

監修医師:
伊藤 規絵(医師)
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細気管支炎の概要
細気管支炎は、主に生後24ヶ月未満の乳幼児に発症する下気道の急性ウイルス感染症です。この疾患は、中〜小サイズの気管支および細気管支に炎症を引き起こし、呼吸窮迫(こきゅうきゅうはく)、呼気(こき)時に高い音が聞こえる呼気性喘鳴(ぜいめい)、および断続性ラ音を特徴とします。細気管支炎の主な原因ウイルスは、 RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus :RSV)とライノウイルスです。稀に、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマなども原因となります。
ウイルスが上気道から細気管支へと広がり、上皮の壊死と炎症反応を引き起こします。その結果、浮腫(ふしゅ)と滲出液(しんしゅつえき)が生じ、気道の部分的閉塞(へいそく)を引き起こします。この閉塞は呼気時に最も顕著で、肺胞のエアトラッピング(呼気時に肺胞内の空気が十分に排出されず残留する現象)を引き起こします。典型的な症状には、発熱や頻呼吸、陥没(かんぼつ)呼吸、呼気性喘鳴、咳嗽(がいそう:せき)があります。診断は主に臨床的評価に基づいて行われますが、重症例ではパルスオキシメトリー(指に光を当て、動脈血の酸素飽和度を非侵襲的に測定する方法)、胸部X線、RSV迅速抗原検査などが実施されます。治療の主体は支持療法であり、酸素および水分の補給が中心となります。一般的に予後は良好ですが、一部の患児では無呼吸や呼吸不全を起こす可能性があります。
RSV(respiratory syncytial virus)とは
呼吸器(respiratory)に感染します。感染細胞が多核巨細胞(合胞体、syncytium)を形成するという特徴があります。
断続性ラ音とは
短く断続的な副雑音(肺由来の正常ではない呼吸音)で、水泡音と捻髪(ねんぱつ)音があります。水泡音は低調で粗く、プツプツやポコポコという音で、気道内分泌物を空気が通過する際に生じます。捻髪音は高調で細かく、パリパリやチリチリという音で、虚脱した細気管支や肺胞が吸気時に膨らむときに発生します。水泡音は気管支炎や肺炎、捻髪音は間質性肺炎などで聴取されます。
細気管支炎の原因
ウイルス感染です。最も頻度が高い病原体はRSウイルスとライノウイルスです。また、A型およびB型インフルエンザウイルスやパラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマも稀な原因として挙げられます。細気管支炎は主に生後24ヶ月未満の乳幼児に発症し、特に生後2〜6ヶ月の乳児で発生率が最も高くなります。北半球の温帯地域では、11月から4月にかけて流行し、1月から2月にピークを迎えます。
細気管支炎の前兆や初期症状について
通常のかぜと類似しています。
- 鼻水
- くしゃみ
- 微熱(37.8〜38.3度)
- 軽いせき
これらの症状は、細気管支炎の初期段階で現れ、通常3〜5日間続きます。特に、せきは細気管支炎の最も特徴的な初期症状の一つで、発作的または持続的な性質を持ち、数日から数週間持続する可能性があります。初期段階では、乳児は比較的元気で、機嫌もよく、食欲も維持されていることが多いようです。しかし、症状は徐々に進行し、3〜5日後には、呼吸が苦しくなる、呼吸が速くなる、呼気時に高い音(呼気性喘鳴)が聞こえるなどのような症状が現れることがあります。特に乳幼児では、症状が急速に悪化する可能性があるため、注意深い観察が必要です。また、乳児期早期(2ヶ月未満)および早産児では、反復性の無呼吸発作が初期症状として現れることがあります。
細気管支炎の病院探し
呼吸器内科や小児科、一般内科、総合診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。
細気管支炎の検査・診断
主に臨床症状と身体所見に基づいて行われます。
- 臨床症状と身体所見:発熱、鼻汁、咳嗽、呼吸困難、頻呼吸、陥没呼吸、呼気性喘鳴です。特に、2歳未満の乳幼児で上記の症状が見られる場合、細気管支炎を疑います。
- 胸部X線写真:肺の過膨張、間質性肺炎像が典型的な所見です。エアトラッピングが唯一の有意な所見として認められることもあります。
- 胸部CT:より詳細な肺の状態を評価できますが、通常は必要ありません。
- 血液検査:白血球数、CRP、赤沈(せきちん)などを測定しますが、特徴的な所見はなく、白血球分画も一定の傾向はありません。
- RSウイルス迅速抗原検査:鼻腔拭い液を用いた抗原検査で診断します。ただし、1歳未満の乳児以外では保険適用外となることがあります。最近では、新型コロナウイルスとRSウイルスを同時に検出できる新しい検査も保険適用となっています。
細気管支炎の確定診断は困難であり、主に臨床診断に基づきます。典型的な症状と身体所見に加え、RSウイルスなどの病原体が検出された場合に診断されます。
細気管支炎の治療
主に対症療法が中心となり、症状の緩和と合併症の予防を目的としています。
対症療法
- 酸素補充:低酸素血症がある場合、必要に応じて酸素投与を行います。
- 水分補給:脱水予防のため、経口または静脈内輸液で適切な水分補給を行います。
- 鼻腔吸引:鼻閉による呼吸困難を軽減するため、必要に応じて鼻腔吸引を行います。
薬物療法
- 気管支拡張薬:一部の患児で短期的な症状改善が見られることがありますが、入院期間の短縮には繋がらない可能性があります。
- コルチコステロイド:通常、それまで健康であった乳児には適応がありません。ただし、気管支肺異形成症や喘息などの基礎疾患がある場合は考慮されることがあります。
- 抗菌薬:二次的な細菌感染が起こらない限り、通常は使用しません。
特殊治療
抗RSウイルスモノクローナル抗体(パリビズマブとニルセビマブ):特定の高リスク乳児に対して、入院頻度を減少させるために投与されることがあります。ニルセビマブは2024年5月に導入され、1回の投与で効果が6ヶ月持続することから、接種回数が少なくてすみますが、どちらも高価な薬剤です。
抗RSウイルスモノクローナル抗体(パリビズマブ)とは
RSウイルス感染症の重症化を予防するために開発された薬剤です。商品名はシナジスで、RSウイルスに対する人工的に作られた抗体です。早産児や心肺に基礎疾患のある小児など、RSウイルス感染症で重症化するリスクが高い乳幼児に使用されます。月1回の筋肉内注射で投与され、RSウイルスの流行期間中(通常、夏から翌年春まで)に継続して使用します。RSウイルス感染による入院リスクを低下させる効果が報告されています。ワクチンとは異なり、体内で抗体を作るのではなく、直接抗体を投与する方法です。
リバビリン
日本では細気管支炎の治療に対して保険適用がありません。リバビリンは、RSウイルスに対する抗ウイルス薬としてアメリカで唯一認可されていますが、日本では使用できません。アメリカでは、主に免疫不全患者など、ハイリスクの患者さんに限って投与が考慮されています。
入院適応
呼吸窮迫の増悪(ぞうあく)や重症感(チアノーゼ、嗜眠(しみん)よく眠る、疲労など)、無呼吸の病歴、低酸素血症、不十分な経口摂取、心疾患、免疫不全、気管支肺異形成症などの基礎疾患を有する患児は入院の適応となります。治療の主眼は、症状の緩和と合併症の予防にあります。多くの場合、在宅での対応が可能ですが、重症例や高リスク患児では入院管理が必要となります。現在のところ、細気管支炎に対する特異的なワクチンは存在しません。
細気管支炎になりやすい人・予防の方法
生後24ヶ月未満の乳幼児(特に2〜6ヶ月の乳児)や早産児、心肺に基礎疾患のある小児、免疫不全状態の患児などのハイリスク群は細気管支炎になりやすいです。
予防方法は、手洗い・うがいの徹底や適切な湿度管理(加湿器の使用など)、人混みや感染者との接触を避ける、母乳育児の推奨(母体からの抗体移行)などが挙げられます。ハイリスク児に対しては、抗RSウイルスモノクローナル抗体の予防投与が考慮されます。これは、先天性心疾患や未熟児などの特定のリスク群に適応があります。家庭内感染が多いため、特に幼稚園や保育園に通う年長の子どもがいる家庭では注意が必要です。感染者は症状が改善しても1週間程度はウイルスを排出するため、この期間は人混みを避けることが重要です。
参考文献