

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
末梢性めまい症の概要
末梢性めまい症は、内耳(耳の最も奥にある器官)や内耳と脳をつなぐ神経の異常が原因で発生するめまい症状の総称です。
こうしためまいを引き起こす可能性のある疾患は複数あり、代表的なものとして、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、メニエール病、突発性難聴、薬剤性難聴などが該当します。内耳炎や外傷を原因とする末梢性めまい症もあります。
症状は回転性のめまいで、天井がグルグル回るような感覚や、ふわふわした感じを経験します。
疾患によって症状の特徴は異なりますが、めまいに加えて吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
メニエール病や突発性難聴、薬剤性難聴などでは、難聴や耳鳴りなどの耳の症状も併発することがあります。
末梢性めまい症の治療は、めまい症状を引き起こす原因疾患を特定してからおこなわれ、主に薬物療法などで対処します。症状が落ち着いてからリハビリテーションをおこなうこともあります。

末梢性めまい症の原因
末梢性めまい症は明確な原因が完全に解明されていません。
しかし、めまい症状を引き起こす各疾患ごとに、推定されている発症のメカニズムがあります。
良性発作性頭位めまい症は、内耳に存在する「耳石」という炭酸カルシウムの結晶が、何らかの原因で剥がれ落ち、半規管に入り込むことで発症します。
半規管は回転を感知する器官であり、耳石の異常な存在がめまいを引き起こします。
前庭神経炎は、平衡感覚を脳に伝える「前庭神経」に炎症が生じることで発症します。
上気道(鼻腔、咽頭、喉頭による気道の上部)のウイルス感染による風邪症状が先行してから発症することが多く、炎症の原因もウイルス感染によるものと推測されています。
メニエール病は、内耳のリンパ液が過剰に蓄積することで生じます。
この状態は内リンパ水腫と呼ばれ、過剰なストレスや不規則な生活などが関連している可能性が考えられています。
突発性難聴は、何らかの原因で内耳に存在する「有毛細胞」の障害が起こることによって生じます。有毛細胞は音の信号を電気信号に変換して脳に伝える重要な器官です。
薬剤性難聴は、一部の抗菌剤や抗がん剤、消炎鎮痛剤などの薬剤使用によって引き起こされることがあります。
末梢性めまい症の前兆や初期症状について
末梢性めまい症の初期症状や特徴は疾患によって異なります。
良性発作性頭位めまい症
良性発作性頭位めまい症の症状は、特定の頭の位置を取ったときに回転性のめまいが生じるのが特徴です。
めまいは起き上がったときや寝返りをうったときなどに現れ、数秒から数十秒続きます。
吐き気や嘔吐を伴うことがありますが、難聴や耳鳴りは通常見られません。
前庭神経炎
前庭神経炎では、発熱や咳、痰などの風邪の症状が先行した後に発症する場合が多いです。発症後は、激しい回転性のめまいが頭や体の位置に関係なく起こります。
めまいは吐き気や嘔吐、強い眼振を伴い、数時間以上続きますが、難聴や耳鳴りは通常ありません。
メニエール病
メニエール病は、感音難聴や耳鳴り、耳のつまり感や圧迫感から始まり、次第に回転性のめまいが発生します。
耳の症状は片方のことが多いです。
めまいは10分から数時間続き、繰り返し起こります。
突発性難聴
突発性難聴は前触れもなく突然片耳が聞こえなくなり、しばらくして耳鳴りや耳のつまり感、吐き気、回転性のめまいが生じます。
難聴やめまいは通常、繰り返し生じません。
薬剤性難聴
薬剤性難聴は、両耳の難聴からはじまり、耳鳴りや耳のつまり感、回転性のめまいなどが生じます。
末梢性めまい症の検査・診断
末梢性めまい症の検査は、まず詳細な問診から始まります。
医師は患者からめまいの出現時の状況や性質、持続時間などについて詳しく聴取します。
めまいの症状だけでなく、ほかに伴っている症状や、めまいが起こる前の生活や体調についても確認します。
問診の結果、末梢性めまい症が疑われる場合は、主に平衡機能検査と純音聴力検査が実施されます。
また、メニエール病が疑われる場合には、造影剤を使用した耳のMRI検査をおこない、内耳のリンパ液の状態を詳細に確認することもあります。
平衡機能検査
平衡機能検査では、注視眼振検査や頭囲眼振検査、温度眼振検査(カロリックテスト)などがおこなわれます。
注視眼振検査では、特定の点を注視してもらい、眼振(目の不随意運動)が生じるかを観察します。
頭位眼振検査では、頭の位置を変えたときに眼振が起こるかを確認します。
温度眼振検査は外耳道に温水または冷水を注入して前庭神経を刺激し、眼振の有無について調べます。
平衡機能検査では、末梢性めまい症のほとんどの症例において、水平性の眼振が認められることが特徴的です。
純音聴力検査
純音聴力検査は周波数(音の高さ)が異なる音を聞いてもらい、それぞれの周波数で聞こえる最小の音の程度を調べる検査です。
検査は通常、防音室でヘッドホンを装着した状態でおこなわれます。
高い周波数の音が聞こえにくい場合は、メニエール病や突発性難聴、薬剤性難聴で特徴的な感音難聴が疑われます。
末梢性めまい症の治療
末梢性めまい症の治療では、原因疾患を特定した後で各疾患の治療がおこなわれます。
いずれの疾患が原因であっても、めまいの症状が発生している間は安静を保つことが重要です。暗く静かな部屋で、体をあまり動かさず楽な姿勢をとることが推奨されます。
めまいの症状が落ち着いたあとで、リハビリテーションをおこなうこともあります。
薬物療法
末梢性めまい症の薬物療法では、血流を促してめまいを抑える循環改善剤、吐き気や嘔吐を抑える抗ヒスタミン剤、末梢神経に作用するビタミン剤などが用いられます。
めまいに対する不安感が強い場合は、抗不安薬が処方されることもあります。
メニエール病では内リンパのむくみを軽減する浸透圧利尿薬が使用されます。
突発性難聴の場合には、神経の炎症を抑えるステロイド薬が投与されることがあります。
リハビリテーション
末梢性めまいの症状が長引く場合、めまいが起きているタイミングを避けてリハビリテーションをおこなうことがあります。
主におこなわれるのは平衡訓練で、頭や体をリズミカルに動かすことで内耳を徐々に刺激し、不快な動きに慣れさせていきます。
リハビリテーションの目的は、日常生活能力の向上と転倒リスクの軽減です。
患者は徐々に平衡感覚を取り戻し、日常的な動作をより安全におこなえるようになります。
めまいに対する不安や恐怖心を軽減する効果も期待できます。
末梢性めまい症になりやすい人・予防の方法
末梢性めまい症の原因は明らかになっていませんが、各疾患によって発症しやすい要因が考えられています。
良性発作性頭位めまい症は、同じ姿勢を長時間取り続けることで発症リスクが高まる可能性があります。
前庭神経炎は上気道へのウイルス感染が引き金になることがあり、風邪の症状の後に発症することが多いとされています。
メニエール病や突発性難聴は不規則な生活や過度なストレス、過労などが影響している可能性があります。
したがって、すべての発症リスクを予防して取り除くことは困難ですが、日常的な心がけを予防につなげることはできます。
普段から栄養バランスの取れた食事を摂り、十分な睡眠を心がけて規則正しい生活リズムを維持することが大切です。
過度なストレスをためこまないよう、悩み事は一人で抱え込まず、周囲に相談するなどして解消するように心がけましょう。
デスクワークなどで同じ姿勢が長時間続く場合は、適宜立ち上がって体を動かすなど、姿勢の変化をつけることも、めまい予防に効果的と考えられています。
関連する病気
- 良性発作性頭位めまい症
- 前庭神経炎
- メニエール病
- 突発性難聴
- 薬剤性難聴
- 遅発性内リンパ水腫
- 低音障害型感音難聴
参考文献




