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耳介血腫
渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

耳介血腫の概要

耳介血腫(じかいけっしゅ)は、耳の外側部分である「耳介」に血液がたまって膨れ上がった状態です。耳の軟骨と皮膚の間に血液が蓄積することによって引き起こされます。

血液がたまることによって耳が腫れたり、しこりのように硬くなることがあります。初期症状は比較的軽いですが、放置すると耳の形が変形し、硬化してしまうことがあります。
この変形はスポーツ選手の間で多く見られ「カリフラワー耳」と呼ばれています。耳の皮膚と軟骨がくっつくことで、凹凸が目立つ状態です。

耳介血腫は緊急を要する症状ではありませんが、変形が起こると手術が必要になったり、耳の感覚や聴力に関わってきたりするため、できるだけ早い治療が推奨されています。

耳介血腫

耳介血腫の原因

耳介血腫の一般的な原因は、外傷や打撲です。耳に外力が加わることで皮膚の下にある血管が破れ、血液が軟骨と皮膚の間にたまります。
耳介血腫は、外力の加わりやすいレスリングやラグビー、ボクシングといった格闘技系など、相手と接触する機会の多いコンタクトスポーツでよく見られるのが特徴です。

まれに、日常生活のなかで耳介血腫を発症することもあります。たとえば、畳や寝具で耳介が擦れることで、耳介血腫を生じるケースも報告されています。また、ピアスの穴も耳介血腫に加えて、細菌感染の原因になることがあるため、注意が必要です。

外傷や打撲、摩擦による耳介血腫は、発症した段階ですぐに治療すれば比較的早く改善されますが、放置すると血腫が固まり、耳が変形する可能性が高くなります。

耳介血腫の前兆や初期症状について

耳介血腫の初期症状として、耳たぶの腫れや痛みがあらわれます。最初は小さな腫れですが、放っておくとだんだん大きくなり、痛みも強まることがあります。
また、腫れとともに耳の一部が赤くなったり、触ると熱っぽく感じたりすることが多いです。耳の中に血液がたまることで炎症が進むため、腫れが広がるにつれて耳全体が熱を持つように感じられる場合もあります。

さらに、耳介血腫が進行すると耳の形が変わってしまい「カリフラワー耳」と呼ばれる耳介の変形が引き起こされることがあります。カリフラワー耳は耳介血腫の後遺症で、見た目の問題だけでなく、イヤホンや耳栓、ヘッドホンを使うときの違和感や不快感もあります。

また、耳のくぼみが変形すると、耳の穴が狭くなることで音が聞こえづらくなる可能性もあります。耳に触れたときに、柔らかくて液体がたまっているような感触がある場合は、耳介血腫の可能性があるため、気づいた段階で医療機関を受診することが大切です。

耳介血腫の検査・診断

耳介血腫の検査・診断は、主に医師の視診と触診で行います。
耳介血腫と似た症状を引き起こすものとして、蜂窩織炎やケロイド、耳介軟骨膜炎、血管腫、皮膚がん、日焼けなどがあるため、これらとの鑑別を行うことも重要です。

問診・視診・触診

はじめに、耳介の腫れや痛みが生じた経緯や、外傷の有無を聞き取ります。耳にどのような外力が加わったのか、いつから症状があらわれたのかなどを把握することで、原因や治療方針を判断する材料となります。

視診では、耳の腫れの程度や赤み、膨らみ、形状の変化を確認し、血腫かどうかを判断します。また、腫れの感触を確かめることで、血腫がある場合には液体がたまっている状態が確認できます。

超音波検査

視診と触診だけでは判断が難しい場合や、より詳しい検査が必要な場合は、超音波検査(エコー検査)を行います。超音波検査では、腫れの内部に血液がたまっている様子をリアルタイムで確認でき、耳介血腫の正確な位置や大きさ、血腫の状態を把握できます。
痛みをともなわず、短時間で検査が可能なため、患者さんの負担も少なく済むのも特徴です。

耳介血腫の治療

耳介血腫の治療は主に、穿刺(せんし)や切開による血液の排出が行われます。
血腫が自然に吸収されることはほとんどなく、放置すると血腫が固まり耳の軟骨が変形する可能性が高まります。

穿刺による排液

耳介血腫が初期の場合には「穿刺」が行われます。穿刺は、局所麻酔下で血腫のある箇所に針を刺し、内部にたまった血液を排出する治療法です。

穿刺による血液の排出は再発することが多いため、数回の処置が必要な場合も少なくありません。また、耳介血腫が生じてからすでに長時間経過している場合は穿刺による排液はできず、切開が必要になります。

切開と縫合

すでに耳介血腫が生じてから長時間経過している場合や、血腫が大きかったり繰り返し再発したりする場合は、切開して血液を排出した後、耳の皮膚と軟骨を縫合する治療が行われます。

血腫部位を圧迫して止血するうえ、軟骨と皮膚をしっかりと接着するため再発のリスクが低くなります。耳介血腫による変形を防ぐことはできますが、手術の跡が耳に残るデメリットがあります。

穿刺や切開後のケア

穿刺や切開を受けた後は、再び血液がたまることを防ぐために耳の圧迫固定をしばらく継続する必要があります。
また、術後の通院も欠かさず行い、経過観察を続けることで、再発や感染症のリスクを最小限におさえることができます。

耳介血腫になりやすい人・予防の方法

耳介血腫は、コンタクトスポーツを行う機会が多い人に発生しやすい症状です。具体的には、レスリングやラグビーなど、耳に直接的な衝撃が頻繁に加わりやすいスポーツで耳介血腫のリスクが高まります。先述したように、ピアスを開けている人も耳介血腫を生じる場合があります。

予防策として、コンタクトスポーツなどの頭や耳の外傷を起こす可能性のある活動を行う際には、耳を保護するヘッドギアやイヤーパッドの着用が推奨されています。
これらを装着することで耳の外傷や圧迫を防げるため、耳介血腫の予防につながります。

また、もし耳介血腫が生じてしまった場合は、迅速に耳鼻咽喉科や形成外科などの医療機関を受診して血液を排出することも予防の一環となります。


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