監修医師:
渡邊 雄介(医師)
所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長
扁桃肥大の概要
扁桃肥大(へんとうひだい)とは、扁桃腺が炎症はないものの、通常よりも大きくなっている状態のことです。
扁桃腺は、喉の奥にあるリンパ組織で、口を大きく開けると左右に見えるこぶのような部分です。体内に侵入しようとするウイルスや細菌を、喉の周りで捕まえてブロックする役割をもちます。
扁桃腺には、口蓋扁桃や鼻の奥にあるアデノイド(咽頭扁桃)などが含まれます。
子どもの扁桃腺はまだ十分に発達しておらず、成長過程で大きくなることが一般的です。大きいだけで症状がない場合は、治療はせず自然に小さくなるまで様子をみます。
ただし、日常生活や健康状態に影響を与える場合には、治療を検討しないといけません。
とくに呼吸障害、嚥下障害、睡眠障害、感染症をくりかえすなどの症状がある場合には、肥大した扁桃腺の切除を検討します。
扁桃肥大の原因
扁桃の主な役割は、口や鼻から侵入する細菌やウイルスなどの異物を早期に見つけることです。
異物を発見すると、それに対して抗体を作り始めます。
このように体内で感染を広げないようにすることが、扁桃の重要な役割です。
扁桃腺は、成長過程で大きさが変わります。
子供の扁桃が大きくなるのは正常な現象であり、通常は5歳から9歳のころに最も大きくなります。
その後、成長が進むにつれて再び小さくなることが一般的です。
ただし、変化には個人差があり、一人ひとりの成長や健康状態によって異なります。
扁桃肥大があるからといって、必ずしも炎症が起こりやすいわけではありません。
ただし、扁桃が何度も炎症を起こした場合、結果的に扁桃が大きくなることがあります。
扁桃肥大の前兆や初期症状について
扁桃が大きいだけでは、症状はほとんどありません。
ただし、扁桃が大きくなりすぎた場合に呼吸障害や嚥下障害、睡眠障害などの症状が起こることがあります。
呼吸障害
鼻が詰まり鼻で息をするのが難しくなるため、口で呼吸するようになります。
また、口を開けていることが多いため、口の中が乾きやすくなり口臭や会話のしづらさなどにつながる可能性があります。
嚥下障害
大きな食べ物が喉を通りにくくなることがあり、食事の量が減ったり、食事に時間がかかるようになったりします。
睡眠障害
いびきが発生したり、睡眠時に息が止まってしまったりする(睡眠時無呼吸症候群)ことがあります。
小児の場合、日中の眠気のほか、多動(じっとしていられない行動)、衝動的な行動、学習障害などがみられることもあります。
感染症
鼻と耳をつなぐ管(耳管)の通りが悪くなった場合、中耳炎を何度も繰り返すことがあります。
扁桃肥大の検査・診断
扁桃肥大の検査・診断では、まずは医師が扁桃の状態を目で確認します。
さらに、扁桃腺の肥大を診断するために、必要に応じていくつかの検査を行うことがあります。
ファイバースコープ検査
鼻と喉の奥の状態を調べるためにファイバースコープ検査を行います。
ファイバースコープは、多くの細い光ファイバーをまとめたものです。
先端にカメラが付いており、このカメラを自由に動かして細かい映像を撮影することで、狭くて複雑な場所の観察が可能です。
画像検査
CTやレントゲンを使って、扁桃の大きさを確認します。
睡眠時無呼吸の検査
睡眠時無呼吸症候群を診断するために行われる検査には、アプノモニターや睡眠ポリグラフがあります。
アプノモニターは寝ている間に行う検査です。
指や鼻にセンサーをつけ、「呼吸の様子」「血液中の酸素量」「いびきの有無」「脈拍」を測定します。
これらのデータから、無呼吸や呼吸が浅くなる回数を調べられます。
アプノモニターは簡易型の検査のため、自宅で行えることが特徴です。
睡眠ポリグラフは、眠っている間に脳の活動、眼の動き、心臓の動き、呼吸、いびき、そして血液中の酸素量を細かく測定します。
この検査を行う場合は、医療機関に1泊する必要があります。
扁桃肥大の治療
扁桃肥大は特別な症状がない場合は、子どもでも大人でも治療の必要はありません。
ただし、扁桃が大きくなりすぎて日常生活に影響がある場合、手術で取り除くことが検討されます。
手術療法
手術療法には喉の奥にある扁桃腺を取り除く「口蓋扁桃摘出術」や、鼻の奥にあるアデノイドを切除する「アデノイド切除術」があります。
全身麻酔下で行われ、開口器で口を開いて電気メスなどの器具で両側の扁桃を摘出します。
手術は子どもにとって負担が大きいため、慎重に検討する必要があります。
手術は口蓋扁桃摘出術とアデノイド切除術を一緒に行うこともあれば、どちらか一方だけ行うこともあります。
手術の時間は1時間ほどで、口の中を切るため身体の外に傷は残りません。
手術を行った場合、1週間程度の入院が必要です。
鼓膜チューブ留置術
扁桃肥大が原因で中耳炎が起こっている場合は、鼓膜に小さなチューブを挿入する「鼓膜チューブ留置術」を行うことがあります。
耳の奥の部分にたまった液体を耳管を通して鼻の奥に抜けやすくすることが目的です。
これにより、耳がふさがった感じや聞こえにくい状態の改善が期待できます。
鼓膜の穴はチューブを抜けば自然に閉じます。
留置したチューブは、2年以内に自然に抜けることがほとんどです。
扁桃肥大になりやすい人・予防の方法
扁桃肥大は幼児期に多いことが特徴です。
生理的な扁桃肥大は特に問題がないことがほとんどで、予防法もありません。
ただし、炎症による肥大の悪化を防ぐために、扁桃炎の予防に努めましょう。
生活上の予防
バランスの良い食事を摂ること、しっかりと休むこと、そして定期的に運動することが、体の防御機能を強くします。
乾燥した空気は喉を刺激するため、適切な湿度を保つことも重要です。
冬場には、加湿器を使って部屋の湿度を管理することが効果的です。
感染予防
細菌やウイルスを体内に入れないようにしましょう。
外出時にはマスクの着用、外出から帰ったときや食事の前などには手洗いやうがいといった基本的な感染予防を徹底することが大切です。
関連する病気
- 扁桃炎
- アデノイド肥大
- 睡眠時無呼吸症候群扁桃炎
- 浸出性中耳炎
- 口腔乾燥症
参考文献