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薬剤性肺炎
山形 昂

監修医師
山形 昂(医師)

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京都大学医学部医学科卒業。田附興風会医学研究所北野病院 臨床研修。倉敷中央医療機構倉敷中央病院 呼吸器内科、京都大学大学院医学研究科 呼吸器内科などで経験を積む。現在はiPS細胞研究所(CiRA)で難治性呼吸器疾患の病態解明と再生医療に取り組んでいる。専門は呼吸器疾患。研究分野は難治性呼吸器疾患、iPS細胞、ゲノム編集、再生医療。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医、日本内科学会認定内科医。

薬剤性肺炎の概要

薬剤性肺炎とは、飲み薬や点滴などの薬剤使用によって引き起こされる肺の炎症性疾患です。
医師から処方される一般的な抗菌薬(抗生物質)をはじめ、抗がん剤、抗リウマチ薬、漢方薬、さらにはサプリメントなど、実に数百種類もの薬剤が原因となる可能性があります。

薬剤性肺炎には、大きく分けて2つの発症メカニズムがあります。
1つは薬剤の持つ毒性が直接的に肺組織を傷つける場合、もう1つは薬剤に対するアレルギー反応による場合です。

薬剤性肺炎は、間質性肺炎、急性肺損傷、気道疾患など、さまざまな形で現れることが特徴です。
発熱、咳、呼吸困難といった症状が現れ、胸部X線やCTで肺に異常な陰影が確認されます。

薬剤性肺炎は致死的な呼吸不全を引き起こす可能性があり、早期発見と適切な治療が重要です。
原因となった薬剤の中止や、症状に応じ治療を行う必要があります。

薬剤性肺炎

薬剤性肺炎の原因

薬剤性肺炎は、薬による治療中に起こる肺の炎症です。

薬が体に入ってから肺炎を引き起こすまでの仕組みには、主に2つの種類があります。

1つ目は、薬が直接的に肺の細胞を傷つけることで起こります。
使用する薬の量が多かったり、長期間使用したりすると発症しやすくなります。

2つ目は、薬に対するアレルギー反応として起こります。
体質による個人差が大きく、少量の薬でも症状が出ることがあります。

薬の使用を始めてから肺炎を発症するまでの期間は、薬の種類によって数週間から数年とさまざまです。
アレルギー反応として起こる場合、新しい薬の服用開始後、数日から1~2週間程度で症状が現れ始めます。
(出典:厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 間質性肺炎

薬剤性肺炎を引き起こす可能性がある主な薬には以下のようなものがあります。

  • 抗がん剤(がんの治療薬)
  • 抗リウマチ薬(リウマチの治療薬)
  • 細菌感染症の治療に使う抗生物質
  • 漢方薬
  • サプリメント

人種によって薬の分解の仕方や、体の反応の仕方が異なり、日本人は外国の方と比べて薬剤性肺炎になりやすいことがわかっています。

薬剤性肺炎の前兆や初期症状について

薬剤性肺炎は、一般的な肺炎と似た症状から始まることが多いです。
初期症状として、乾性咳嗽(痰を伴わない乾いた咳)や、原因のはっきりしない発熱が挙げられます。
倦怠感(体のだるさ)や息切れといった症状も初期から見られることがあります。ただし、人によっては自覚症状が現れないこともあります。

これらの症状が現れた際は、最近服用を開始した薬がないかを思い出すことが大切です。

症状が進行すると、息苦しさ(呼吸困難)が強くなり、日常生活に支障をきたす場合は入院治療が必要になるケースもあります。
特に高齢者やもともと肺の持病のある方は重症化しやすい傾向にあります。
重症例では、急速に呼吸状態が悪化し、人工呼吸器による治療が必要となることもあります。

薬剤性肺炎の検査・診断

薬剤性肺炎の診断では、医師による詳しい問診と使用中の薬剤の確認から始まります。

診断の決め手となるのは、薬剤の使用開始時期と症状の出現時期の関連性であり、お薬手帳の持参が推奨されます。

医師から処方された薬だけでなく、市販薬やサプリメントなども含めて確認します。原因と疑われる薬剤の使用中止後に症状が改善することも診断のヒントになります。

また、感染症や心臓病による肺水腫など、似たような症状を示す他の病気を除外し、肺を含めた全身状態の確認として画像検査や血液検査、専門的な検査が行われます。

画像検査

検査の中心となるのは、画像検査、特に胸部X線検査と胸部CTです。
胸部CTでは様々な陰影がみられます。同じ薬剤でも人によって異なるタイプの陰影がみられることもあり、専門医のもとで詳細な評価が必要となります。

血液検査

血液検査も重要な診断方法の一つです。
肺の炎症を示す特殊な物質(KL-6やLDHなど)の数値が増えていないかを確認します。
アレルギー反応に関係する白血球の一種(好酸球)が増えているかどうかも調べ、値が通常よりも高くなっていると、薬剤性肺炎の可能性が高くなります。

気管支肺胞洗浄(BAL)

さらに詳しい検査が必要な場合には、気管支肺胞洗浄(BAL)という検査を行うことがあります。
気管支鏡という細い管を使用して気管支に生理食塩水を流し込んで回収し、肺の炎症状態を詳しく調べる検査方法です。

薬剤性肺炎の治療

薬剤性肺炎の治療は、症状の程度によって異なるアプローチが必要です。

アレルギー反応が原因の場合は比較的治りやすいですが、薬剤により直接的に肺の細胞が障害される場合は治療に時間がかかることがあります。

一部の症例では肺に永続的な変化が残ることもあるため、定期的な経過観察が重要です。

軽症の場合は、原因となった薬剤の使用を中止するだけで症状が改善するケースも多いです。

薬剤の中止だけでは改善が見られない場合や、重症な場合には薬物療法や酸素療法などの治療が必要となります。

薬物療法

薬剤性肺炎の治療法としてステロイド薬が使用されます。

ステロイド薬には肺の炎症を抑える効果があり、内服や点滴で投与されます。

ステロイド薬による治療が効果的でない場合は、シクロフォスファミドやシクロスポリンAといった免疫を調整する薬を追加で使用することがあります。

これらの薬はステロイド薬と同じく炎症を抑える働きをしますが、作用の仕組みが異なり、特にステロイド薬だけでは効果が不十分な場合に補助的に使用されます。

酸素療法

症状が重症の場合には、呼吸を助けるための治療も必要となります。

酸素吸入による治療が行われ、さらに重症な場合には人工呼吸器を使用する可能性もあります。

これらの治療は、体内に十分な酸素を取り込めるようにするために重要です。

薬剤性肺炎になりやすい人・予防の方法

薬剤性肺炎は、特に60歳以上の高齢者や、間質性肺炎や肺線維症などの既存の肺疾患がある人に発症しやすいことが分かっています。
抗がん剤や抗リウマチ薬などを日常的に服用している人、複数の薬剤を併用している人も要注意です。
喫煙歴のある中高年の男性も、リスクが高まる傾向にあります。

新しい薬を使用する前には、必ず担当医に既往歴や服用中の薬剤について伝えることが重要です。
薬の使用開始後は咳や息切れなどの症状に注意を払い、異常を感じたら速やかに医師に相談しましょう。

定期的に検査を受けること、またお薬手帳による服薬管理も、早期発見・対応に有効です。


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