

監修医師:
大津 和弥(医師)
鼓膜炎の概要
鼓膜炎とは、ウイルスや細菌によって鼓膜が炎症を起こす疾患です。急性鼓膜炎と慢性鼓膜炎に大きく分けられ、症状や経過がそれぞれ異なります。
鼓膜に炎症が起きると、耳の痛みの症状を自覚することがあります。また、炎症の程度によっては発熱や難聴などの症状も出ます。
急性鼓膜炎、慢性鼓膜炎ともにかぜやインフルエンザなどの「上気道感染症」に伴う発症例が多く知られていますが、明確な発症原因がわからないケースもあります。
急性鼓膜炎は「水疱性鼓膜炎」とも呼ばれ、鼓膜の表面に水疱状の病変がみられることが多い疾患です。
一方、慢性鼓膜炎では、炎症に伴って鼓膜に「肉芽」と呼ばれる赤い粒状の病変ができたり、耳だれ(耳漏)が出たりすることがあります。慢性鼓膜炎は「肉芽性鼓膜炎」「肉芽種性鼓膜炎」と呼ばれることもあります。
鼓膜炎の治療では、鎮痛薬や抗菌薬を用いた薬物療法のほか、鼓膜にできた水疱や肉芽に対する処置がおこなわれます。
鼓膜炎の原因
鼓膜炎はウイルスや細菌に感染することで発症すると考えられています。原因となる 病原体として多いのは「マイコプラズマ」や「肺炎球菌」「インフルエンザ菌」「β溶連菌」「グラム陰性桿菌」「黄色ブドウ球菌」などが挙げられます。
一般的には、鼓膜炎はかぜやインフルエンザなどの上気道感染症に伴って発症することが多いといわれています。しかし、詳細な原因については明らかになっておらず、明確な発症原因がわからないケースもあります。
鼓膜炎の前兆や初期症状について
鼓膜炎では、耳に水疱などの病変ができるほか、耳の痛みや難聴、耳が塞がれるような感覚(耳閉感)、耳鳴りなどが見られます。
急性鼓膜炎では耳の痛みを伴うことが多く、ほかに耳鳴りや耳閉感、難聴を認めることもあります。また、鼓膜にできた水疱が破れると、耳から黄色い液体や血液が出ることもあります。
一方の慢性鼓膜炎では、耳から膿などの液体が垂れてくる「耳だれ」が多くみられます。ほかに急性鼓膜炎と同様、耳鳴りや耳閉感、難聴を生じることもあります。
また、慢性鼓膜炎では鼓膜が破れる「鼓膜穿孔」や中耳に炎症がおきる「中耳炎」を伴うこともあります。鼓膜穿孔では、強い耳の痛みとともに出血することがあるほか、鼓膜炎と同様耳鳴りや難聴などを生じます。中耳炎を合併している場合にも、鼓膜炎や鼓膜穿孔と同様の症状が見られます。
鼓膜炎の検査・診断
鼓膜炎の診断では、問診や鼓膜の視診のほか、症状や原因に応じた検査がおこなわれます。症状が類似する耳疾患は多いので、他の疾患との鑑別が重要です。
問診では、耳の痛みや耳閉感の有無、聞こえの変化などを確認します。
視診では「オトスコープ」と呼ばれる内視鏡機器を用いて鼓膜を観察します。急性鼓膜炎の場合には、鼓膜表面に黄色い水疱が1個〜数個確認されます。 鼓膜にできた水疱を突いてすぐに中の液体が排出され、水疱がなくなる場合には急性鼓膜炎と診断できます。
一方の慢性鼓膜炎の場合には、鼓膜の表面が皮で覆われ、皮を除去すると皮膚が部分的に剥がれていたり肉芽ができていたりすることが確認されます。
また、原因となる病原体を特定するために、水疱内の液体や耳垂れのサンプルを採取して顕微鏡で詳しく調べることもあります。 このほか、聞こえの悪さなどを伴っている場合には、聴力検査がおこなわれることもあります。
鼓膜炎の治療
鼓膜炎では、症状や原因に応じた治療がおこなわれます。
急性鼓膜炎の治療
急性鼓膜炎で鼓膜に水疱を認める場合には、水疱を切開して内部の液体を排出させる処置がおこなわれます。また、抗菌薬の内服薬や点耳薬を用いた薬物療法も同時におこなわれます。
耳の痛みは水疱内の液体を排出させることで軽減することが多いものの、処置後にも痛みがある場合には鎮痛薬が用いられます。
このほか、難聴を認める場合には、副腎皮質ステロイド薬やビタミンB12製剤、血管拡張薬などを用いた薬物療法がおこなわれることもあります。
慢性鼓膜炎の治療
慢性鼓膜炎では、鼓膜の表面を清掃し、肉芽を取り除く処置がおこなわれます。処置後は患部に副腎皮質ステロイドや抗生剤の軟膏を塗布します。
一般的には局所的な処置のみで軽快することが多いものの、耳漏が続く場合には抗菌薬の点耳薬を用いることもあります。
このほかに「酢酸アルミニウム溶液(ブロー液)」を耳の中に塗布して、一定時間置いた後、液を取り除く治療がおこなわれることもあります。
鼓膜炎になりやすい人・予防の方法
鼓膜炎の明確な原因については明らかになっていないものの、かぜやインフルエンザなどの上気道感染に伴って発症することが多いと考えられています。
そのため、鼓膜炎の発症を予防するためには、かぜやインフルエンザを予防することが重要といえます。
かぜやインフルエンザなどの感染症を予防するには、感染症の流行時期に人の多い場所に行くことを控えたり、手洗いやうがいなどを心がけたりすることが有効です。気温が低いとのどや鼻の防御力が低下して感染症にかかりやすくなるため、室温を適度に保つことも重要です。
このほか、免疫力を維持するために生活習慣を整えることも重要です。規則正しい食生活を心がけ、十分な休息と睡眠を取るようにしましょう。
参考文献




