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遅発性内リンパ水腫
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

遅発性内リンパ水腫の概要

遅発性内リンパ水腫は、高度な難聴が生じた数年〜数十年後、耳の器官の一番奥にある内耳に内リンパというリンパ液がたまって、回転性のめまいが繰り返し起こる疾患です。
幼児期ごろに何らかの原因で片側もしくは両側の耳に高度な難聴が生じた後、長い年月を経て症状がでた内耳の前庭(全身のバランス感覚をつかさどる器官)に内リンパ液がたまることで発症します。
前庭に内リンパ液がたまることで機能が低下し、目の前がぐるぐる回るような回転性めまいが生じます。

日本では4,000〜5,000人が遅発性内リンパ水腫を発症しており、国の指定難病に登録されています。

患者の約半数が9歳以下に高度な難聴や全ろう(耳が全く聞こえないこと)を発症しています。
また突発性難聴やムンプス難聴によって遅発性内リンパ水腫が起こることも報告されています。
難聴や全ろうから遅発性内リンパ腫に移行する原因ははっきりとわかっていません。

遅発性内リンパ水腫は根本的な治療法がなく、対処療法が基本となります。
発作の原因となる生活環境やストレス状況を取り除いたり、利尿剤や有酸素運動によってリンパ液の循環を良くしたりして、症状の緩和を図ります。
これらの治療で改善が認められない場合は、中耳加圧療法や内リンパ嚢開放術、ゲンタマイシン鼓室内注入術などの侵襲的な治療をおこなうことがあります。

遅発性内リンパ水腫は重症化すると難聴やめまいが永続的に続き、高齢者の場合は転倒により骨折したり、認知症になったりする原因にもなります。
疑わしい症状が見られたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科で適切な治療を受けることが重要です。

遅発性内リンパ水腫

遅発性内リンパ水腫の原因

遅発性内リンパ水腫が起こる原因は明らかになっていません。

先行して見られる難聴の原因は、約6割が不明であることがわかっていますが、突発性難聴やムンプス難聴でも起こると言われています。

遅発性内リンパ水腫の前兆や初期症状について

遅発性内リンパ水腫の前兆は片耳もしくは両耳の感音難聴や全ろうです。
感音難聴や全ろうが発症してから、数年〜数十年後に反復性の回転性めまいが生じます。

めまいは前触れなく発症し、10分から数時間持続して、吐き気や嘔吐を伴うことが多いです。
難聴や全ろうが生じた耳に、耳閉感(耳がつまる感覚)や耳鳴りなどの増悪が起こることもあります。

遅発性内リンパ水腫の検査・診断

遅発性内リンパ水腫の診断は日本めまい平衡医学会の診断基準に基づいておこなわれます。
特異的な臨床症状を認め、めまい発作に伴って難聴の状態が変動せず、第8脳神経以外の神経症状がない場合などで確定診断になります。
検査では必要な所見を確かめるために、純音聴力検査や平衡機能検査、神経学的検査、内リンパ水腫推定検査などがおこなわれます。

純音聴力検査

純音聴力検査は、ヘッドホンを装着して幅広い領域の音量と周波数の音を聞き、聞こえの程度を確かめる検査です。
遅発性内リンパ水腫では、片耳もしくは両耳に高音域の音が聞き取りにくい感音難聴や、音が全く聞こえない全ろうを認めます。

平衡機能検査

平衡機能検査では温度刺激検査をおこない、外耳(耳の入り口)へ温水もしくは冷水を注入することで内耳に刺激を与え、眼振の程度を確認します。
正常の耳では眼振が発生しますが、遅発性内リンパ水腫では難聴が生じている耳の前庭の機能が低下しているため、眼振が見られなくなります。

その他、めまいが出現しているときに水平性や回転性の眼振や、平衡障害による体のふらつきが見られれば、遅発性内リンパ水腫の可能性が高くなります。

神経学的検査

神経学的検査によって脳神経に関連する症状を検査し、第8脳神経に神経症状があるか確かめます。
音叉を額や耳の後ろに当てて、音の聞こえ方に左右差があるか調べます。

内リンパ水腫推定検査

内耳リンパ水腫を推定するために、内耳造影MRI検査やフロセミドテストをおこないます。
内耳造影MRI検査は造影剤を静脈注射にて投与した後に耳周りの画像を撮影する検査で、内リンパの状態を詳しく確かめられます。

フロセミドテストは利尿剤を静脈注射した前後に、温度刺激検査をおこなう検査です。
内リンパ水腫がある側の耳は利尿剤を投与した後、内リンパの循環が改善されることにより、温度刺激検査によって前庭機能の改善が認められます。

遅発性内リンパ水腫の治療

遅発性内リンパ水腫の対処療法は、保存的治療が基本になります。
保存的治療で十分な効果が得られない場合は、中耳加圧治療やゲンタマイシン鼓室内注入療法が選択されます。

保存的治療

保存的治療はめまいが出現しているめまい発作期と、症状が落ち着いているめまい間歇期(かんけつき)にわかれます。
めまい発作期では、安静にしながら、めまいや嘔吐に対する薬物を投与して症状が落ち着くのを待ちます。
めまい間歇期では、めまいが起こる生活上の原因を明らかにし、生活改善やストレス緩和策をおこないます。
利尿剤の投与や有酸素運動も内リンパ水腫の改善に効果があると報告されています。

中耳加圧治療

中耳加圧治療は専用の機器を使用して中耳(外耳と内耳の間に位置する器官)に圧をかけ、内耳にたまったリンパ液を排泄する治療です。
外来で治療を受ける場合や、機器を貸し出して自宅で治療する場合があり、定期的に通院して効果を判定します。

ゲンタマイシン鼓室内注入療法

ゲンタマイシン鼓室内注入療法は、鼓膜内に注射針でゲンタマイシンという抗生物質を投与する治療法です。
内リンパ液を産生する細胞を障害することにより、内リンパが過剰にたまるのを抑えます。

遅発性内リンパ水腫になりやすい人・予防の方法

遅発性内リンパ水腫のなりやすい人や予防法は分かっていません。

遅発性内リンパ水腫が発症したら、症状の悪化を防ぐために睡眠不足や不規則な食生活、過労などの生活習慣を見直しましょう。
症状が悪化すると、高齢者になったときに転倒しやすくなったり、認知症になったりするため、生活の質を保つように努めることが大切です。


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