合に、子どもが発症する確率は約50%と推定されます。ただし、両親のどちらにも症状がない場合でも、遺伝子の突然変異により発症することもあります。発症には男女差はないと考えられています。

遺伝性疾患のため、特定の予防策によって発症を予防することは難しいですが、早期の診断と適切な医療介入により、良好な予後も期待できる疾患です。

関連する病気

  • 耳瘻孔
  • 頸瘻孔
  • 聴覚障害
  • 第一第二鰓弓症候群(ヘミフェイシャルマイクロソミア)
  • Townes-Brocks症候群(タウンズブロックス症候群)
  • Branchio-oculo-facial症候群(鰓眼顔症候群)
  • Oto-facio-cervical症候群
  • チャージ症候群
  • HDR症候群

この記事の監修医師