

監修医師:
居倉 宏樹(医師)
は呼吸器内科、アレルギー、感染症、一般内科。日本呼吸器学会 呼吸器専門医、日本内科学会認定内科医、日本内科学会 総合内科専門医・指導医、肺がんCT検診認定医師。
目次 -INDEX-
急性細気管支炎の概要
急性細気管支炎は、気管支が枝分かれを繰り返した先にある細気管支に炎症が起こる病気で、主に乳幼児に多く見られます。
急性細気管支炎の原因
急性細気管支炎は、小さな気管支(細気管支)が炎症を起こす病気で、主にウイルス感染によって引き起こされます。
主な原因となるウイルス
RSウイルス
急性細気管支炎の最も一般的な原因で、全体の50%以上を占めます。
その他のウイルス
- ヒトメタニューモウイルス
- ライノウイルス
- パラインフルエンザウイルス
- インフルエンザウイルス
- ヒトボカウイルス
- アデノウイルス
- 新型コロナウイルス(COVID-19)
細菌感染の関与
急性細気管支炎の直接的な原因として細菌感染が起こることは稀です。
ただし、ウイルス感染後に二次的な細菌感染が起こる場合があります。
主な細菌
肺炎球菌、インフルエンザ菌など。
急性細気管支炎の前兆や初期症状について
急性細気管支炎は、最初は風邪のような症状が現れ、その後、より深刻な呼吸の問題へと進行することが多い病気です。
初期症状
急性細気管支炎の初期段階では、以下のような症状が見られます。
- 鼻水
- 鼻づまり
- くしゃみ
- 咳
- 発熱
これらの症状は一般的な風邪とよく似ているため、初期段階で急性細気管支炎と区別するのは難しいことがあります。
初期症
上記の症状に続いて、細気管支への炎症が進むと、以下のような下気道症状が現れる場合があります。
喘鳴(ぜんめい)
呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする。
呼吸困難
息を吸うのが苦しそうに見える。
頻呼吸
呼吸が通常より速くなる。
咳の悪化
咳がひどくなり、続くようになる。
食欲低下
食事や授乳の量が減る。
嘔吐
食べたものを吐くことがある。
無呼吸
一時的に呼吸が止まることがある(特に乳幼児)
重要なポイント
風邪との見分け方
急性細気管支炎は、初期には風邪の症状と似ていますが、喘鳴や呼吸困難などの特徴的な呼吸症状が現れた場合は注意が必要です。
早期の受診が大切
呼吸が苦しそうに見えたり、症状が悪化した場合は、すぐに内科や小児科を受診してください。
急性細気管支炎の検査・診断
急性細気管支炎の診断は、主に臨床症状と身体診察に基づきます。
主な診断方法
臨床症状と身体診察
発熱や鼻汁や咳のほか、喘鳴や呼吸困難などが見られる場合に診断が進められます。
必要に応じた検査
胸部X線検査
重症例や非定型的な症状の場合には画像評価を行います。
合併症の有無の確認もします。
ウイルス迅速検査
一部の原因ウイルスを特定するために実施します。例えばRSウイルスにおいては、乳児や入院を要する場合には迅速抗原検査が保険適応となります。
急性細気管支炎の治療
急性細気管支炎は、主にウイルス感染による病気で、抗菌薬は必要とせず、治療は対症療法が中心となります。治療の目的は、症状を和らげ、合併症を防ぐことです。そのため、治療は対症療法が中心となります。
主な治療法
水分補給
- 発熱や速い呼吸によって体内の水分が失われやすいため、十分な水分補給が重要です。
- 経口摂取が難しい場合は、点滴で水分を補給します。
酸素療法
- 血液中の酸素が不足している場合、鼻カニューレ(酸素を送る管)などを使って酸素を補給します。
呼吸管理
呼吸が苦しい場合は、以下のような呼吸補助療法が行われることがあります。
- ハイフローネーザルカニューラ(高流量酸素療法)
- nCPAP(持続陽圧呼吸療法)
- 気管挿管による人工呼吸器の使用
栄養管理
- 呼吸困難や食欲不振で食事が難しい場合は、経鼻胃管や点滴を使って栄養を補給します。
環境管理
- 室温や湿度を適切に保ち、患者が安静に過ごせる環境を整えます。
薬物療法
急性細気管支炎の薬物療法は、症状や状況に応じて選択されます。
抗菌薬
- 急性細気管支炎の原因は主にウイルスのため、通常は使用しません。
- ただし、細菌感染が疑われる場合や合併症がある場合は抗菌薬を使用します。
気管支拡張薬
- 気管支を広げて呼吸を楽にする薬ですが、急性細気管支炎では効果が限定的であるとされています。
ステロイド
- 炎症を抑える薬ですが、急性細気管支炎での効果は明確に証明されていません。
治療の選択
治療法は、患者さんの年齢や症状の重症度、合併症の有無に応じて決定されます。
軽症の場合
- 自宅で安静にし、十分な水分を取ることで改善することが多いです。
中等症以上の場合
- 症状が強い場合や合併症がある場合は、入院して酸素療法や呼吸補助療法などが行われます。
急性細気管支炎になりやすい人・予防の方法
急性細気管支炎になりやすい人
急性細気管支炎は、以下のような条件を持つ乳幼児がかかりやすい、または重症化しやすいとされています。
乳幼児(特に生後12週以下)
- 生後8週以下の赤ちゃんは特にリスクが高いです。
早産児(特に32週未満)
- 生まれた時の週数が少ないほどリスクが高まります。
基礎疾患を持つ子ども
- 心不全や肺高血圧を伴う先天性心疾患
- 気管支肺異形成などの慢性肺疾患
- 免疫不全症
- 脳性麻痺や神経筋疾患
- 21トリソミー(ダウン症候群)などの先天異常
低出生体重児(体重2.3kg未満)
- 体重が軽い赤ちゃんは、無呼吸や呼吸困難を起こしやすいです。
無呼吸を起こしやすい条件
- 生後1か月未満の赤ちゃん(満期産でもリスクあり)
- 修正48週未満の早産児 過去に無呼吸を経験したことがある場合
急性細気管支炎の予防法
急性細気管支炎を完全に防ぐことは難しいですが、以下の方法で感染リスクを減らすことができます。
基本的な感染予防
- 手洗い・うがいを徹底:ウイルスは接触感染や飛沫感染で広がるため、手洗いやうがいをこまめに行いましょう。
- 人混みを避ける:流行期には人混みへの外出を控えることが重要です。
環境を整える
- 適切な湿度を保つ:乾燥は気道を傷つけ感染しやすくします。部屋の湿度を50~60%に保つよう心がけましょう。
- 喫煙を避ける:タバコの煙は気道を刺激し、感染リスクを高めます。
体調管理
- 十分な睡眠と栄養:疲れや栄養不足は免疫力を低下させるため、規則正しい生活を心がけましょう。
- 母乳育児:母乳には免疫物質が含まれ、感染症から赤ちゃんを守る効果があります。
おもちゃや身の回りの清潔管理
- 赤ちゃんが触れるおもちゃや哺乳瓶などは定期的に消毒しましょう。
予防接種の活用
- インフルエンザや肺炎球菌の予防接種を受けることで、他の感染症を予防し、細菌による二次感染のリスクを減らすことができます。
急性細気管支炎は乳幼児に多い病気ですが、基本的な感染予防や生活環境の整備でリスクを減らすことができます。特にリスクの高い赤ちゃんについては、日頃から注意を払い、必要に応じて医師に相談してください。
参考文献
- 吉原重美,他(監):気管支炎・肺炎・胸膜炎.小児の咳 嗽診療ガイドライン 2020.診断と治療社
- 厚生労働省健康局結核感染症課(編):抗微生物薬適正 使用の手引き 第二版,2019
- 日本呼吸器学会(編):新呼吸器専門医テキスト改訂第2版, 2020




