

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
難治性喘息の概要
喘息とは、気管支が慢性的な炎症を繰り返すことで、空気の通り道が狭くなり、ヒューヒュー、ゼーゼーといった喘鳴(ぜんめい)と呼ばれる呼吸音を生じ、激しい咳や呼吸困難を伴う病気です。
病名に付く「難治性」、あるいは治療抵抗性とも言いますが、これは一定期間にわたって標準的な治療を施しても病気が改善しない状態のことを指します。
すなわち「難治性喘息」とは、一般的な治療を行っているにもかかわらず、その症状を十分にコントロールできない喘息のことで、重症喘息とも呼ばれます。
難治性喘息について、2014年に米国胸部学会と欧州呼吸器学会が共同でその定義を発表しました。
その定義は「高用量の吸入ステロイド薬に加え、その他の長期管理薬および/または経口ステロイド薬による治療を要する喘息、あるいはこれらの治療にもかかわらずコントロール不良である喘息」となっています。
この定義を下敷きに、日本においても難治性喘息と重症喘息を同義とみなし、一般社団法人日本呼吸器学会によるガイドラインでは以下の2点を満たす場合に難治性喘息と判断されます。
1.コントロールに高用量吸入ステロイド薬(ICS)および長時間作用性β2刺激薬(LABA)、必要に応じてロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン徐放製剤(SRT)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)、経口ステロイド薬(OCS)、生物学的製剤の投与を要する喘息、またはこれらの治療でもコントロール不良な喘息
2.コントロール不良にさせる因子に十分対応するにもかかわらず、なおコントロール不良であるか、治療を減少させると悪化する喘息
軽症例まで含めると、日本国内の人口のうち10%ほどが喘息の症状を持ったことがあると推定されており、そのうちの5%ほどは重症喘息であると考えられています。
このことから、喘息患者さんの中において重症喘息は必ずしも珍しくはないと言えるでしょう。
難治性喘息の原因
喘息は、その病態によって大きく2つのタイプに分類されます。1つは、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)や、好酸球などから放出される2型サイトカインが関与するType2喘息です。もう1つは、これらの2型炎症以外のメカニズムによって引き起こされる喘息です。代表的なアレルゲンはダニやハウスダスト、動物、花粉、食物などです。
2型サイトカインの関与が乏しい喘息の主な原因としては、たばこやストレス、過労、風邪などの感染症、運動、大気汚染、気温や天候の変化などが挙げられます。
特に、以下に挙げる因子は喘息の難治化の要因と考えられています。
- AERD(アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬が原因で起こる喘息)の合併
- 肥満
- 副鼻腔炎
- 非アトピー型喘息
- 真菌に対して抗体ができる(感作)
- 職業性因子
- 喫煙
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核後遺症の合併
- 持続性アレルゲン曝露(ペットや職業上のもの)
難治性喘息の前兆や初期症状について
咳や痰は多くの病気で見られる症状ですが、一般的に風邪などの感染症による咳は長くても2〜3週間でおさまると言われています。
喘息に特徴的な「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴が現れたり、咳が8週間以上続いたりする場合は喘息の疑いがあります。
特に夜間や早朝で症状が出やすい、呼吸困難になるような激しい咳が続く、アレルギー体質である、といった場合も喘息の可能性を疑います。
慢性的な咳は感染症以外の病気が原因であることが多く、喘息のほかにもCOPDや心臓の疾患、後鼻漏などの病気の可能性があります。
適切な治療を受けるためにも、喘息が疑われる場合は内科、呼吸器内科、アレルギー科といった診療科を受診してください。
難治性喘息の検査・診断
難治性喘息の診断にあたっては、ほかの病気との区別のためにも問診が重要となります。
問診では以下のような内容をヒアリングします。喘息の疑いで受診される際は、これらの情報をまとめておき、医師に伝えることをおすすめします。
症状について
- 症状の種類(せき、たん、胸苦しさ、息切れ、ゼーゼーヒューヒューするぜん鳴の有無、発作など)
- いつから(○週間、○日前から)
- どのくらい症状が出るか(週に○回くらい)
- どんなときに症状が出るか(寝ているとき、運動したときなど)
- 症状の程度(例:横になっていられない、しゃべれない)
- 繰り返しの有無(以前にも同じようなことがあったかどうか)
合併症について
- 現在、ほかの病気があるか
- ほかの病気を疑うような症状があるか
- 服用している薬があるか、あればどのようなものか
家族歴について
- 祖父母、両親、兄弟にアレルギーを持つ人はいるか
生活環境について
- 自分、もしくは家族が喫煙しているか
- ペットを飼っているか など
問診に加え、確定診断のために検査を行います。
主な検査項目には次のようなものがあります。
アレルギーの有無の検査
血液検査(好酸球数、総IgE値、抗原特異的IgE抗体)
Type2型の喘息では喘息患者さんの血液中における好酸球数が高くなることがあります。高いと判断される基準は一般的に4%以上、または300個/㎟以上です。
総IgE値はアレルギー反応の程度の目安となります。その基準は一般的に200IU/mL以上で高いと判定されます。
抗原特異的IgE抗体はアレルギーの原因が何かを調べるための項目です。
気道の広さを調べる検査
呼吸機能検査
気道がどのくらい狭くなっているかを数値化する検査です。
気道可逆性テスト
気道を広げる薬を吸入し、吸入前後で気道が広がるか(可逆性があるか)を調べます。気道の可逆性は喘息の特徴であるため、ほかの病気との区別のために用いられます。
呼吸抵抗測定
気道がどのくらい狭くなっているかを調べるための検査で、呼吸機能検査では検出できないような細い気道の状態の把握が期待できます。
気道の炎症の状態を調べる検査
喀痰(かくたん)検査
痰に混じった細胞を顕微鏡で調べる検査です。痰の中に好酸球や気管支の細胞が多いと喘息の目安になります。
呼気NO(一酸化炭素)検査
好酸球による炎症が起きていると、体内で一酸化窒素の量が多くなります。この値は喘息以外の病気でも上昇することがあり、検査結果の解釈については医師の意見をよく聞いてください。
気道が刺激に対して、どの程度敏感になっているかを調べる検査
気道過敏性テスト
気道を刺激する薬剤を吸入したとき、その薬剤に反応して気道が狭くなるかを調べます。
反応の度合いで重症度や治療の効果を確認します。
その他の検査
胸部X線検査、胸部CT検査、心電図検査
これらの検査はほかの病気との鑑別にも役立ちます。
難治性喘息の治療
難治性喘息に対する標準的な治療としては、複数の薬剤を組み合わせて治療を行います。具体的には以下のものとなります。
- 高用量吸入ステロイド薬(ICS)
- 長時間作用性β2刺激薬(LABA)
- ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
- テオフィリン徐放製剤(SRT)
- 長時間作用型抗コリン薬(LAMA)
- 経口ステロイド薬(OCS)
上記の標準治療でも喘息の症状のコントロールが難しい場合には生物学的製剤を導入することで、今までは困難とされた喘息のコントロールが得られるようになりました。現在日本で喘息に対して使用できる生物学的製剤は、抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、抗IL-5受容体α抗体(ベンラリズマブ)、抗IL-4受容体α抗体(デュピルマブ)、ヒト抗TSLPモノクローナル抗体(テゼペルマブ)があります。どの生物学的製剤を使用するかは、患者さんの喘息のタイプや精密検査の結果を総合的に判断して決める必要があるため、主治医の先生に相談してください。
そのほかにも、きちんと薬を飲んでいるかの確認や患者さんの治療に対する姿勢の確認(アドヒアランス)を行うほか、薬剤ごとに正しい吸入方法が取られているかのチェック、ならびに喘息の原因となる物質やストレスを遠ざけるという予防策を講じることも重要です。
難治性喘息になりやすい人・予防の方法
「原因」の項目でも触れているように、アレルギー因子を持つ方、またストレスや過労などの影響が強い方は喘息になりやすいと言えます。
また、肥満の方は喘息が重症化、難治化するという報告があります。肥満体形による肺機能への直接的な圧迫のほか、脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン(アディポカイン)という物質が慢性的かつ持続的な炎症をもたらし、喘息の発症や難治化に関わっているとされています。
したがって、予防のためにはアレルゲンやストレスを避けることのほかに、肥満の方であれば減量を行うことも有効な予防策です。
関連する病気
- 好酸球性肺炎
- 慢性閉塞性肺疾患
- アスピリン喘息
参考文献




