

監修医師:
長友 孝文(医師)
深頸部膿瘍の概要
深頸部膿瘍(しんけいぶのうよう)は、首の奥深いところに位置する「間隙(かんげき)」という空間に膿がたまった状態です。
深頸部膿瘍の主な症状としては、発熱、首や喉の腫れ、痛みなどが挙げられますが、症状が乏しいケースも珍しくありません。
症状が進行すると、口が開きにくくなったり呼吸困難をきたしたりする場合もあります。 小児の場合では、重症度がわかりにくいケースも多く「食事をうまく飲み込めない」「首を動かしづらい」など、通常とは異なる様子が深頸部膿瘍のサインである場合もあります。
深頸部膿瘍の主な原因は、のどの炎症や歯の疾患です。 のどの炎症をきたす風邪やインフルエンザなどの感染症やむし歯、歯周病などの疾患、糖尿病や抗がん剤治療などによって免疫力が低下した状態(易感染状態)では深頸部膿瘍を発症するリスクが高まると言われています。
深頸部膿瘍の予防には、手洗いうがいなどの感染予防をはじめ、口腔ケアによる衛生状態の維持や規則的な生活習慣への取り組みが効果的です。
深頸部膿瘍の主な治療法は、抗菌薬の投与と切開排膿(膿のたまった部位を切開して膿瘍を排出する)です。
膿が広範囲に広がっていたり頸動脈の近くに形成されていたりする場合では、合併症をきたす可能性が高まるため、緊急手術が必要となる場合もあります。
深頸部膿瘍の原因
深頸部膿瘍を発症する主な原因には、咽頭炎(いんとうえん)や喉頭炎(こうとうえん)、唾液腺炎(だえきせんえん)、扁桃炎(へんとうえん)、リンパ節炎、う歯(むし歯)や歯周病などの歯科疾患、異物や外傷による感染、先天性疾患の下咽頭梨状窩瘻(かいんとうりじょうかろう)などが挙げられます。
深頸部膿瘍の主な原因は、大人と子どもで異なります。 小児ではリンパ節炎由来の発症が7割を占めますが、大人では咽頭炎や喉頭炎、う歯が全体の7割を占めるという報告があります。
小児ではリンパ節が大人よりも発達していて膿瘍が作られやすいため、リンパ節炎による発症が多く、大人では炎症が間隙(首の筋肉や血管、神経などを包む膜で囲まれた空間)に直接広がり、深頸部膿瘍を発症するケースが多いと言われています。
深頸部膿瘍の前兆や初期症状について
深頸部膿瘍ではさまざまな症状がみられます。 主な症状としては、発熱、首や喉の腫れ、痛みなどが挙げられます。
膿瘍が広範囲におよぶと、口が開きにくくなったり、息苦しさや呼吸困難をきたしたりする場合もあります。
また、症状の進行により敗血症(はいけつしょう)や多臓器不全をきたした場合は、血圧低下や頻脈などの症状がみられるケースもあります。
呼吸困難に陥っている場合や敗血症、多臓器不全が疑われる場合は、早急な治療が必要です。
小児の深頸部膿瘍では、症状の乏しいケースが珍しくありません。 小児は症状を上手に伝えられず、重症度がわかりにくいケースも多く、食事をうまく飲み込めなかったり、首を動かしにくくなったりするなどの通常とは異なる様子がないかを、慎重に観察することが重要です。 様子がおかしい場合や、違和感がある場合は、すみやかにかかりつけの小児科や救急医療センターを受診しましょう。
深頸部膿瘍の検査・診断
深頸部膿瘍の検査では、触診や視診、内視鏡、血液検査、画像検査(CT、MRI、超音波検査など)、細菌培養検査などがおこなわれます。
触診では、腫れや痛みがある場所を確認します。 縦隔(両側の肺に囲まれた心臓や大動脈などが存在する部分)などの広範囲に膿瘍が広がっていないか確認するために首以外の部位を触診するケースもあります。
視診では、口の中を確認して深頸部膿瘍の原因となりやすい扁桃腺(のどちんこの両脇にあるこぶのような構造)の炎症や、むし歯、歯周病などの歯科疾患がないか確認します。
喉の奥を観察したい場合は内視鏡で、深頸部膿瘍につながる炎症の有無や部位、重症度などを確認します。
血液検査も炎症の重症度判定に有効であり、白血球数やCRP(C反応性タンパク質)などの値を測定することがあります。
CT検査、MRI検査、超音波検査などの画像検査は、炎症による膿瘍形成の有無や膿瘍の広がりを確認する目的でおこなわれることがあります。 なかでも造影剤を使用したCT検査は、膿瘍の広がりや縦隔への進展の有無、気道閉塞状態の確認に役立ちます。
膿瘍形成が認められた場合は、採取した膿瘍から細菌の種類を特定する細菌培養検査がおこなわれる場合もあります。
深頸部膿瘍の治療
深頸部膿瘍の治療は、内科的治療と外科的治療に分類されます。
内科的治療では、深頸部膿瘍の原因となる細菌に適した抗菌薬の投与がおこなわれます。 ただし、深頸部膿瘍を発症した場合には、早急な治療が必要なケースが珍しくないため、複数の成分を組み合わせた抗菌薬が使用される場合もあります。
外科的治療では、切開排膿(膿のたまった部位を切開して膿瘍を排出する)が一般的です。 強い炎症によって気道狭窄をきたしているケースや抗菌薬を投与しても24時間以内に改善が見られないケースなどでは、切開排膿が選択されることがあります。 膿瘍が拡大して縦隔まで広がっている場合や大動脈の近くに形成されている場合では、緊急手術が必要なケースもあります。
また、呼吸困難をきたしている場合は、気道を確保するために気管切開術がおこなわれるケースもあります。
深頸部膿瘍になりやすい人・予防の方法
深頸部膿瘍は、咽頭炎や喉頭炎、歯科疾患などが原因となるケースが多いです。 このため、感染症や歯科疾患を患っている人は深頸部膿瘍になりやすいと言えます。
風邪やインフルエンザなどの感染症は、咽頭炎や喉頭炎を発症しやすいため、手洗いうがいなどの感染予防は深頸部膿瘍の予防に効果的です。 むし歯や歯周病、歯槽膿漏(しそうのうろう)などの歯科疾患も深頸部膿瘍をきたす場合があります。 定期的に歯科を受診し、口の中を衛生的に保つことは、発症リスクの低下に有効です。
糖尿病や白血病などの免疫不全をきたす疾患、抗がん剤、放射線治療などは易感染状態になりやすく、深頸部膿瘍を発症するリスクが高まります。 免疫力を維持するためにも食事や睡眠などの生活習慣を見直し、規則正しい生活を心がけましょう。
参考文献




