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肺動脈狭窄
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

肺動脈狭窄の概要

肺動脈狭窄(Pulmonary stenosis:PS)とは、心臓から肺へと血液を送る肺動脈の一部が狭くなる状態を指します。
肺動脈狭窄は、肺動脈弁そのもの、または右心室流出路の筋性部分(漏斗部)の2か所で主に起こり得ます。これらの部位は単独で、または組み合わせで狭窄を起こすことがあります。
全身から戻ってきた血液は、心臓の右心房から右心室、そして肺動脈へと流れますが、肺動脈狭窄の場合は、狭窄部分で血液の流れが妨げられます。その結果、右心室は狭い出口に向かって血液を押し出さなければならないため、より強い力が必要となり、負担がかかります。

肺動脈狭窄は、多くの場合、生まれつきの心臓の構造異常(先天性心疾患)が原因で起こります。先天性心疾患の中では多くみられる傾向にあり、全体の約10%を占めています。狭窄の程度はさまざまで、軽度から重度まで幅広く、症状や治療方針も異なります。

肺動脈狭窄の原因

肺動脈狭窄の原因は、主に先天的なものです。胎児期の心臓形成の過程で、肺動脈弁やその周辺が正常に発達せず狭くなることで発症します。肺動脈狭窄の発症には、主に以下の3つの要因が関わっていると考えられています。

  • 遺伝的要因
  • 家族性
  • 環境要因

遺伝的要因

肺動脈狭窄症の患者さんのうち、15~20%で何らかの遺伝子変異が見つかっています。特に多く見られるのがNOTCH1遺伝子の変異で、患者さんの7〜9%に認められます。次いでJAG1遺伝子の変異が4~6%の割合で確認されています。これら2つの遺伝子変異が同時に見られるケースは少なく、100人に1人にも満たない(1%未満)とされています。
また、ほかにもPTPN11遺伝子が肺動脈狭窄に関連していることもわかっており、患者さんの2〜3%に認められます。PTPN11遺伝子の変異は、ヌーナン症候群という遺伝性疾患の一部として肺動脈狭窄症を引き起こします。

家族性

肺動脈狭窄症には家族性の傾向が見られます。特に、患者さんの両親や兄弟姉妹、子どもなどの第一度近親者は、一般の方と比べて4~8倍発症する可能性が高くなります。

環境要因

胎児期の心臓発達には、母体の健康状態や外的な環境が影響します。心臓が形成される時期である妊娠初期、特に妊娠4週から8週目には、外部からの影響を受けやすい状態にあります。主な環境要因として以下のものが挙げられます。

  • 妊娠中の母体の感染症(特にウイルス感染)
  • 母体の栄養状態
  • 母体の高熱(38.5度以上が24時間以上続く場合)

特に妊娠4週から8週目の時期に母体が高熱(38.5度を超える熱)が丸1日以上続くと、赤ちゃんが肺動脈狭窄症を発症する可能性が通常の2.5倍ほどに高まることが分かっています。

肺動脈狭窄の前兆や初期症状について

肺動脈狭窄の症状は狭窄の程度によって大きく異なります。

軽度の場合、多くの患者さんは日常生活に支障をきたすような症状を感じません。健診などで心臓の雑音を指摘されて、初めて見つかることもあります。ただし、激しい運動をしたときのみに軽い息切れや疲れやすさを感じることがあります。

中等度になると、階段の上り下りや少し早歩きした程度の運動で息切れを感じたり、疲れやすくなったりすることがあります。これは、狭窄によって心臓に負担がかかり、十分な血液を肺に送れなくなるためです。

重度になると、安静時でも息苦しさを感じたり、チアノーゼ(血液中の酸素不足によって皮膚や唇が青紫色になる状態)がみられたりすることがあります。その他、失神(意識消失)、胸痛、足のむくみなどが生じることもあります。乳幼児では、哺乳不良(ミルクの飲みが悪い)や体重増加不良として現れることもあります。

受診すべき診療科目

お子さんの場合、哺乳の様子がおかしいと感じたり、乳幼児健診や学校健診で心雑音を指摘されたりしたときには、まずは小児科医に相談しましょう。
大人の場合、健康診断で心雑音を指摘されたり、息切れ、動悸、胸の痛みなどの症状を自覚したりする場合は、循環器内科を受診しましょう。
肺動脈狭窄と診断された場合、あるいは専門的な検査や治療が必要と判断された場合は、循環器専門医や小児循環器専門医のいる病院(小児循環器科、循環器内科)を紹介されます。

肺動脈狭窄の検査・診断

診断は複数の検査を組み合わせて総合的に行われます。
聴診では、聴診器で心臓の音を聞き、雑音の有無や特徴を確認します。肺動脈狭窄では、特徴的な心雑音(収縮期駆出性雑音)が確認されます。

心臓超音波検査(心エコー検査)では、超音波を使って心臓の構造や動きを観察します。肺動脈の狭窄の場所や程度、心臓の各部屋の大きさ、心臓の収縮力などを評価できるため、重要な検査の一つです。

心電図検査では、右室肥大の程度を評価します。V1誘導でのR波高の増高や、右軸偏位などの特徴的な変化を確認します。

胸部X線検査では、胸部のレントゲン写真を撮影し、心臓の大きさや形、肺の血管の状態などを確認します。

必要に応じて心臓カテーテル検査を行い、狭窄の直接的な評価を行います。細い管(カテーテル)を腕や足の血管から心臓まで挿入し、肺動脈や右心室の圧力を測定したり、造影剤を注入して肺動脈の形を詳しく調べたりします。

肺動脈狭窄の治療

肺動脈狭窄の治療方針は、狭窄の程度、患者さんの年齢、症状などを総合的に考慮して決定します。
軽度の場合は、特に治療を必要とせず、定期的な検査で経過を観察することがあります。
中等度から重度の場合は、心臓への負担を軽減し、症状を改善するために、カテーテル治療または外科手術が必要となることがあります。

カテーテル治療(バルーン肺動脈形成術)

中等度から重度の肺動脈狭窄症で、心臓への負担が大きい場合や症状がある患者さんには、カテーテル治療が検討されます。足の付け根などの血管からカテーテルを挿入し、肺動脈の狭窄部位まで進めます。そして、カテーテルの先端についたバルーン(風船)を狭窄部で膨らませて、血管を内側から広げます。カテーテル治療は、手術に比べて身体への負担が少なく、入院期間も短いという利点があります。なお、狭窄の場所や形によっては、カテーテル治療が適さず手術が必要となる場合があります。

外科手術

カテーテル治療が難しい場合や効果が不十分な場合には、外科手術が必要になります。手術の方法は、狭窄の場所や程度によって異なりますが、主なものとして以下の2つがあります。

肺動脈弁交連切開術
肺動脈弁が癒着して狭くなっている場合に、癒着部分を切開して弁の開きを改善する手術です。
肺動脈形成術
肺動脈弁やその周辺の組織を形成し、血流を改善する手術です。弁の形を整えたり、狭窄部位を広げたりします。

治療後の注意点

カテーテル治療、外科手術のいずれの場合も、治療後に狭窄が少し残ることがあります。これは、狭窄を完全に解除しようとすると、肺動脈弁の逆流(血液が心臓に戻ってしまうこと)が起こってしまう可能性があるためです。医師は、狭窄の解除と逆流の発生のバランスを考慮して治療を行います。

治療後は、定期的な検査(心エコー検査など)を受け、再狭窄や弁の逆流の有無、心臓の機能などを確認することが重要です。特に小児期に治療を受けた場合は、成長に伴って再狭窄が起こる可能性があるため、長期的な経過観察が必要です。

肺動脈狭窄になりやすい人・予防の方法

肺動脈狭窄はほとんどの場合、生まれつきの病気であるため、明確な予防法はありません。ただし、以下のような要因が発症リスクを高めることが分かっています。

  • 遺伝的要因(特定の遺伝子変異を持つ場合)
  • 妊娠中の母体の感染症(特にウイルス感染)
  • 胎児期における母体の高熱(38.5度以上が24時間以上継続)
  • 家族歴(第一度近親者に患者さんがいる場合、発症リスクが4~8倍)

肺動脈狭窄は、早期に発見し、適切な治療を行うことで、多くの方が良好な経過をたどり、日常生活を送ることができます。気になる症状がある場合や、健康診断で異常を指摘された場合は、ためらわずに医療機関を受診しましょう。

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