

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
悪性外耳道炎の概要
悪性外耳道炎(あくせいがいじどうえん)は、外耳道(耳の穴の入り口から鼓膜までの部分)に細菌が感染し、周囲の組織や骨にまで炎症が広がる深刻な感染症です。特に高齢者や糖尿病患者、免疫力が低下している人がかかりやすく、適切な治療がおこなわれなければ、命にも関わることがあります。
通常の外耳炎(いわゆる「耳の炎症」)とは異なり、悪性外耳道炎は耳の周囲の軟部組織や頭蓋骨(側頭骨)へと感染が進行し、重篤な合併症を引き起こすことがあります。初期症状としては耳の痛みや耳だれ(耳から膿が出ること)がありますが、進行すると顔面神経麻痺や意識障害を伴うこともあります。
原因となる細菌は、多くの場合で「緑膿菌(りょくのうきん)」という菌です。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などのその他の細菌や真菌が原因となる例も報告されています。こうした病原菌が耳の組織に感染することで炎症が広がります。治療には原因となる細菌に応じた抗菌薬の投与が必要であり、場合によっては外科的処置が行われることもあります。
悪性外耳道炎は早期発見・早期治療が重要であり、耳の痛みが続いたり、耳だれが長引く場合には速やかに医療機関を受診することが大切です。
悪性外耳道炎の原因
悪性外耳道炎は、免疫力の低下などを機に外耳道に細菌が感染することで発症します。
原因となる細菌は緑膿菌が最も多く、ほかにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌や真菌(カビ)、シュードモナス属という種類の細菌が原因になることもあります。
悪性外耳道炎の患者さんの多くは糖尿病に罹患しており、糖尿病を発症し免疫力が低下することが発症に関連していると考えられています。また、糖尿病以外にもHIV感染症を発症している人や免疫抑制薬で治療中の人にも発症することがあります
悪性外耳道炎の前兆や初期症状について
悪性外耳道炎の前兆はありませんが、緑膿菌は湿った環境を好み、感染力が強いことで知られます。免疫力の低下している人が、外耳道に小さな傷を持ってしまうことなどが発症のきっかけとなり得ます。
悪性外耳道炎の初期症状として、耳の痛み(特に夜間に強くなる)や耳だれがみられます。また、耳の奥の違和感や圧迫感、難聴、耳周辺の腫れ、などがみられることもあります。
症状が進行すると、感染が側頭骨や顔面神経に広がり、顔面のしびれや麻痺、発熱や倦怠感、意識障害などのより深刻な症状が出ることがあります。耳の痛みや耳だれが長引く場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
悪性外耳道炎の検査・診断
悪性外耳道炎が疑われる場合には、画像検査や病理組織学的検査、分泌物の培養検査などがおこなわれます。
画像検査では、臓器の断層像を確認できるCT検査がおこなわれます。重症の悪性外耳道炎の患者さんでは、CT画像で側頭骨の細胞が破壊されている所見が確認されます。
しかし、このような所見は「中耳結核」や「ANCA関連血管炎性中耳炎」「外耳道がん」などの患者さんでも見られることがあり、鑑別が困難なケースもあります。
他の疾患と鑑別したり治療方針を決定したりするためには、外耳道の組織片を採取し、顕微鏡で細胞の状態を詳しく調べる病理組織学的検査をおこなう必要があります。
さらに、適切な治療薬を選択するため、耳から分泌物を採取して培養し、原因となる細菌を特定します。
悪性外耳道炎の治療
悪性外耳道炎では、抗菌薬を用いた薬物療法や外耳道の局所治療、高圧酸素療法、外科的手術などがおこなわれます。
薬物療法
原因となる細菌を特定し、その細菌に有効な抗菌薬を使用します。
原因となる細菌の多くは緑膿菌や黄色ブドウ球菌であり、それらの細菌に効果を発揮するペニシリン系やセフェム系などの種類の抗菌薬を組み合わせて使用します。
悪性外耳道炎は治療後も再発しやすいことに留意して、経過を見ながら慎重な治療がおこなわれるのが一般的です。
外耳道の局所療法
悪性外耳道炎では、炎症を起こした組織を繰り返し取り除き、洗浄する処置がおこなわれます。
また、悪性外耳道炎の患者さんは、糖尿病を発症していたり外耳道の炎症に伴って患部の血流が悪くなっていたりすることから薬物療法の効果が十分に得られないケースがあります。そのような場合には、治療効果を高める目的で局所療法を併用します。
外耳道の局所療法では、症状や病態に応じて「ブロー液」を用いた治療や「ドレナージ」などがおこなわれます。
ブロー液は殺菌作用や収れん作用のある薬液(酢酸アルミニウム)で、外耳道に直接投与することで炎症を抑える効果が期待できます。
ドレナージとは、組織に溜まった分泌物を排出させる治療法です。悪性外耳道炎では、外耳道に蓄積する膿を取り出して洗浄します。
高気圧酸素療法
薬物療法や局所療法のほか、高気圧酸素療法がおこなわれることもあります。
高圧酸素療法では、糖尿病などによって血流が悪くなった組織の低酸素状態を改善させる効果のほか、炎症に伴う組織のダメージの回復を促す効果が期待できるとされています。
外科的手術
悪性外耳道炎では一般的に手術はおこなわれないケースが多いものの、薬物療法で病状が改善しない場合や炎症が抑えられない場合などに考慮されることがあります。
悪性外耳道炎の手術では、病態に応じて外耳道の後方を切開して感染部位(病巣)を取り除く「外耳道後壁削除鼓室形成術」などが選択されます。
悪性外耳道炎になりやすい人・予防の方法
悪性外耳道炎は誰にでも発症リスクがありますが、健康な人の免疫状態であれば発症はまれとされています。
一方、糖尿病やHIVを発症している人や免疫抑制薬で治療中の人、あるいは高齢者は免疫力が低下しやすいため、悪性外耳道炎の発症リスクが高いと言えます。
悪性外耳道炎の患者さんの多くが糖尿病を罹患しているという報告からも、糖尿病の発症を予防したり、既に発症している場合には適切な治療に努めることが、悪性外耳道炎の予防にもつながります。
糖尿病の発症を予防するには、バランスの取れた食生活や適度な運動、体重管理などをおこなうことが有効です。また、喫煙している場合には糖尿病の発症率が高まるため、禁煙を心がけましょう。このほか、気になる症状がなくても、定期的に健康診断を受けることも重要です。
参考文献