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頭頸部がん
長友 孝文

監修医師
長友 孝文(医師)

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浜松医科大学卒業。自治医科大学附属病院、東京大学医科学研究所などで勤務の後、2022年に池袋ながとも耳鼻咽喉科を開院。院長となる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会専門医。

頭頸部がんの概要

頭頸部がんとは、脳と眼を除く首から上の部分に発生するがんの総称です。頭頸部がんは、がんの発生部位によって、口腔がん、鼻・副鼻腔がん、咽頭がん(上咽頭がん・中咽頭がん・下咽頭がん)、喉頭がん、唾液腺がん、甲状腺がんに分類されます。

頭頸部がんの主な原因は、喫煙、多量の飲酒、ウイルス感染(HPVやEBウイルス)、口腔内の不衛生などが挙げられます。 がんの発生部位によって初期症状は異なり、呼吸や食物摂取、発声などの機能に障害が生じます。

診断には内視鏡検査による生検や、CTやMRI、エコーなどの画像検査などが用いられます。

治療方法は手術による腫瘍の切除が基本となりますが、がんの発生部位や進行度、患者の状態に応じて選択されます。

頭頸部には、食事や呼吸などの生命維持を担う器官や、発声、聴覚といったコミュニケーションに必要な器官、味覚や嗅覚などの感覚をつかさどる重要な器官が集まっています。 そのため、治療する上で、がんの根治とQOLのバランスを保つことが重要です。

頭頸部がんは、喫煙者や過度の飲酒、HPV感染歴がある、不適切な口腔ケアをしている人が発症しやすいと報告されています。予防としては、禁煙・節酒、HPVワクチン接種、口腔ケアの徹底が推奨されます。

頭頸部がんの原因

頭頸部がんの発症原因は、喫煙、過度の飲酒、口腔内の不衛生が関わっていると言われています。

タバコに含まれる発がん物質が長期間にわたり頭頸部の粘膜を刺激することで、がん化が進むと考えられています。

日本人は、アルコール代謝の過程でつくられる毒性の強いアセトアルデヒドがたまりやすい人が多いと言われています。そのため、わずかな飲酒でも健康に悪影響を及ぼし、がんにかかりやすいとされています。

また上咽頭がんはEBウイルス、中咽頭がんはヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)との関連も明らかになっています。

HPVは身近なウイルスで、皮膚や粘膜の小さな傷口に入り込み感染します。感染してもほとんどは免疫によって自然に排除されますが、ウイルスが感染した状態が続くと、がんの発症リスクを高めます。

頭頸部がんの前兆や初期症状について

頭頸部がんの症状は、発生する部位によって異なります。以下は部位別の主な症状です。

口腔がん(舌がん)

初期症状としては舌に固いしこりができる、ただれる、舌が動かしづらい、舌のしびれが挙げられます。一見すると口内炎に似た症状です。また舌の粘膜が赤くなったり(紅板症)白くなったり(白板症)することや、口内炎が治りづらくなることもあります。

鼻・副鼻腔がん(上顎洞がん)

初期には自覚症状がないこともあります。進行すると鼻詰まり、鼻出血、血が混じった鼻水や頬や歯肉が腫れたり、口が開けづらくなったり、眼球が突き出たりします。

上咽頭がん

咽頭は、鼻の奥から食道の入口までの空気と食べ物が通る部分です。上からそれぞれ上咽頭、中咽頭、下咽頭に分かれています。上咽頭は鼻腔の奥の部位です。 初期にはほとんど自覚症状がありません。がんが大きくなると、鼻詰まりや鼻出血、耳の閉塞感、中耳炎や難聴などが現れます。

中咽頭がん

初期症状としては、のどの不快感や飲み込む時の違和感があります。進行すると、のどの痛みや飲み込みづらさ、出血、うまく言葉が出ないなどの症状が出現します。

下咽頭がん

下咽頭は咽頭の一番下の部分で、食道へとつながる食べ物の通り道です。初期にはのどの違和感や閉塞感がみられますが、自覚症状がない場合も少なくありません。進行すると声のかすれや飲み込みずらさが出現します。

喉頭がん

喉頭は「のどぼとけ」のところにある器官です。喉頭がんは、がんができる部位によって症状が異なります。 声帯にがんができる声門がんが最も多く、主な症状は声のかすれで比較的早期から出現するため気づかれやすいです。声門上がんはのどの違和感や飲み込むときの痛みが出現します。声門下がんは比較的稀ですが、進行するまで症状がでないことが多いです。

唾液腺がん

唾液腺がんの症状は、唾液腺のある部位(耳下部や顎下部)の腫脹、しこりで気づかれることが多く、進行すると神経(特に顔面神経)の麻痺や、腫瘍を押した際の痛みが挙げられます。

甲状腺がん

甲状腺がんは、のどぼとけのすぐ下にある甲状腺とよばれる臓器にできるがんです。主な症状は首のしこりや腫れです。進行すると飲み込みづらさや声のかすれが出現しますが、診断されるまで症状が出ない人も少なくないがんです。

頭頸部がんの検査・診断

頭頸部がんの診断は、主に診察・病理検査・画像検査によって行われます。

診察

自覚症状や専門家による診察、内視鏡検査などから頭頸部がんの疑いがないかを確認します。

病理検査

内視鏡などを使って腫瘍組織の一部を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる病理検査を行い、がんを確定します。

画像検査

CT、MRI、超音波検査やPET-CT等の画像検査を用いて、病原の広がりや深さ、リンパ節への転移の有無、他のがんが併発していないかを調べます。

頭頸部がんの治療

頭頸部がんの治療は、がんの進行や患者の状態に応じて選択されます。発生部位別の治療法は以下のとおりです。

口腔がん(舌がん)

手術による治療が基本です。早期がんの場合、組織に針を刺して放射線を当てる組織内照射を行うこともあります。術後の状況に応じて放射線治療や抗がん剤を使用する化学放射線治療を行うこともあります。

鼻・副鼻腔がん(上顎洞がん)

早期に発見できた場合、手術や放射線治療を行います。進行がんに対しては、手術や放射線治療、化学療法を併せた治療を行います。

咽頭がん(上咽頭がん)

手術が難しい部位であるため、放射線治療が主な治療となります。進行に合わせて、抗がん剤を用いる化学放射線療法を行います。

咽頭がん(中咽頭がん)

表面に近いがんの場合は口から手術しますが、早期がんに対しては手術や放射線治療で治療します。がんが進行している場合は治療後の飲み込みや声の機能をできるだけ損ねないように、化学放射線治療のみにするか手術と化学放射線療法を組み合わせるかを判断します。

咽頭がん(下咽頭がん)

表面近くのがんは内視鏡を使って手術します。早期がんは手術や放射線治療のみで治療しますが、進行がんでは喉頭を摘出する手術が多く、術後に声が出せなくなります。そのため術後の生活に支障をきたさないように、放射線治療や化学放射線療法が選択される場合もあります。

喉頭がん

早期の喉頭がんの治療は、放射線治療や喉頭を残す手術です。進行したがんでは、喉頭をすべて取り除く手術が主な治療法となり、術後は声を出せなくなります。そのため喉頭を残すために、化学放射線治療を選択することもあります。

唾液腺がん

治療は手術が中心で、手術の内容はがんの広がりや悪性度に応じて決まります。手術で摘出した組織を病理検査に出した結果で追加治療が必要かどうか判断します。悪性度が高い場合や神経への浸潤があった場合は、放射線治療を追加することもあります。

甲状腺がん

手術による腫瘍の切除が主な治療です。補助療法として、放射性ヨード内用療法、放射線外照射、分子標的薬治療、甲状腺ホルモン療法を行う場合もあります。

頭頸部がんになりやすい人・予防の方法

喫煙や飲酒の習慣がある、HPV感染歴がある、不適切な口腔ケアをしている人は頭頸部がんになりやすいと言われています。予防のためには、禁煙や節酒、HPVワクチンの接種、口腔ケアの徹底が有効です。

HPVワクチンは女性だけでなく男性にも推奨されており、接種により中咽頭がんなどのHPV関連のがん(女性の子宮頸がん、外陰がん、膣がん、男性の陰茎がん、男女共通の肛門がん)を予防できます。 口腔ケアの徹底としては、歯科受診やうがい、正しい歯磨き習慣を通じて口腔内を清潔に保つことが推奨されます。

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